短くも楽し、神楽ヶ峰スキー行 

(2005/4/23、新潟県北魚沼郡津南町)


好天との天気予報に誘われ上越国境・神楽ヶ峰へテレマーク山行へ行ってきました。神楽ヶ峰は山スキーに興味を持ってからというもの、一度は登ってみたかった昔からの知られたスキーツアーのクラシック・ルートです。今となっては山頂近くまでスキー場が出来てぐんと手じかですが、そんな「山の古典」への憧れがありました。4月も半ばを過ぎもう横浜ではとうに桜も散ってしまった、そんな一日、昔日のスキーヤーの興奮と感動を味わうべく、自分も上越国境へと足を向けたのです。

(オオシラビソの林を縫い二本の板でオフピステに
漕ぎ出した。バックカントリーツアーの始まりだ。)
(ゲレンデトップで出発の
準備をする)

前夜発で関越寄居PAで仮眠後関越を北上しますが、正面の谷川岳が暗い雲に覆われています。関越道の長い国境のトンネル、冬が来るたびにこの国境を越えてわくわくしながらスキー場に足繁く通ったのももう15年以上も前の話です。あの頃は対面交通だったこのトンネルもいつのまにか立派な二車線の上下別のトンネルで、時代の流れを感じます。今や関心はスキー場ではなく雪のついたオフゲレンデではありますがスキーが出来るとなるとやはり心が踊るものす。

ロープウェーでみつまたゲレンデにあがるとそこはまだたっぷりと雪のついた別世界。もう5月も近い、こんな時期までわざわざスキー場に来るスキーヤーやボーダーは皆腕に自信のあるものばかりです。見事なウェーデルンで上から滑ってくる、そんな中を邪魔にならないように下手糞なテレマークターンで下りていくのは気恥ずかしいものです。クワッドの終点が入山地点です。この上にもう一本リフトが延びていますがこれは万年休止のようです。ここが実質のゲレンデトップです。標高は1670m。2029mの山頂までの標高差は360m、たやすい標高差ですがここから先はバックカントリー、気を引き締めなくては。板にシールを貼ります。ゲレンデスキーヤーが好奇の目で見ているようです。出発前のこの一瞬、緊張と興奮が大きいですが、やはり不安が夏の入道雲のように高まるものです。一歩踏み出せばそれもかなり楽にはなるはずです。

コンパスを進行方向にセットして、高度計の針を合わせたらさあ出発。「よし」と小さくつぶやいてオオシラビソの点在する薄い樹林帯に一歩踏み出します。と北西から黒い雲が強い風とともに流れてきます。時折小雪も混じります。なんとか、もつでしょう。足元は一面シュカブラで、そんななかをトレースを伸ばすのはやはり気持ちがいい。斜面は緩やかですがじきに急になるとヒールピースのクライムサポートを立てます。ここまでは二人連れパーティのラッセル跡を使わせてもらいます。雪は春のザラメどころかふかふかの深雪でまるで2月のようです。

万年休止のリフト下り場で二人を抜くとこんどはトップとなりました。木々はまばらになり森林限界を抜けたようです。この先トレースは残ってはいるものの淡いもので、しかも二分しています。一つは目の前の尾根に忠実に直進し、もうひとつは右手に尾根を外してトラバースしています。どっちに行っても稜線まで上り詰めるだけさ、トレースがそれでも明瞭な方が楽だろう、とトラバースの方向へスキーを進めます。結果的にはこれが失敗でした。

左手の尾根が小さな雪庇を伴って頭上に広がり始めます。いやな感じです。雪庇が消えたあたりでやや強引に尾根に乗ろうと斜登高を交えて斜面を上り始めますが雪は思ったよりも柔らかく斜登高の板が手ごたえなく雪面にもぐりこんでいくだけです。所詮は春の雪、全くエッジが効きません。数少ない経験なので正しいかは判りませんが、どうもテレマークの場合、踵がフリーな事が逆に災って斜登高時にスキー板後部への力の伝達が上手くいかないような気がします。こんな時アルペンのビンディングだったらもう少し足の力が板に素直に伝達されるのではないか、そんな事を感じます。いや、単に下手糞なだけなのでしょう・・・。

