空木岳にて 

 (2012/8/10,11、長野県駒ヶ根市)


新しくはないが堅牢な造りの避難小屋。昨晩同宿の単独行2名がそれぞれの方向に出て行ってから私もしんがりで小屋を出た。まだ日が十分昇らぬ小屋の周りは風景とガスの境が分明でない。手のひらですくい取れる様な、しっとりとした粘りつくガスを掻き分けるかのように手を動かしてみる。クロールではないのだからそれで進むわけがない。歩き始めは体が重い。ゆっくり踏ん張って稜線まではハイマツの中のトレースを踏んで一登り。稜線に頭を出すと猛烈な風が向かい側の谷から吹いてきた。レインウェアのすそがはためく。思わず帽子を手で押さえる。

稜線はますます濃いガスの中だった。真新しいガスが谷から我も我もといわんばかりにいくつもの群れを成して風に巻かれるように上がってくる。これから歩く縦走路もそんな白い風景の塊にに隠されてどの位先が長いのか分からない。場合によっては今日、この稜線をひたすら歩いてから下界に向けて下りなくてはならない。ひときわ強い風にため息が出た。

* * * *

(久しぶりの千畳敷カール。宝剣岳が高い) (島田娘付近から。目指す空木岳が正面奥に遠い)

日本に帰国して2夏目を迎えたが、帰国してからは以前とは違い山行はさぼりがちで、準備不足から気合の必要な山歩きは難しそうだった。折角の夏山、そんな自分でもどこか歩けるところはと考えかねてから考えていた中央アルプス・空木岳を目指す事とした。なにせロープウェーで稜線近くまで一気に上がってしまうのだからあとは稜線歩きで自分にも歩けそうに思える。初日は短い行程で檜尾岳まで。檜尾避難小屋に泊まった翌日は稜線漫歩、空木岳を越えて擂鉢窪避難小屋、翌日は南駒ケ岳ピストンで空木岳経由で池山尾根で下山という行程案であった。中央アルプスの今回歩く地域はテント禁止なのでいきおい避難小屋を利用することになる。

自宅を3時に出て中央道をひた走り駒ヶ根のロープウェー行きバス乗り場・菅の台に着いたのは8:15分過ぎであった。タイミングよくバス、そして臨時のロープウェーと乗り継いだらもう海抜2600m超、千畳敷カールだ。

中央アルプスはまだ子供達が小さかった頃木曽駒ケ岳登山で来たがそれはもう10年近く前のことである。山頂の小屋でのキャンプを予定したため大型テントや家族分のシュラフ、食料などを一人で背負い千畳敷カールを登ったあの頃から気力体力ともに大きく衰えている事を、まずはカールを登りきって極楽平まで登るだけで感じてしまう。文明の利器で一気に高度を稼いだせいで体が馴染まないのか、足も思ったよりでない。極楽平にそれでも登りついて木曽側から強い風が吹いているのにおもわずたじろいだ。前方右手に三沢岳が立派な姿を見せている。がこれから歩く稜線が随分と長大な壁のようにも思える。今宵の檜尾避難小屋も前方の山の肩にチョコンと見えるがまだまだ遠そうだ。なによりも目指す空木岳が遥かかなたに見える。三角形の精悍な姿ではあるがいかんせん遠い。楽な山行、という目論みはどうも甘そうだ、と悟らざるを得ない。

人が多い宝剣岳方面と違い極楽平から一方踏み出すと稜線は静かだった。誰もいない中しばらくは、気まぐれに音程を変える風の音だけを楽しみながら歩いていく。島田娘はそれとわからぬうちに通過。天気は今のところ申し分なくはやくも半袖の腕に日焼けを感じるが、それでも昨晩の天気予報では明日午後から雨模様に成ると言う。明後日も雨交じり。今しきりに西から吹いてくる風がその前兆だろうか。明日明後日と雨の降らぬ間に稜線を歩こうと言う計画なのだが。

