初めての山岳移動は大山で

(1994/9/2、神奈川県伊勢原市)


8月始めに開局したアマチュア無線・50MHzバンド、夢中で運用しているうちにはや1ヶ月、無線のやり方もそれなりに覚え交信局数も多少は増えた。こうなるとジーッとはしていられない。そろそろ山に登って無線運用をやりたい、そんな気分が高まってきた。なにせポータブル局と称する移動先から運用するアマチュア無線局は50MHzバンドの場合ある種の花形であり、固定局は移動局を捜して交信する、というスタイルが中心だった。山岳移動局はそんなポータブル局の中の更に花形であった。私も花形になりたい。

初めての山岳移動の山はどこが良いのだろう・・。手近で、かつ電波の飛びの良い山は。目的地はすぐに浮んできた。丹沢の大山だった。自宅から良く見える大山は相模平野と丹沢山域の境目のピラミッド型で顕著な山だ。山麓からその姿が良く見えるという事は山頂からも関東平野一帯に障害物がないという事で、まさに自然の電波塔であろう。

思い立ったが吉日、実行に移した。大山に登るのは小学校6年生の時以来だからもう20年近くぶり、ということになる。小型の50MHzのトランシーバとアンテナ、念のために430MHzのハンディトランシーバもザックにつめて車に乗った。だがここで今思えば致命的な間違いがあったのだが、それに気づくのは後だった。

ヤビツ峠の駐車場から表尾根方面の縦走路とは逆にバス停のすぐ脇の階段を上がる。これがイタツミ尾根の取付き点だ。20年前に登った時は当時クラス担当だった若く山好きなS先生がクラスの有志を募って大山登山を企画し、私も悪友達とそれに参加したというものだった。私は山には全く興味がなかったが仲間と非日常的な場所に出かけられるのが楽しみだった・。まぁ遠足の延長であった。当時はまだヤビツまでのバスがなかったのか麓の蓑毛までバスに乗り、そこから春岳沢沿いに登りヤビツまで出てそこからイタツミ尾根に入った。登りついたヤビツ峠には車道が通じていたのを見てひどく落胆した事を今でも良く覚えている。

イタツミ尾根を登るがもう20年前の記憶はなかった。滑りやすい丹沢特有の赤茶けた土が深くV字型にえぐれておりそこを注意しながら登る。時折岩場がコース上に現れる。こんな道だったのかなぁ・・、確か蓑毛から最初は走るように登っていったのだが後半は完全にスタミナが切れてこの辺りでは最後尾をS先生に付添われるように歩いていた、そんな事を何となく思い出しながら歩いた。

ケーブルカーからの表参道の道をあわせると山頂までは僅かであった。20年ぶりの山頂はもちろん昔の記憶は殆どない。ただ確かにあったはずの茶店がそこにはなく缶ジュースの自動販売機が2台、柵の中に置いてあった。山頂は阿夫利神社の奥社が立っているのだが普段は閉っているようでこの日も雨戸に閉ざされていた。生憎の曇天なので展望は得られない。20年前の思い出にふける間もなく早速最大の目的であるアマチュア無線にとりかかる。

50MHzの無線器材を出して運用するがバンド内誰も居ない。それでは、とCQを出してみる。初めての山頂移動先からのCQだ。が誰も呼んでこない。おかしいな・・。

ここでようやく自分の誤りに気づいた。今日は平日なのである。平日の50MHzバンドは昼間は誰も運用していないのであった。これは50メガで移動運用するには致命的な間違いであった。知識としては知っていたその事も初めて事実として体験したのだった。8月中は皆夏期休暇やお盆などでそこそこ平日でも運用局がいたので安心していたのだが、実態はこうだったとは。がっかりしてしばらくCQを出し続けていると、それでも呼んできた局がいる。会社の昼休みの時間帯はバンド内をワッチしている局がいるらしかった。結局4局と交信が出来た。欲求不満であるがこれが限界、と無線終了。念のため持ってきた430MHzのハンディトランシーバでバンド内を聞いてみる。手軽なこのバンドはいつものように沢山の局が出ているが仲間内の連絡や不法トラックなども出ており、運用方式・マナーとも50MHzとは違い、相変わらず何の興味も持てないバンドであった。

遠くで雷の音がする。折角なので山頂の檻入りの自販機からジュースを買い慌てて下山の途につく。滑りやすい登山道を急いで下りるがどんどんと雷鳴が轟き空が真っ黒になってくる。ぽつぽつと大きな粒が落ちてきて、もう少しと走る。が、駐車場まであと一歩のところで滝のような土砂降りとなった。

ずぶ濡れとなり車の中にホウホウの態で転がり込み乾いた服に着替える。雨飛沫で外が真っ白になった。フーッと大きな息をつく。20年ぶりの大山での初めてのアマチュア無線移動運用、なんとか終った。成功した移動運用だったとは決して言えないがまぁこんなもんだろう。なぁに焦る事はない。これから幾らでも山頂での無線運用を楽しめばいいのだから・・。

キーを回しワイパーを動かし、ヤビツ峠を後にした。

(コース:ヤビツ峠−大山・アマチュア無線−ヤビツ峠 大山1252m)   


大山

1252m、神奈川県伊勢原市
1993/9/2 移動者:7M3LKF
バンド:50メガSSB
無線機:MX-6S(1W)
アンテナ:1/4波長ホイップ
4局交信
最長距離:東京都東久留米市、JF1QDI
初めての山岳移動運用。大山は関東平野と交信するには屈指の移動地であるが、交信実績はわずかに4局。その理由は

−平日の移動
−アンテナに垂直偏波系のホイップアンテナ(1/4波長)を使用

の2点ではないだろうか。(ホイップアンテナの飛びの悪さ・耳と飛びの極端なアンバランスに気づくのは更に何度かホイップでの移動をした後に実感するのであるが。只逆にそんな設備でも4曲と交信出来てしまうのは大山のロケのなせる業かもしれない。)

山頂は平日でもハイカーが多い。無線はやりずらい。

(大山山頂にて。こんな風に運用した。)

Copyright : 7M3LKF Y. Zushi, 1998/10/7