辛かった東谷山 − 上越国境の山スキー 

  (2015年3月28日、新潟県南魚沼郡湯沢町)


ガイドブックの記事もありかねてから興味のあった上越国境は田代スキー場(苗場スキー場の北側)の対面にあたる東谷山(1554m)に山スキーで目指した。早朝の新幹線で越後湯沢を目指す。いつものようにSさん(JI1TLL局)とご一緒させていただく。

越後湯沢駅前から苗場スキー場行きのバスへ。車内は外国人も多くいつしか日本のスキー場も国際化したか、と思う。みつまたかぐらスキー場で大半が降りてしまった。確かにもう4月が近いこの時期、ゲレンデスキーを楽しむのであればみつまたかぐらになろう。こちらは田代スキー場の二居で下車。二居集落(海抜832m)からシールを貼って登り始める。自然歩道の通る二居峠(1020m)間では簡単に登れるというネットの記事があったが今日は自分はヘロヘロだ。汗が妙に出て、足が出ないのだ。実は前夜は事情があり帰宅はAM1時半になってしまった。一方今朝4時半起床、睡眠が3時間のみ。これが今日は最後までボディーブローで効くことになった。

二居峠に登りついたがもはや一仕事終えた気持ちだ。屋根だけ出している東屋の、その屋根にスキーを履いたまま腰掛ける。ここから東谷山への尾根に乗るのだが、本当にいけるのか、体がだるくて、気乗りがしない。もっともこれまでも夏山で、夜行列車で睡眠数時間、ってのもあったよな、あれでもなんとか登れたよな、と過去の事例を思い出す。

尾根道を進み始める。後発した1パーティが先行する。北西からの風による雪庇が巨大に成長しており慎重なルート取りが求められるコースとなった。やがて尾根が狭まり、右手は雪庇、左手はブナの急斜面、というイヤーなルートに。しかも雪面は前後に波うっており歩きにくい。非常にテクニカルな場所で、思わず足がすくんでしまう。左手のブナ林、こけたら止まらない。無傷ではすまないだろう。雪が緩くシールが効きずらい。こけずともずり落ちると思うだけでも気が遠くなりそうだ。

早くここを抜け出したい。まるで蟻地獄におちた蟻の気持ちだ。深呼吸をして、一歩一歩慎重に進める。なんとかきわどい箇所を過ぎると尾根がさーっと広がった。地形図を見てももうここから先は危険箇所もなさそうだ。がこれまでの寝不足によるクラクラ、緊張と で一気に体が動かなくなってしまった。みるみる先行するSさんとの距離が開いていくがもう10歩ごとに停止。目の前が真っ暗、これが貧血って言うのだろうか?立っていられない。脂汗が妙に出てくる。明らかにおかしい。ブナの疎林の中 の心地よい登りの筈がもう苦吟の道。おまけにどういうわけか足がつってしまい、山頂直下の雪の壁でもう立つことも不可能となり、ザックを放り投げ 板を外し雪面に倒れこんだ。雪の冷たさがウェアを通して伝わってくる。5分くらい倒れていると少し気がしっかりしたのでツボで歩きはじめた。10歩もあるくともう東谷山(1554m) 山頂の一角でSさんが待っていた。結局登りに3時間半かかってしまった。

Sさんが430でCQを出すとすぐに地元新潟の友人局、JA0LTHさんが呼んでくれた。私はもうCQを出す気力 もなく、SさんのあとLTH局と交信させていただき閉局。山頂は暖かく、まっさおな空の下巻機山から谷川連峰、そして苗場山と、大パノラマだ。がじっとしていると再び足がつってきて苦悶。とにかくこんなに苦戦した山はこれまでなかった。こんな足でこれから下山にかかると思うと気が重くなってしまう。

とはいえそんなことも言ってられない。シールを剥がして慎重に滑り始める。ここから貝掛温泉への下山ルートはこの東谷山の北西に広がる大きな谷を滑って行くと言うもの。山頂からの標高差200mは特に急な谷でこれまた足がすくんでしまうが、ゆっくりシュテムでまわして行くしかない。バックカントリースキーで有名な山ということもありシュプールは豊富だが、どれもこの沢にデブリ、スノーボールを発生させており滑りにくい。幸いにブナの疎林帯で雪崩のリスクは少なそうに感じる。

海抜1350m付近でやや斜度が緩むがまだまだ気が抜けない。が足がもう言うことをきかなくなった。もうさっきから転倒の連続。海抜950mまで下 りるともうそこは緩やかな谷になりここからは本来はルンルンのルート。がここからも10mごとに転倒を繰返してしまう。平地で転倒。一体何なのか?ようやくゴールの国道17号が見えた地点でスキーをはずし、敗残者の気分で貝掛温泉のバス停に到着。

バスに揺られて越後湯沢駅にもどる。駅前の共同湯につかるが、もう体が動かず湯から出ることが出来なかった。

この山は夏道がない山と言うことで、積雪期限定の山になるのだろう。ガイドブックでの紹介で気になっていた山でしたので宿題を果たした気はするが今日はSさんに一日ご迷惑をかけてしまった山だった。やはり寝不足で山に行っては駄目だ。山自身はコンパクトでバックカントリースキー向きの良い山だとは思ったが今日に限っては結局最後まで冴えない山だった。



(上:二居峠から先の稜線は雪庇が
発達していた。下:東谷山山頂)
(上:雪庇の稜線を登る。高度感が
半端ではなかった。下:北面斜面を滑る)
(今回のルート図。GPSデータをカシミール3Dで展開)

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