一旦2600m近くまで下りる。岩の間にチシマギキョウが風に吹かれている。と再び100m近く登り返す。大きな石がいくつも屹立するこのピークが濁沢大峰だろう。430MHzで手早くCQを出すと知多郡からすぐに声がかかった。続けて四日市市。UHFの伝播に関しては中央アルプスは中京圏の山のようだ。ここで極楽平で声を交わした大阪の単独行が追いついてきた。と今度は反対から一人。こちらは今朝木曽殿山荘を出たとの事。「30年ぶりに歩いたけどこのルート、きついわ。前は楽勝だったのに」と言って岩の上に伸びたままだ。細かいアップダウンに思ったより消耗しているらしい。濁沢大峰からは檜尾岳はお隣なのだがここから一度2536mまで標高を下げることになる。歩き初めの千畳敷が2620mあったから、一体何やっているんだろうと思う。下っていくと短いながらも注意が必要な岩場も現れる。これから辿る鞍部の向かい側の稜線には伊那側からガスが風に乗って上がってくる。ダケカンバの林まで一旦高度を下げると今度は見上げるような登りとなった。ガスが左側から吹き上がってくる。何、これを登れば小屋だよ、心配不要だ、とただ頑張る。物音に谷筋を覗くとサルが3匹、器用にダケカンバ枝を伝って斜面をトラバースしていった。

濁沢大峰から望んだ檜尾岳の山頂には人が何人かいるように見えたがどうもそれは山頂標識と岩を誤認したようだ。檜尾岳山頂・2728mには誰もいない。ザックを放り投げるように下す。たいして歩いていないのにこの調子はなんだろう。汗をぬぐいしばらくは動く気がしない。塩分チャージの飴をなめてから山頂標識を利用してワイヤーダイポールを張ってみる。今回は50メガにこだわってわざわざピコ6をザックに入れてきたのだ。同軸をつないでみるがバンドはシーンとして何も聞こえない。お盆休みとはいえ今日は平日、こんなものだろうか。ダイヤルを回してみるとようやく1エリアの電信の局を見つけた。移動地のJCCコードを打っているがJCCコードなどすっかり忘れてしまった今の自分にはそれが何処の市かは分からない。電信はもう8年近くご無沙汰だ。モノはためし、とピコ6の背面のスライドスイッチをCWに切り替えてPTTをおしながら豆ボタンで送信してみる。ブレイクインなし、サイドトーンなし、キーは豆ボタン、というピコ6の単純きわまりないCWモード。間違わぬよう電信コードを口ずさみながら打電。PTTを離したらきちんと自分のコールサインが戻ってきたときは嬉しかった。

檜尾避難小屋へは縦走路を外れ一旦100m近く下ってから緩く登り返していく。降りる途中小屋の横に一人、立っているのが見えた。どうやら今日は一人ぼっちの小屋にはならなくてすみそうだ。少しホッとする。ハイマツを手で掻き分けながら小屋に到着。同宿は40歳前後の男性一人。愛知から来たと言う彼は中央アルプスをホームグラウンドとしているそうで縦走のみならずこのあたりの沢も楽しんでいると言う。口数は多くないものの無駄のない動きに山に慣れた雰囲気が感じられた。

(稜線にガスがかかった) (今宵の宿は檜尾岳避難小屋)

水場は片道3分檜尾尾根を下りた場所から分岐して1分。ポタポタの雫をかきあつめ1リットル15分。それでも縦走中に水を得られるのはありがたい。午後遅くなり更に一人到着。こちらは60歳が近いと思われる単独男性。更に遅くなってから台湾人とチェコ人のパーティ。こちらは小屋から外れたハイマツのくぼみにテントを張ったようだ。驚いたことに彼らはこの地元の役所が発行している観光用地図で歩いていた。当然英語記載はない。台湾人が「漢字が読めるから大丈夫だ」と。さらには学生10人パーティがやってきたがこちらも屋の近くに幕営のようだった。

避難小屋は古い建物のようだが堅牢で快適だった。夕食にラジオをつけ天気予報。長野県飯田地方明日は午後から雷雨交じりの雨との予報。昨日よりも悪化の方向の予報だ。明後日も推して知るべしだろう。「明日は早めに稜線を離れたほうがよさそうですね」と山慣れた彼。折角来たからには空木岳のみならず南駒ケ岳まで歩きたいものだが・・。それに明日下山となると明日の行程は10時間は越えるだろう。そんなに自分に歩けるのだろうか。・・明日朝の天気次第で決めてみよう、と早めにシュラフにもぐりこんだ。

