久々にきつい行程、荒島岳 

 (2013年6月7日、福井県大野市)


荒島岳へ行こうと北陸を目指します。前夜に投宿した福井駅そばのビジネスホテル、翌朝は福井駅発6:34、翌朝一番のJR九頭竜線で1時間の大野駅へ。ところがこの列車は大野どまりで荒島岳の登山口の勝原駅までは行きません。勝原に行く列車はその2時間半後でこれではとても荒島岳ピストンは無理。ところが上手くできたもので、大野駅から大野市営バスがしっかり接続して勝原駅を通ることを予めチェックしていました。このバス、バスと言うものの実態はトヨタのハイエースで10人も乗れば一杯でしょう。その中に客は自分のみ。途中から地元のおばあさんが乗ってきましたが、この人と運転手氏の越前弁の会話に挟まれて、あぁ遠くに着たなぁと実感します。ただ言葉はかなり関西弁に近いイメージで、自分には違和感がありません。

勝原駅でぽつんと下車。集落は10軒程度でしょうか。山間の無人駅から目の上の国道へ。ここは海抜260m程度です。8:10、高度計を更正して歩き始めます。国道に上り廃業した勝原スキー場まで約20分足慣らし。廃墟となったゲレンデロッジ(銀嶺荘という名)わきから一本の舗装路が一気に山に向かって伸びています。ルートとしてはこれを辿り旧ゲレンデトップまで歩くとそこからはブナ林の尾根、都合2時間半で、シャクナゲ平と言う名の稜線の尾根合流地点。そこから山頂へは南に1 時間、ということです。見上げる荒島岳はその中腹までであとはガスの中。展望は得られません。ただ見上げる山肌が高い。壁のようにせり立っています。えー、これ登るのか。大丈夫だろうか・・。 歩き始めの勝原駅が海抜260m、荒島岳山頂は海抜1524m。標高差にして1300m弱、こんな標高差の日帰り山行はここ数年来ご無沙汰なのです。計画段階からわかってはいましたが改めて目の前の風景にやや絶望的な思いを得ます。

ともかく行くしかありません。銀嶺荘横から8:30、歩き始めです。ゲレンデ跡地に伸びる舗装路を数百メートル進みますが斜度がきつく息が上がります。すぐに舗装は終わり、石ころの歩きづらい道に変わります。旧ゲレンデと言うことで木々を伐採したせいでしょうか一体は、潅木・幼木しかなく陽射しを遮るものがありません。じりじりと梅雨の合間の強い日差しにあぶられて汗が滴り落ちます。大型の蜂が偵察にやってきて自分にまとわりつきます。大きさ3cm弱くらいでしょうか。お尻の黄色と黒の縞模様が無いので迷いますが、しかし大きい。もしスズメバチだとたまったものではありません。ただ警戒音と聞く「カチカチ」音は聞こえません。5分ほどじっとしていると何処かへ行ってしまいました。ほっとして歩きだすと何処からともなくまた又飛んできます。結局10分近く停滞して、やや冷や汗もので旧ゲレンデトップへ登り付きました。9:15、ここにはさびたリフトのホイールが放置されています。

ここに「荒島岳登山口」の標識があります。するとこれまではウォーミングアップという意味なのでしょうか。ここからは深いブナ林の中に入り何よりも陽射しが遮られ一気に歩きやすくなりました。道は適度な斜度で足がおもったよりも進みます。ブナの林の中、空気が緑色。自分の体までが新鮮になった気持ちがします。このあたりで一人、また一人と早くも下山者にすれ違います。一体何時から登ったのだろう。すれ違った人によると今日はこれでも10人くらいは入山しているとの由。ともかく進むのみ。緩急ついた尾根道をひたすら登っていきます。標高を記した指導標が時折現れて励みになります。いつしか海抜1000mは越えており、体調は悪くありません。足もよく動きます。よしよし、この調子。と、目の前に急な階段道が見上げるように続いています。ため息を出して登っていきますがもう空が近い。稜線のシャクナゲ平でしょう。

10:37、シャクナゲ平到着。ここにはシャクナゲもなくただの小さな広場です。エアリアマップを見ます。あとここから1時間。まだ300mも登るのか。山頂へむけて、なんとここから下りです。標高差にして30m くらいでしょうか、苦労して登ってきたのに下りとはなんとも悔しい。チキショーと独り言を言いながら下りきって、登りに取り付きます。エアリアマップにはこの先が「モチガ壁」という名で通行注意とあります。更に少し行くと「モチガ壁、滑落死亡事故あり、注意」の看板。にわかに汗が出ますが、登っていくとこれといった難所もありません。急な壁に鎖と梯子。足場が多いので別に頼る必要もありませんでした。似たような登りが続きます。少し進み後を見渡すとシャクナゲ平からの稜線と自分の登ってきた尾根がガスの合間から望めます。このあたりで何人かの下山者と再びすれ違います。目指す荒島岳はまだガスの中。ピークが見えません。急な谷を左手に見ます。まだ残雪がついています。いつしかあたりは潅木となり山頂がなんとなく近そうです。腕時計の標高表示は1400m。がこのあたりから一気に足があがらなくなってきました。うーん、なんとも日ごろの訓練不足。水分を補給して一休み。心と体に鞭打って歩き始めます。