踏んでも崩れるだけの斜面の登高は諦め、再びトラバースのラインに戻ります。しばらく進むとガスが急速に発達し風も強く雪も一層強くなります。天候ひとつで気分が変わる。不安を押しのけてスキーを急がせるとようやく主稜線に登り詰めました。稜線に出たは良いがここは何処だろう・・・。コンパスを出して思案。ここは明瞭な鞍部で、この場所から南北にはともに急登が待っています。コンパスの指示によると進むべきは南。そう、そこは目指していた神楽峰北方の小ピーク(2000m峰)ではなくさらに北にある鞍部でした。このまま北へ行けば中尾根上部のピークへいってしまいます。神楽峰へ、南下しなくてはいけません。休止リフトのトップで、進行方向をよく確認してから進み始めるべきでした。トレースにつられて、目指すピークより北に出てしまいました。このトレースは神楽ヶ峰ではなく中尾根を滑る人たちがつけたトレースだったようです。

ここから本来到着すべきであった小ピーク(2000m峰)までのわずか距離にして250m、標高差50メートルの主稜線が非常に辛い行程でした。雪壁の連続が行く手をさえぎります。雪庇が大きく張り出しているのでそれを避けて歩こうとしますが、稜線の西側はオオシラビソの密林でとても入り込めません。短いサイクルで2メートル位の高さの雪の壁が波打つ主稜線を階段登高で登りますが雪は果てしなく深く柔らかくエッジを効かせたとたん足元が流れます。板を脱いでツボ足で行くか、とも思いますがワカンでもないと腰まで潜ってしまうだろう・・。なんとか誤魔化すと今度はカリカリのアイスバーン。効き辛いエッジを踏みしめ少しづつ稼ぐしかありません。なんとか上りきると目の前には次の雪の大波。こんなサイクルが果てしなく続くように感じられます。あの時ちゃんとコースを選んでいたらこんな事はなかった・・。

(北西から雪をつれて黒い雲が発達
してきた。)
(トラバースで登りついた主稜線の鞍部
からの雪壁の突破には難儀した)

手を変え品を変え高さを稼ぐとようやく雪壁の波状攻撃がなくなりました。登りきった! 嘘のような大斜面が目の前に広がります。これが本来登ってくるべきだった尾根です。目の前に先ほど抜いたはずの二人が歩いていました。気が抜けました。振向いた二人に「ミスコースしました」と苦笑い。

さてここは残念な事に神楽ヶ峰ではなくそのすぐ北の小ピークです。先行者の二人はここで終わりとするようです。ガスで展望が利かなくなっていますが、予定通り神楽ヶ峰へ。雪庇の尾根を直進して先ほどのような雪壁に苦労するのはもう沢山。ここからやや下へ滑り込み雪庇の下10m程度をトラバースします。ですがこれもよく考えたら危険なルートです。雪庇が崩落したら最後です。壁のような雪庇はそう簡単に崩れそうにはありませんがトラバースし始めて急に不安が高まります。馬鹿なライン取りをしたものだ。不安から足を速めますが焦ってスキーがずれます。小さな鞍部がありすかさずそこから主稜線に上り詰めます。ほっと一安心。まだまだ山スキーは自分にとっては未知の領域ばかりです。ここから山頂まで100mくらいと想像します。トレースは皆無。人気の山スキーコース・クラシックなルートのはずなので誰も登っていないとは思えませんが、まったく人の通った形跡がありませんでした。ガスはますます濃くなり風とともに視界の距離が伸び縮みします。一番高いと思われるところへ出ました。GPSの指示では山頂まではあと30m。でもこの先には洗濯板のような雪壁の波が行く手を遮っています。左手の雪の先端と右手のオオシラビソの密林の間の距離は2,3m程度。自然が造った完全な袋小路です。雪は深く、スキーでもツボでもこれ以上の前進は無理、いいか、ここで山頂としよう。狭くて細長い窮屈な地形です。

アマチュア無線運用、折角新潟県の山まで登ってきたのです。ここはやはり50メガ。ピコ6とダイポールでCQを出すと3局と続けて交信できました。関東平野まで59で飛んでいるようです。もっとゆっくりやりたかったのですがこれ以上視界が悪くなるのが怖くて、早々と閉局。カメラを取り出して記念撮影。とここでデジタルカメラにトラブル。電源ONとともに出てきた沈胴式ズームレンズが元に戻らなくなりました。電池を換えても駄目です。やはりデジタルは寒い場所では駄目です。今日はフィルムカメラは持っていませんが今後は併用も必要かもしれません。

