冬枯れの丹沢前衛の藪山を歩く・・高取山 

(2003/12/21、神奈川県厚木市)


(藪の支尾根から主稜線に合流すると
そこにはやや明瞭な踏跡があった。冬の
陽射しを背に静かな尾根を辿った。)

一昨年の夏に丹沢前衛の山・経ケ岳の南に位置する高取山から華厳山に登ろうとしたが、目論見をつけた大厚木ゴルフ場からのアプローチは結局生い茂る夏藪の前に入山ポイントすらまったく見当もつかず、結局登る事もできなかった。経ケ岳一帯は仏果山から経ケ岳あたりにかけてはメジャーなハイキングコースであり年中ハイカーが多いが、その南の華厳山から高取山にかけては入山者ははたと減る。やや忘れ去られた山域と言えるだろう。その思いは後日西側の法論堂林道から藪道をつめて華厳山へ登ったときに強いものとなった。行く手に重なる夏草と蜘蛛の巣に迎えられた山にはあまり人の気配を感じることはできなかった。結局その時は夏藪を前にもうそれ以上先へ進み高取山に行く気も失ってしまった・・・。寝坊した12月の日曜日、幸いに天気は良さそうで手近な厚木の山なら今からでも時間があるだろう・・こんな時にこそ雪辱を果たせないか。

2万5千分の1図「厚木」を見ながらコースを考える。確実にピークを踏むのなら前回同様法論堂林道から華厳山に上がりそこから尾根伝いに東南に下れば高取山に至る。しかしこれではあまりにも当たり前すぎて、もう少しひねりたい。どうせなら適当な尾根を踏んで山頂に至れないか。幸いに冬枯れのこの季節は藪漕ぎも比較的辛くないだろう。一昨年のリベンジで高取山東麓の大厚木ゴルフ場から登るのもよいが、地図を見た限り南側の飯山集落からの方が尾根が明瞭でとっつきやすそうに感じられる。飯山から入って大厚木ゴルフ場へ下りてみよう・・。車に自転車を乗せて厚木へ向かう。

国道412号線の上荻野から大厚木ゴルフ場をめざす。一昨年に来たので風景に見覚えがある。ゴルフ場からの下山地点に自転車をデポして車を飯山にまわす。さて、果たしてうまくここに下山してこれるものか・・。横林集落から飯山に抜ける道はゆるやかな峠道で、峠を越えるとゆっくりと下る。宮が瀬へのバス通りに出ると上飯山のバス停で、その先の採石場への橋あたりから尾根に取り付かないだろうか。しかし地形図で見る限り地形が複雑でそう簡単でもない。じっくり地形図をみると先ほど車で通り過ぎた峠から北西に尾根に乗れそうだ。これとて高取山に至るまでは複雑に分岐する枝尾根を外し主尾根を辿っていかなくてはいけない。であるがここから入るのが一番簡単そうだ・・。

峠まで車を戻し路肩に駐車した。準備をして畑を横切るとすぐに小さな沢となりそれを跨いで柔らかな藪の斜面に取り付いた。枝は奔放に伸びているがやはり冬だけのことはあって歩く支障になるほどではない。崩れやすい土の斜面をブッシュを払いながら四つんばいのようになりながら登っていく。ザックに頻繁に枝がかかるが乾いているのかポキンと簡単に折れてしまう。そのたびにあたりに土臭さが広がる。冬の藪山につきものの臭いだ。振り返ると早くも車道は眼下に低く、再び高度を稼ぐ。藪を透かして見える尾根の頂上がすぐそこだ。あそこに登れば踏み跡でもあるだろう・・。

一頑張りで尾根に登りつくとそこには果たして想像通りに希薄な踏み跡が残っていた。以外にもナイロンテープも枝に巻きついている。これがコースであることには間違いなさそうだがこんな藪尾根を辿る人が居ることにやや以外でもある。もっとも山仕事の作業道であっても不思議ではない。

地形図の示すとおり登りは緩やかだ。下草が煩わしいが尾根を外さなければ問題ないだろう。暫くは藪も深く手で掻き分けながら進んでいく。長袖の服の上に遠慮なく枝が振りかかってくる。顔にもかかってくるので手を顔の前で十字にしてボクサーのような格好で先に進んでいく。小さなピークに上りつく。地形図にはピーク表示は無いがこのような小ピークは枝尾根の合流地点であることが多い。北東からの小さな尾根が合流する標高180m地点だろうと想像する。地形図上に自分の位置が自信を持ってプロットできると嬉しいものだ。