* * * *

檜尾岳からは大滝山、熊沢岳、東川岳と2600-700m級のピークを縦走していき、一旦海抜2500mの木曽殿越まで降りてから一気に360m登って空木岳。エアリアマップによると木曽殿まで3時間、木曽殿から空木岳まで1時間半。更に今日下山とすると空木岳から池山尾根の所要時間は更に4から5時間。なかなか長い一日になりそうだ。天気がそれまで持ってくれるか。朝一番のラジオの天気予報は昨日と変わらない。

4:45に檜尾避難小屋を出て、檜尾岳から空木岳へ向け南下する尾根道はひたすらガスが続く。木曽側から風が吹いてくるのは昨日と同じで、少し立ち止まると体がたちどころに冷えてくるので少しは体が楽だ。大滝山を過ぎてすぐ小さな二重山稜を見て一気に下る。と正面に熊沢岳が大きく壁のように立っている。せめて登山道が巻いてくれればと思うのだが愚直にも岩の合間を縫ってひたすら登っていく。鎖はないが3点確保で登らないとこなせない箇所も続く。立ち止まりペットボトルの茶を喉に流し込む。しかしこの道は中央アルプスの主脈路で人も多いはずだ。それにしてはなかなか難度が高いように思える。それとも年々自分の山の能力が低下しているのか。

熊沢岳・2778mに登り付く。6:20だ。風がただ吹くだけで誰もいない。行動食のミニクリームパンを一つ口にして先を急ぐ。風は相変わらず強いが、そのせいかガスはやや薄らいできた。今朝は全く見えなかった空木岳が真正面の深い谷を隔てて山頂部分以外は見えるようになった。根張りの大きなその山は28mmレンズにも収まりきらない。縦走路は再びゆっくり下っていく。ようやく前方から4人組。疲れているのか彼らの挨拶の声も小さい。通り過ぎて再び風の中を翻弄されるかのように歩く。やや進み振り返るとかれらが石の点在するハイマツの中に小さな点になっている。何か話しかければよかったかな。なんだか遠くへ去ってしまった。

パラパラパラ・・・と小気味良いプロペラのような音が間近でする。パラパラパラ・・。知っているよ、ザックのストラップの音だろう。風でストラップがはためいているんだろう。少し体を傾けると、ほら、やんでしまったよ。でも一人だと寂しいからもう少し鳴っていてくれ。再び体の向きを戻しても、あれ、風向きが変わったのか何の音もしない。ただずっと高い空で、ゴーッと唸っているだけだ。

風が冷涼なので汗が出ないですむ。思ったよりも簡単に東川岳・2671mに到着。7:55。とそれを待っていたかのようにガスがここで晴れ、素晴らしい空木岳の全貌が目の前にあらわになった。

それは一途な登りだった。三角形のように無駄がなく立ち上がっているピークのその一辺を、ルートは何の迷いもなく辿っている様だった。しかも足元には木曽殿越の鞍部が奈落のように低い。自分は何で山登りしているんだろう、というひどく原始的な疑問がふつふつと沸いてくる。何故あんな稜線を辿らなくてはいけないんだろうか。何故引き返さないのだろう。何故独りなのか。何故過ぎ去った人影に寂しさを覚えるのか、何故風の音に怯えて汗をぬぐうのか・・・全く分からない。ただ、そんな苦行を、孤独を、遠くで楽しんで見ている自分がもう一人いるように感じている。そんな難しいこと、そもそも下界では考えもしない。何かを考えるために、山にいるのだろうか。

430MHzでコールしてみると早速愛知から声がかかった。いやー頑張っていますね、とは昨日の知多郡のOMさんだ。ありがたい。続いて三重は津市の山ラン局から。天気予報では三重も午後から雨だと言う。天気の情報ありがとうございます。山ランレポート会報でお互いを確認しましょう、とQRT。さぁこれで迷っていた腹も決まった。このまま空木を超えて下山だ。雨の来る前に稜線を離れ、雷の来る前に下山口へと、逃げ切ってやる。

