秋の夜長はフレンド局と − 月夜見山から御前山へ

(1996/10/26,27、東京都西多摩郡)


1・御前山へ :

秋の長雨シーズンもそろそろ終り気圧配置も冬型が定着し始めるこの季節は例年アマチュア無線のフレンド局との泊りの山行の時期だ。雨の心配が少ないこの季節は山頂でののんびりとした無線運用にふさわしい。そして秋の夜長をのんびりと一杯飲みながら山で過ごすのは最高だ。親しい仲間がそこにいれば最高の一夜は保証されたものとなる。JK1RGA河野さん、7L3BDA鈴木さんとの山行計画は奥多摩・御前山に決定。山頂直下に立派な避難小屋があるというのでそこで暖かい一夜を過ごそうという魂胆だ。又かねてから甲武信岳から奥多摩駅までつながっている自分の足跡と、丹沢から生藤山までつながっている自分の足跡を接続したい、という望みがあった。今回ここを歩けば後残すは笹尾根の一部のみとなる。コースとしても申し分なかった。

体験の森から御前山へ直登する二人とは別に、足跡をつなぐ私は別のルートで山頂を目指す。都民の森でバスを降り奥多摩周遊道路を歩き始める。昨年はこちらから三頭山、丸山へと歩いたのだ。穏やかな尾根歩きの楽しめるコースだった。

奥多摩周遊道路はバイクが多く路肩歩きは怖い。こんな道に歩行者がいるとはまさか思わないであろう彼らはコーナリングの先にザックを背負った私を見つけると慌てて減速し傍を通り抜けていく。2ストロークエンジン独特の排気臭が残る。

月夜見山は周遊道路からわずか入った所の小ピーク。相変わらずバイクの音がうるさい。南面は杉の植林帯だ。展望は無い。少し下りると前方に御前山と惣岳山が兄弟のように仲良く並んでいる。結構遠く感じられるて少しうんざりする。

周遊道路に出て駐車場からそのままつっきって登山道に入っていく。急坂に落ち葉が絨毯のように積もっている。紅葉見物らしい街着の男女が及び腰で下りていく。落ち葉の下は湿った土で確かに滑りやすい。スニーカーではきついかもしれない。鞍部まで下りきるとで落ち葉が深く、ザッザッザッと歩くたびに葉が舞い上がる。紅葉は今が盛りで左手には黄や橙の山肌の下に濃緑色の奥多摩湖が沈んでいる。

小河内峠を超えると惣岳山への登りに差し掛かる。さっきから急速にどんよりとしたきた空が気になっていたが惣岳山直下で大粒の雨となる。慌ててゴアの上着を着込む。パラパラとフードを叩く雨粒がリズミカルだ。惣岳山から御前山へは遠めに見たより上り下りはきつくない。通り雨が空気中の不純物を一切取り除いてくれたのか一雨去った御前山山頂からは迫力ある展望がのぞめた。石尾根とその背後の埼玉県との県境尾根が重なりあい、尾根尾根が克明なシルエットで目に飛び込んできそうだ。尾根のすぐ上を暗い雲々がスーッと流れていく。あれが雨を降らしたようだ。この山頂でおちあう筈だった河野さん、鈴木さんはどうやらさっきの降りで一足早く小屋に入られたようだった。


2・立派な東屋で素晴らしい夜を! :

(理解に苦しむ
立派な東屋)

さて山頂で無線運用をしていると河野さんから声が掛かった。小屋からだ。鈴木さんが「ホテルで一足早く待ってますよ!」と言う。

そんな声を聞くと運用もほどほどにして早く小屋に行きたくなってしまう。しばらく階段道を下りると左手から道が合流する。これを入るとすぐに小屋に。山頂からだと少し分かりずらい。両氏と合流。なるほど避難小屋は真新しくて立派だ。と河野さんが「ほらほら」と上を指差す。良く見るとガラスサッシの上は四周ぐるりと壁が無い。これでは密閉された小屋ではなく「立派な東屋」というべきで、唖然としてしまった。小屋を長持ちさせるためなのかその目的は分からないのだが、外気がスースーと入ってくるのには参った。

我々以外の同宿者は山慣れた風の高年夫婦一組と富士山の撮影のために登ってきたという62歳の男性、計3人。夫婦は簡単に食事を済ませるとタオルを頭に巻き付けてさっさとシュラフに潜り込む。行動に無駄が無い。さてもう一人は。さっきから独り言を言っているがどうもカメラ、レンズ一式はあるがシュラフを忘れたというらしい。先行き不安。

ビール片手の楽しい夕食が終るともう寝るだけだ。食べ物が胃に入ると体は温まるがじっとシュラフに横たわるとしんしんと冷気が頭上から降ってくる。毛糸の帽子でも持ってくればよかった。さて例の男性は・・。しばらくうとうとするが案の定彼は「寒い寒い」と唸っているようで目が覚めてしまう。どうも膝をかかえて丸くなっているようだ。まさかシュラフを奪いに襲いはしないだろうが・・。年齢からいえば若い私がシュラフを貸すべきかもしれない。かといって私もこれがないと眠れないし。何か自分が悪い事をしているように思えてくる。だいたい10月の山にシュラフを持ってこないとはなんたる非常識。立派なカメラ一式もいいけどまずはシュラフだろうに・・・。だんだんと腹が立ってくる。それに何だ、このスースーの小屋は。良心の呵責と腹立ち。時計はなかなか進まない。秋の夜長はこうしてしんしんとふけていく・・・。