やや下るとふたたび上り始める。地形図上では標高200mあたりから尾根が細くなるように記載されているが登っていく限りではそれをあまり感じさせない。踏み跡は明瞭とはいえないが尾根を外さなければ良いだろう。時折蜘蛛の巣がかかるが冬だからこんな程度で済んでいるのだろう。やはり藪山は冬に限る。

ピークに上りついた。進行方向を見ると急峻に尾根が落ちていく。ここが地形図上の230mピークに違いない。高取山への主尾根上の地形図にも記されているの325mピークに至るには北上していたここまでのコースからここで南西にいったん戻るように向きを変えなくてはいけないだろう。そちらに方に目を凝らすとナイロンのテープが下がっているのが見えた。よし、これでよい。

10m近く高度を下げると今度は雑木から植林帯へと導かれた。急な登り斜面が眼前にありそれは等高線の密に詰まった登りを示す地形図の示すが通りだ。思わずほくそ笑む。ゆっくりと登っていく。とどこからか鈴の音が聞こえてくる。誰だろう・・歩みを止めるが確かに聞こえる。こんな寂しい山でいきなり人に会うのも肝を冷やすので、わざとらしく咳をして大きな声を出してみる。鈴の音には変化がない。何処に、誰が居るのか・・。ゆっくりと再び登り始める。

踏み跡の希薄な斜面をやや強引に登っていくとピークに登りついた。ここが地形図にその標高を示している325m峰だろう。そこには左手から自分の歩いてきた道よりもより明瞭な踏み跡が続いていた。ここに至るのにもっとメジャーなコースがあるのかもしれない。少し休息して北西に伸びる尾根を辿る。足元には黒い豆粒の塊がある。鹿の糞だ。やはり丹沢は鹿が多いようだ。

(入山地点。前方の
藪を突破する)
(藪斜面を登りきると不明瞭な踏跡の
枝尾根の上に出た)
(暫くはこのような
藪を漕いでいく)
(325m峰に登りつめるとこれまでより
はっきりとした踏跡に合流した)

もはや尾根は全く明瞭で一般の登山道のようにも思えてしまう。ややのぼると前方に柵があり「危険につき立ち入り禁止」の看板が立っていた。覗き込むと遥か下まで、まるで蟻地獄のように急角度で落ち込んでいる。採石場だ。山肌がすっかりとそぎ落とされていた。

もはやハイウェイのようになった尾根道を辿っていく。再び何処からか鈴の音が聞こえてきた。立ち止まって耳を澄ましていると確かに近づいてくる。下を見ると白い小型の猟犬が2匹下から上がってきた。鈴の音の主は彼らだったようだ。尾根上に立つ自分を見つけて遠吠えをするが必要以上には近づいてこない。やや遅れてオレンジ色のベストを着た2人のハンターが登ってきた。「イノシシを逃がした」と悔しそうに話している。ハンターに従って犬も尾根に上ってきた。首輪に小さな箱をつけているがビーコンのようだ。ハンティングもずいぶんとハイテクであるなもんだ。しばらく歩くと今度は迷彩服を着たハンターが前からやってきた。犬を見なかったか、と聞いてくる。犬を見失うハンターもいるものだろうか・・。今日は日曜日でこの好天とあり、かなりのハンターが山に入っているという。それほどこの小さなエリアに獲物がいるとも思えないが。どちらにせよサンデーハンターの流れ弾には当たりたくない。

前方にこんもりと見えるのが目指す高取山だろう。いったん降りてまた登り返していく。顕著な独立ピークで東から立派な尾根が合流してきた。これが地形図には標高は記されていないが440m峰だろう。下山の際はこの立派な尾根を東に下りていくこともできそうだ。右手には鳶尾団地が近くその奥には関東平野がぼうっと広がっている。なかなか良い眺めだ。

更に進むじりじりと登っていくと小ピークに登りつく。これが大厚木ゴルフ場からの尾根道が合流するピークだろう。計画ではこの尾根を下山時には下りることになるのだがここから見る限りはあまり踏み跡があるようにも見えないが大丈夫だろうか・・。先ほどの440m峰から派生する東尾根の方が歩きやすそうだが・・。まぁ、なんとかなるだろう。

西へ200,300mも進むと小さな盛り上がりがありそこにアルミでできた指導標があり「高取山」と記されていた。到着だ・・。葉を落とした雑木林に柔らかな冬の日差しが満ち溢れている。静かで雰囲気の良いピークだ。雑木の枝にワイヤーダイポールを張り50メガの運用を始める。1W出力でもこのロケならば充分だろうと踏んで、今回は軽くて手ごろなミズホのMX6Sを持ってきた。CQを出すと埼玉や栃木からも声がかかった。のんびりと交信しているとハンターが二人と猟犬が一匹通り過ぎていく。今日はハイカーには一人も会わず、ハンターと猟犬ばかりだ。