木曽殿越までは一気に下がる。木曽殿山荘は完全予約制らしい。木曽殿の力水は枯れています、という張り紙の向こうでヒゲの管理人が小屋を箒がけしている。ここで腕時計の高度計を校正して8:30、一気に登りに取り付いた。もう空木岳のピークはガスには隠れていない。来たければ早く来いよ、とばかり遥かに高く聳えているだけだ。一歩一歩登っていく。登りやすかったのも最初のうちで、そのうちは手足を使って登るようなコースとなった。さすがに辛い。100数えながら歩いて一休み。それがいつのまにか50になり30になった。岩にもたれかかる。この登りでペットボトルのお茶が随分減った。鳥の声がひどくのんきに聞こえてくる。空木岳山頂直下には2つのだましピークがあると言う。それはどれだろう。数えるのも面倒でとにかく目の前の岩をこなしていくのみだ。山頂直下で木曽側から回りこみ岩の隙間に手をかけて攀じ登る箇所が連続する。鎖や手がかりの一つでも欲しいところだ。自分はこれを下りには使いたくない。なんとか攀じ上がると展望が一転してもうそこは山頂の一角だった。

10:10、空木岳山頂。そこには誰も居なかった。気を取り直して山頂をぐるりと一回りしてみる。人っ子一人居ない。目の前に本来は明日登る予定だった南駒ケ岳が実に立派に立っている。本当に今晩から天気が悪化するのだろうか。今はそう見えないが。ここへきて南駒を諦めるのはいかにももったいない。がもう決めたことだ。

山頂直下に駒峰ヒュッテが見えるがテラスに人影はない。本当に誰も居ない。人気のある山でこれほどの静けさは期待していなかった。ハイマツとザックを利用してワイヤーダイポールを設置する。横着してポールは持ってこなかったので地表面からの高さは50cmもない。こんなアンテナで飛ぶのか。ピコ6をつなげCQを出すと南佐久郡の固定局から呼ばれた。やった、交信成立。これで言うこともない。続けて後2局と、数は少ないが満足して閉局する。さぁもう思い残すことはない。最後にちらりと南駒をもう一度拝んでみる。素晴らしい山で残念だが早くもその手前の稜線がガスに巻かれ始めた。ヨシヨシ、多分良い判断だろう。頼むから夕刻にはちゃんと降ってくれよ。自分は池山尾根を辿って、おさらばだ。

駒峰ヒュッテを覗いてみる。無人かと思えば裏木戸が開いて女性の小屋番が顔を出した。にこやかな女性で張り詰めていた気持ちが和らいだ。缶ビール500円の張り紙に思わず財布を取り出してしまう。テラスでグッと一飲み。陶然としてくる。とにかくここまでよく無事に歩けたものだ。後は下りるだけ。途中避難小屋もあるし歩けなくなったらそこに泊まってもよいだろう、食料と水はまだ豊富にあるのだから。少なくとも稜線は離れられるから雷にも安心だろう。そう考えると気が楽になった。

(稜線を伊那谷からのガスが覆い始めた) (空木岳への登りと正対) (空木岳山頂は静かだった) (空木岳山頂から長い池山尾根を望む)

下から単独行が登ってきた。登山タイツに小さなザック。今日は天気が悪いのでこのままピストンするという。11:40、ヒュッテを後にした。もう本当に稜線ともお別れだ。眼下に見える空木平避難小屋に向けカールのような場所を下りていく。ここはお花畑で赤紫や黄色の花が咲き乱れる。自分は全く疎いので写真に収めて先を急ぐ。バイケイソウの群落を越えて空木平避難小屋も立派な小屋だ。ここで高校生パーティと思われる一団が下の沢から水を汲んでいた。少し登って池山尾根を忠実に下り始める。ダケカンバ帯からシラビソの林に移る。もう天空に対して剥き出しではなくなり一安心。あとはたんたんと下りていく。

地形図のとおりで、池山尾根はなかなかその高度を下げなかった。足任せでひたすら進んでいく。唯一の心配は大地獄・小地獄という名のついた箇所で、難所らしい。昨年路面崩落で登山道がつけ換わったらしいがどんなものか。駒峰ヒュッテの小屋番の女性は手を振りながら、たいしたことはありません、と言っていたが。