東の空が明けてきた。起き上がってみるとくだんの彼はカメラザックもろとももういない。撮影に出向いたようだった。よかった、無事だったんだな、と少しホッとする。「いやー気になって寝られなかったね」と河野さん。どうやら皆同じ思いだったようだ。
(杉林の中の鋸山山頂。左から
7M3LKF、JK1RGA、7L3BDA)

甘い紅茶を飲みパンとチーズ。ザックを締め直すとさぁ今日も一日の始まりだ。多少のアップダウンを続けながら道はかなり高度を下げていく。左手に川乗山が大きい。右前方には少し尖った大岳山。昨日の寝不足が効いたのか足の歩みがいまひとつ良くない。

この調子だと大岳山まで足を延ばすのはちょっときついかな、鋸山で腰を据えて無線運用したほうがいいか、などと話しながら歩く。天気はいいのだが放射冷却現象か、妙に寒い。結局大岳山への縦走は諦め、途中の鋸山でQRVとする。欲張らず一箇所での無線運用に長い時間を割く事にする。林道手前の避難小屋は古いが立派な造りでもちろんスースーではない。こちらに泊まれば暖かな一夜だったかもしれない。

峠の杉林に囲まれた鋸山の山頂は日が届かずしんしんと冷える。交替で無線を運用するが待っていると冷えて座っていられない。だいたい薄暗い杉林は居るだけで気が滅入ってしまう。無線を終え腰を上げるとようやくホッとする。


3・ビール片手によもやま話 :

奥多摩駅への鋸尾根は長い。ぐんぐん高度が下がる。部分的に鎖の混じった急な尾根は結構足にこたえる。杉と雑木林が交錯する。林越しの氷川の集落はまだまだ低くうんざりする。長い愛宕神社の石段下りがこのコースのフィナーレとなった。

発車の時刻まで間がない奥多摩駅で慌ててビール。発車のベルとプシュッと缶が開くのは同時。食料の残りを膝の上に広げグイグイ喉が鳴る。実は鈴木さんにとって本格的な泊まりの山はこれが初めて。小屋での夕食の楽しい一時、山の朝のすがすがしさ、無事歩ききったという充足感、などで感動が大きかったようで嬉しかった。電車の揺れが酔いを呼ぶのか声だかに色々な話が出る。子育ての仕方、年頃の娘をもつ身としての親の立場・・、山と無線を超えた話題が出るのも山での一夜を過ごした後だからだろうか。これじゃぁ全くビールが足りない!しまった!

笑い声と話し声でいつもは長い立川までの行程があっという間だ。西の空に遠ざかっていく山々を見る。さっきまであそこに居たのだ。素晴らしい時間を過ごしてきたのだ・・・。ポイントがガタガタ鳴り駅は近い。車窓の外はもう薄暗く、豊かだった秋の日ももう暮れようとしていた。

(終り)

(コースと標高 : 都民の森 9:50−月夜見山・アマ無線 11:00/11:55−惣岳山 13:40−御前山・アマ無線 14:00/15:30−避難小屋(泊)15:40/5:50 −鋸山林道 7:20−鋸山・アマ無線 8:00/13:15−奥多摩駅 15:15、月夜見山標高1147m、御前山標高1405m、鋸山標高1109m)


アマチュア無線運用の記録

月夜見山

1147m、東京都西多摩郡檜原村
移動日 移動者
1996/10/26 7M3LKF
PICO6(1W)
ダイポール(1.8m高)
3局交信(50MHzSSB)
最長距離交信:川崎市高津区、JS1MPX
所感
奥多摩周遊道路のわきに控えるピーク。北面は杉林、南面は雑木林。山頂からは下をいくバイクのけたたましい音が樹林越しに聞こえた。訪れる人は余りいないようだった。

無線の成果はどうゆうわけかさっぱりだった。もっといいアンテナを建てればそれなりかもしない。


御前山

1405m、東京都西多摩郡檜原村
移動日 移動者
1996/10/26 7M3LKF
PICO6(1W)
ダイポール(2.5m高)
7局交信(50MHzSSB)
最長距離交信: 長野県上伊那郡、JE7CWH/0
所感

奥多摩の中では人気の山なので登山者も多い。私は一雨去ったあと山頂に立ったが、そんな中他に数パーティが寒い山頂に憩っていた。

一雨去った山頂からは黒い雨雲が風に流されていき、それにより空気が澄み、北側に石尾根と埼玉県との県境尾根が迫力一杯に重なって見えた。

山頂は広くアンテナも設置しやすい。

(山頂にダイポール。山頂からは石尾根方面の眺めが良かった。)


鋸山

1109m、東京都西多摩郡奥多摩町
移動日 移動者
1996/10/27 JK1RGA,7L3BDA,7M3LKF
FT690mkII+軽量リニア(10W)
ダイポール(4.5m高)
7M3LKFの交信局数: 21局(50MHzSSB)、1局(50MHzCW)

最長距離交信:
−群馬県甘楽郡、JF2HBH/1(物語山)
−茨城県結城市、JH1LLQ
所感
山頂はかなり成長して背の高い杉の植林帯に包まれており木漏れ日さえも殆ど届かない。移動した秋の一日、薄暗い山頂の中寒く震えながら運用した。

山頂は立ち木が多いので大型のアンテナは無理だろう。電波の飛びもかなり奥まった場所柄余り良いとは思えない。山頂直下まで林道が通じているので比較的移動はかけやすいかもしれないが。(林道から山頂までは約15分位)

Copyright : 7M3LKF,1997/10/15