5局と交信するともう満ち足りた思いになってしまった。さして腹も減っていないのでコンビニで調達してきたおにぎりを食べるまでもないだろう。手短にザックをまとめ、先ほどの分岐ピークまで戻る。もう一度地形図を見るがやはりここが大厚木ゴルフ場へダイレクトに下りる尾根である事には間違えない。予定通り、ここを下りていこう。なんとかなるさ。希薄な踏み跡の続く急斜面に一歩踏み出した。

立ち木につかまって下りるような急坂で落ち葉の堆積した地面とあいまって不安感は大きい。でもこの尾根に間違いはないはずだ。しばらく下りていくと木の幹にやや古びたナイロンテープが巻きついていた。よし、大丈夫・・。踏み跡も上から見ていた程ではなく実際には明瞭になってきた。

(今回のコース図、ハンディGPSで取得したログをカシミール3Dで
同ソフト付属の地図にダウンードしたもの)

ぐいぐいと高度を下げていく。標高320m地点で尾根が大きく北東と南東に分かれている事を地形図は示しているが果たしてその通りの地形が眼前にあった。左手の、北東に分岐している尾根には植林が暗い風情で密生している。一方の南東尾根は明るい雑木が続いている。地形図上に続く破線はもちろん南東尾根に書かれている。そちらに導かれると随分と急な下りとなって歩きづらい。がコースを示す古びたテープが巻きついている。大丈夫だ・・・。

更に40-50m程下りていくとここでも尾根が左右に分かれている。地形図上の破線は向かって右手の沢筋に落ちる尾根を示しているが、先が見えないほど急峻に落ち込むこの尾根はどう考えても良さそうに思えない。しばし考えて明瞭な形を示す左手の尾根に踏み込んだ。これは正解でしばらく下りると希薄な踏み跡が散見できる。が今度は下草が煩くなってきた。もう下界は近いので気にせず当たりかまわず藪を踏み倒すように歩いていくと暗い林の中からぽっかりと前が明るくなり、目の前にひろびろとしたゴルフ場のグリーンが現れた。おりしもゴルファを乗せたカートがひどくのんびりと目の前のアスファルト道を通り過ぎていき、一同、ブッシュの中から出てきた珍客をまるで異星人を見るかのような目つきで眺めていた。カートに向かって「こんにちは」と声をかけると職員らしい制服を着た男性があいまいに頷いている。よかった・・日本語は通じるようだ・・。

無事に下山。しかしずいぶんと場違いな場所に下りてきたものだ。しばらくグリーンに沿って歩く。後ろを見るとベルトコンベアに乗ったように次のカートが音を立てて走ってくるのが見えた。ひっきりなしにパーティが回っているようで、なんとなくそれは工場の生産ラインを思わせる。藪の中を地図を片手に道を探すハイカー、猟銃を肩に野生動物と追いかけっこをするハンター、電動カートに乗って順序良くグリーンを回るゴルファー、日曜日の時間のすごし方は千差万別だ・・。

林道に出てゴルフ場を抜ける。無事に自転車をデポした場所に戻ってこれた。振り返ると高取山から華厳山に続く稜線がずいぶんと立派に見える。あの藪の尾根を下りてきたのだ、と興味のない人にはただの山のひだにしか見えない隆起をうれしく満ち足りた想いで眺める。登りも下りも、意図した通りの尾根を辿り間違うことなく歩けた。ハンターに溢れた山の中は想像していなかったものの、冬枯れて暖かな日差しに包まれた山はまったく低山歩きの持つ素晴らしさを凝縮したものだった。

短い行程だったが充足感は大きい。「楽しかったなぁ、楽しませてくれたなぁ」そんな言葉がとめどもなく口からこぼれてしまう。満ち足りた気持ちでペダルを踏んで車を停めた峠を目指した。

(終わり)

10:33峠-11:13,230峰-11:27,325m峰-11:43,410m峰(危険につき立ち入り禁止札のピーク)-12:00,440m峰-12:18/12:55高取山・アマチュア無線運用-13:30ゴルフ場-13:47集落-(自転車)-14:00峠

(立入禁止看板の峰。
先は採石場で雛壇
状に削られていた。)
(主稜線から東には関東
平野が広い。)
(高取山山頂。アルミ
の山名標識と三角点
に冬の陽射しが注ぐ)
(藪を抜け出ると異次元
空間に飛び出した。)
(駐輪した箇所から望む
高取山。充実の行程に
満足感が大きかった)

アマチュア無線運用の記録

高取山 522m、神奈川県厚木市 : 50MHzSSB運用 ミズホMX-6S(1W)+ワイヤーダイポール、5局交信


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