丹沢、雨山峠から檜岳へ - 静かな晩秋の一日 

 (1995/11/25, 神奈川県足柄上郡)


単独行。日帰り。寄まで車利用。寄大橋の横に車を止め歩き出す。1月に鍋割峠からの下山に使ったルートを登りかえす。キャンプ場から寄沢沿いに登っていく。沢の右側に高度をかせぐ。鹿柵が幾つか現れくぐりながら行く。登山道は以前思ったほど荒れておらず快調に歩く。沢水を飲もうと不安定な姿勢をとったら見事に片足が滑る。一瞬遅れて冷たさが足に走った。

寄・コシバ沢を右手に分け寄沢を高巻いて登れば上流とは思えない小広い河原が出現し、涸れた小沢が雨山峠の直下まで続く。水のない源頭部から短いつづら折れのワンピッチで雨山峠へ。雨山峠はとても小さい峠だが鍋割峠からの尾根道とユーシンに下りる道が交差し、いかにも峠らしい雰囲気だ。狭くくびれた稜線の向こうにぴたりと真っ白な富士山が収まっている。

稜線には一番乗りだったようで踏まれていない霜柱を楽しみながら踏み歩く。真っ白な尾根道に自分の足跡が点々と延びていく。雨山に向かって枯れた雑木林に包まれた尾根道は展望こそ得られぬものの静けさには思う存分ひたれる。ここまで誰にも会わない。丹沢もこのあたりは全く静かでにぎわう塔ノ岳あたりとはとても同じ山域とは思えない。
(眼下にイワシ色の相模灘が
広がった)

檜岳山頂は訪れる人の少なさに比例してかヤブっぽく、原始性が残っている。多くころがる鹿のフンもそれを物語る。山頂でしばらくアマチュア無線運用をしていたら今日初めて他の登山者に出会った。つづけて数人。でもそれだけだった。一服終えた彼らが山頂を去ると又もや静寂。

心配していた登山道の状況はさして悪くなく、檜岳から少しの間多少踏み跡が乱れていたが後は鹿柵に沿った明瞭な路だった。

人気のない登山道を傾きかけた日に追われるように下りる。カヤトの原を歩く。ザッツザッツとカヤトが鳴る。伊勢沢の頭からは西日にイワシ色に輝く相模湾が眼下に果てしなく広がり、それは海へ向かってまっすぐにゆっくりと降下していくような錯覚を覚える眺望だった。

秦野峠のベンチで大きく進行方向を変え、少し登ると眼下に寄からの林道の峠道が見えた。ここからは舗装された林道歩き。今日も無事歩ききったとほっとする。

林道歩きはたんたんとして長い。石蹴りをしながら歩くうちに闇が足元から急速に忍び寄ってきた。月齢2.7歳の弱い月明かりを頼りに歩くが、車を停めた寄大橋に着くころにはすっかり闇に包まれた。

一面の霜柱と鹿のフン、人気のない稜線に風に鳴るカヤトの原。静かな晩秋の一日だった。

(終り)


(コースと標高 : 寄大橋 7:30−寄・コシバ沢 8:50−雨山峠 9:30/9:40−雨山 10:10−檜岳・アマ無線 10:40/14:25−伊勢沢の頭 14:50−秦野峠 15:30/15:35−林道出合い 15:55 - 寄大橋 17:00、標高 : 雨山 1176m、檜岳 1166.8m、伊勢沢の頭 1177m)


アマチュア無線運用の記録
檜岳 1168m 神奈川県足柄上郡
無線機: FT690(2.5W) アンテナ: デルタループ 29局交信(50MHzSSB) 最長距離交信 福島県いわき市、7M1VUN/7
(鹿の気配が濃い山頂)

雨山から檜岳へかけての稜線は丹沢の中でも訪れる人の少ないコースではないだろうか。私が歩いた初冬の日は出会った人はわずかに数人だった。

檜岳の山頂は訪れる人の少なさに比例してかヤブっぽく、丹沢の他のピークよりもはるかに原始性が残っている。そこらじゅうに落ちているフンからも鹿の気配を強く感じさせる。

ヤブっぽいのでポールを立てる添え木さがしには事欠かないが肝心の電波の飛びは今一つ。標高的に関東平野方面は鍋割山からの尾根、そして大倉尾根にブロックされているせいかきつい。9が聞こえていたが交信出来ず残念だった。

静かな一日を山で過ごすにはもってこいのルートだと思う。

Copyright : 7M3LKF, 1998/1/7