先ほどの小ピーク(2000m峰)まで戻ります。今度は主稜線を忠実に歩きます。天候も一瞬回復します。広大なバーンが広がりその果てに森林帯があり、さらにその先には真っ青なカッサダムが見えます。自分の足で登ってきたから味わえるこの風景。これぞバックカントリースキーの醍醐味なのか、とふと感じます。小ピークには二人連れがいます。それを見てどっと安堵感がわいてきました。

ピークの二人連れは先ほどの二人とは違いもう60歳に近いと思われるベテランの二人組みでした。山頂の様子を聞いてきますが「視界ゼロです」という言葉に「じゃぁやめるか」と諦めてシールを剥がし始めます。一人はカービング板にディアミール、もう一人は年季の入ったトラディショナルな山板にジルブレッタ。気負いの無さと無駄がなく板についた動きに彼らの山スキーの経験の深さが感じられます。スルスルと滑りだした彼らを目で追って自分は何かとても嬉しくなりました。まだまだ自分にとってはこれからもずっと長く楽しめるであろう、素晴らしい世界のようです。

さぁ・・・あとは自分も滑り降りるだけです。シールを剥がします。固形ワックスを塗りながら下界を眺めます。雪はどんなものだろう、ここまでの苦労が報われるのです。下は300mくらいは無木立の大斜面、登り始めた頃とは早くも雪質が変わっておりぐっと重たい。がなんとかテレマークターンで回れます。嬉しい。と、転倒。これまた楽しい。怪しげなターンで10ターンもしたでしょう、早くも樹林帯が目の前に迫ってきました。やはりスキーは早い、あっという間です。ここからはオオシラビソの林をツリーランです。

(今回の行程図。ハンディGPSデータを
カシミール3Dにダウンロードしたもの。)

樹間が適当に開いているので思い通りのラインで滑れます。斜度が緩く転倒も心配ありません。更に下りていくとちょうど登ってきた独りのテレマーカーと行き会います。挨拶がてら話し込みます。群馬から来たという彼はこの先から山頂ではなく東のカッサダムの大斜面に向けてドロップ・インするとの事。自分のように山頂にスキーで登る事しか知らないのと違い、よりスキーとしての楽しみが味わえる斜面を目指すという彼が羨ましくもあります。彼が滑るという谷を覗いて見ますが奈落の底に落ちていくような斜面に腰が引けます。技術があれば、スキーの可能性はもっと広がる事でしょう。

のんびりと滑ってゲレンデトップへ。あとはゲレンデをおりるだけです。ゲレンデの中間部分は林道を利用したもので斜度がほとんど無く滑りません。標高も下がったせいか、雪ももうシャーベットのようです。ロープウェー乗り場に着き2時半には駐車場に戻ります。春の日差しに満ち溢れた駐車場、空気も暖かく山頂で遭遇したガスや雪が嘘のようです。「あぁ、今日も楽しめた」そんな独り言が口に出ます。強い日差しに板についていた雪が瞬く間に溶けて乾いていきます。国道沿いの神立の湯(500円)で汗を流して関越へ。一般にはスキー時期も終わっているこの時期の関越は空いており、横浜帰着は17:30。快調でした。

教訓:
- 冬はデジタルカメラだけに頼るのはどうも不安のようです。フィルムカメラをともに持っていくべきと実感です。
- コースをきちんと選ぶことの重要さを再認識。休止リフトの上部でよく読図して進行方向を選んでいれば無駄なトレースもしなくて済みました。ルートファインディングに関しては簡単な山た、と高をくくっていた事が失敗の元です。また小ピークから山頂まで、雪壁の下部をトラバースしたのは今思うととんでもないルート取りでした。

下手糞なりにもいろいろ得るものもあったように思えます。往年の名コースをたどった短時間の行程でしたが、楽しく満足の山スキーだったと言えるでしょう。

コースタイム: ゲレンデトップ8:30-神楽ヶ峰10:30/11:05-小ピーク11:15/12:00-ゲレンデトップ12:30

スキー装備 : Dynastar Agyl6 162cm + ロッテフェラー 赤チリ(20mmカーブ)、SCARPA T3


アマチュア無線運用の記録

神楽ヶ峰 2029m 新潟県北魚沼郡津南町 50MHzSSB運用 Mizuho MX-6S(1W)+釣竿ダイポール 3局交信


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