と傾斜が緩んで前方にボーっと小さな祠が見えました。やった、山頂。何とか登れました。11:35、到着です。立派な一等点と山名標識。あいにくと展望は一切拝めません。晴れていれば白山の眺めが素晴らしいとの事ですが残念です。350ccのアルコールなしビールもどきで乾杯。ごくりと喉が鳴ります。山頂まで来ればこれが飲める、とシャクナゲ平あたりからの励みになっていたので、こんなものでも馬の前にぶら下げるニンジンの効果がありました。

430MHzでCQを出すと石川県・松任の局が呼んできました。平日でも結構430は混んでおり、北陸は430MHzも結構使われていることを実感。

一人、又一人と思い出したように登ってきます。ふんぎりがついたので祠に一礼してから下山の途につきます。12:05、出発。下り始めますがガスが濃くなり遠望が閉ざされます。ここでも数パーティ、計5,6名とすれ違います。モチガ壁も難渋することなく通過。シャクナゲ平への登りかえし、僅か30mなのに足がつりそうです。12:45、それでもなんとか登りついてそのままブナの尾根へ。急な階段をおります。とこのあたりから一気に雷が鳴り出し、大粒の雨が猛烈な速さで降りかかってきました。夕立です。あわててレインウェアを取り出し上下つけますがかなり濡れました。これでもブナの林の中に居たからまだぬれずに済みました。

土砂降りの中、一気に滑りやすくなった足元に注意しながら下りていきます。雷はますます激しく、ピカリと光るは轟くは、と凄いもんです。山頂の稜線に居るであろうあのパーティは大丈夫だろうか。ここは樹林帯の中だから落雷は無いだろう、と言い聞かせますが余り良い気分ではありません。ただし雨に濡れるブナ林の風情は悪くありません。雨音を聞きながら淡々と下りていく事1時間、いつかしか雨もやみガスの中から出ました。そこはもうゲレンデトップの廃リフトホイールの広場です。13:55、アー助かった。ため息を出してウェアを脱ぎます。ゴアテックスとはいえやはり蒸れます。ぷーんと汗のにおいが胸元から上がってきて不快です。行きには気づきませんでしたがここにはシャクナゲが何事も無かったかのように咲いています。

ここから先は石ゴロゴロの歩きづらいルートで、不思議なことに路面が一切濡れていません。あの猛烈な夕立はこのあたりにはこなかったのでしょうか。すっかり疲れきった足をただただ機械のように動かして銀嶺荘横に降りたちます。勝原駅では次の列車まで3時間半、次のバスまでも2時間以上。誰も居ない静かな無人駅の長ベンチで足のマッサージをしながら横たわるといつしか軽い眠りにつきました。

標高差1300m弱、自分にしてはよく登れた、オジサン頑張ったではないですか。久々に良く歩いた、充実の山だったといえます。谷間の駅に夕日が差してきたので、濡れ物を取り出して乾かします。やがて大野市営バスがやってきました。行きと同じ運転手さんです。「山どうでした?」と聞かれます。荒島岳は大野の人にとても自慢なのでしょう。今日は下界は雨一つ降らなかったとのこと。「大野は水もよく良い街ですよ。今度じっくり来てください」という意味の言葉、越前訛で耳にやさしく届きます。

夕方5時半、早くも全てが店じまい状態の大野駅前。駅員氏が「福井行きは未だ1時間半以上あるから急ぐならバスだよ。(自分は)バスの人じゃないから詳しくないけどすぐに来ると思うよ」と親切なコメント。なるほど待つこと20分で京福バスがあります。それにのり福井駅をめざします。美山で下校の中学生が沢山乗ってきます。自分の娘と対して変わらない年齢の子供達。思わず一人でこんなところに山登りに来ている自分は何なのだろう、と感じます。福井駅には19:00過ぎ到着。ホテルでシャワーを浴び駅前に出て地元のサラリーマンで満員の中華料理屋に入ります。楽しそうな彼らの越前弁が飛び交い、一人異邦人気分です。

久々にキツイ行程は疲れました。それでも何とか歩けて少しだけ自信がつきました。山もよかったですが、越前大野の街もじっくり見たかったし、少し思い残すところがありました。翌日はレンタカーを借りて能郷白山を登ろうか、と欲張りな計画を立てていましたが、もう足が言うことをきかず、結局翌日はのんびりと北陸線を各駅停車乗り継ぎで米原まで出て、新幹線で帰浜しました。

JR勝原駅8:10 − 銀嶺荘8:30 − ゲレンデトップ9:15/9:20 − 白山ベンチ9:52 − シャクナゲ平10:37/10:40 − 荒島岳山頂11:35/12:05 − シャクナゲ平12:45/12:50 - ゲレンデトップ13:55/14:05 − 銀嶺荘14:35/14:40 - JR勝原駅14:55

(大野駅から小さな市営バスに乗り換えた) (ブナ林の登りとなった) (ガスの合間から荒島岳山頂を一瞬望む) (山頂には一等点)
(下山中に猛烈な雷雨に見舞われた) (雨上がり、シャクナゲがさりげなく) (山間の静かな駅。勝原駅で)


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