地形図で海抜2282mピークを直角にまくあたり、トラバースから尾根を乗越すあたりに迷尾根の標識、そしてその先から痩せ尾根で事故注意の標識があった。大地獄・小地獄だろう。最初はどうと言うことのない巻き道で桟道があるのみだが道が90度曲がって東に進み始めるとアップダウンの激しい痩せ尾根となった。注意して上り下りしていく。下りに鎖場が2箇所。10m近い長さの鎖場は山側に向いて慎重に3点確保しながら降りていく。最後に2,3mの鎖場は足の置き場に迷って少し戸惑う。無事に通過して一安心の小さな平地に再び先ほどの事故注意の看板があった。この区間の通過にちょうど30分かかった。

全く気が抜けてしまった。ここから後は本当にボーっとしてきた。もう10時間以上行動している。足がただ機械的に動いているだけで頭は下山したら風呂に入ろう、というひどく現実的なことを考え始める。登山道に笹が混じり始めると遊歩道が現れた。尾根を斜面を北側に向けて一気に谷筋に下りていくと沢音が耳に心地よい。15:00、降りついた広い谷に水場があった。池山避難小屋分岐だ。コンコンと湧き出る水に、備え付けのコップで一気に水を飲む。冷たくて上手い。もう一杯、更に一杯。とここでポツリポツリの雨が落ちてきた。もう大丈夫だ。何度見たか分からないくしゃくしゃになったエアリアマップを広げる。ここから駐車場終点まではあと1時間と少しか。最後に名残惜しく更にもう一杯水を飲み、水場を後にした。

一気に歩きやすくなった道を辿ってタカウチ場へ。とここで先ほど駒峰ヒュッテで会った単独行が早くも下りてきた。随分と早い。水戸からきたと言う彼と話しながら歩くが余りにも健脚で着いて行く事ができなかった。

16:00、傾斜が緩んで駐車場に着いた。ついに到着。アー、これ以上歩かなくとも良いとは。ここで携帯でタクシーを呼んで菅の台に戻るだけだ。実際には路面崩落で車はここまで登ってこれない。あと10分登山道を降りて再び車道に交わったところがタクシー会社の指定地点だった。

* * * *

菅の台のこまくさの湯につかりほっとする。自分の下山を待っていたかのように雨は本降りになった。結局南駒ケ岳には行けなかった。改めて又いつ行くことが出来るか、と思うとなかなかチャンスはないかもしれない。天候の悪化の速度がもう少し遅いことを期待していたがそうはいかなかった。それにしても今日は実によく歩いたものだ。朝4時半過ぎから16時半まで。約12時間に近い行動に、自分の足が思ったよりもずっと動くことに単純に感動した。山を二日で下りてしまったのは残念だが、今日の静かな稜線は何だったのだろう。稜線で出会った人は片手に納まる。風の音を五感に感じながら、自分が一番楽しみたかったのは、独りで寂しさを味わいながら歩く時間だったのだろうか、と考える。会社や家庭と言う組織の中にいる時間が長いと、どこかでゆっくりと自分を考える時間が必要になるのかもしれない。

こまくさの湯を出ると雨はますます激しく、雷鳴も遠くで聞こえてきた。自分としては良い判断で山を歩けたのではないだろうか。多少の後悔は残るものの満足の山だったのではないだろうか。ワイパーがせわしく動く車の中、この2日間の風景がいくつも浮かび上がってくる。すっかり薄暗く、そしてガスに隠れてもうシルエットも見えない木曽の山並みを一瞥をして、アクセルを踏み込んだ。



2012年8月10日 千畳敷9:15 - 極楽平9:45 - 濁沢大峰10:50/11:00 - 檜尾岳12:30/13:00 - 檜尾避難小屋13:15

2012年8月11日 檜尾避難小屋4:45 - 檜尾岳5:05/5:10 - 熊沢岳6:20/6:30 - 東川岳7:55/8:05 - 木曽殿小屋8:23/8:30 - 空木岳10:10/10:50 - 駒峰ヒュッテ11:00/11:40 - 空木平小屋12:20 - 迷尾根標識(この先危険看板あり)13:32 - 痩せ尾根終了地点(この先危険看板あり。標高2120m付近)14:03 - 登山道・遊歩道分岐14:40 - 池山避難小屋水場15:00/15:15 - 駐車場16:00 - 林道出合い16:12


空木岳周辺で会った花々

チシマギキョウ イワツメクサ ヨツバシオガマ ウサギギク

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