固雪踏んで九鬼山へ

 

(2002年2月11日、山梨県大月市)


(雪肌に陽射しがかかり青い影が伸びた)
Nikon FG20 Zoom Nikkor 35-70mm

中央線の大月あたりまでの、前道志とも、桂川筋の山ともいえるエリアは横浜線沿線に住む横浜市民からは比較的アクセスもよく駅から手軽に登れる山も多く気楽で良い。そんな中で大月の九鬼山が残っており、もう何年も行こうと思っていたがなかなかその機会が無かった。というのもなかなか登りやすそうな季節がピンとこなかったからだ。海抜970m程度の山なので春から夏にかけては暑くてまずはパス。また山麓から遠望する限り山頂まで杉・檜の植林に囲まれた山なので秋の落葉シーズンといっても特に枯れた風情があるわけでもなさそうだ。そんなこともあり、積雪期がよいか、となんとなく思っていた。雪がつけばそんな山でも風景にアクセントがあり面白いのではないか・・。

2月の3連休の最終日、時間がとれ九鬼山にむかう。 家から毎朝望む丹沢の峰々もここのところすっかり白く化粧しており、これであれば前道志の山にも雪がついているのではないかと想像する。高尾では折り良く富士急行直接乗り入れの電車にまにあう。ハイカーに囲まれる車中、見慣れた風景が車窓を流れる。相模湖、藤野、上野原、四方津、梁川、鳥沢、猿橋・・・。どの駅でもザックを背負い下りたことがある。どの駅からも土に汚れた山靴で切符を買いホームに上がったことがある。マイペースでのんびりと近郊の低山を歩く事しかしていないが、気づけばこんな中央線の各駅に自分の足跡が残っているのだった・・・。

富士急行・禾生駅からしばらく国道を大月方面に戻る。前方にリニアモーターカーの陸橋が真一文字に左から右へ通っている。それを前に橋を越えてから右手に曲がると神社の裏手から登山道は始まっていた。空気は固くこわばっているが歩きだすと気にならない。固まった雪が残っておりそれをバリバリ踏みながら進むと谷から支尾根に導かれる。と、雪は消えてしまった。日当たりの良い南斜面である。のんびりと歩く。緩い斜面をしばらくすすむと山頂から北西に伸びる大きな尾根に合流し、ここで進路を南東に変える。ここはやや広い地形で「愛宕神社」の標識があったが社殿はないのだろうか・・。南東に向けて歩き出すと暗い杉林を前に斑模様に雪が残っており、前方の植林越しに射す冬の陽射しを前に落ち着いた明暗を見せてくれる。

しばらくは緩いがすぐに見上げるような急坂となった。雪がこのあたりから本格的に付きはじめ、イヤーなかんじとなる。硬く固まった雪なのでキックステップもおぼつかない。といってアイゼンを履くまでもない。硬く腐りかけた雪の上にぱらぱらと黄色くなった杉の穂先が落ちている。それを踏みながら登るが随分と高度を稼いだようだ。途中「直登コース」と「巻道コース」が分岐する看板があるが巻道コースの方は踏み跡もなく、嫌な急斜面ではあるがこのまま直登コースを進むことにする。単調な雪の斜面をしばらく登る。南西方向に展望が開けると、三ツ峠山が真っ白でずいぶんと立派だ。富士はあいにくガスがかかっており見られない。120,30m位高度を稼ぐと傾斜が緩みほっとする。しかしこの雪の急坂を降りるのも結構大変だろう。あたりはすっかり雪がつきその山肌にかかる陽射しで影が伸びる。白い雪でも日陰は青みがかって見える。汗をぬぐう。もう少しだ。再び急になり、やや進むとあっさり稜線に出て、左手に僅かに進むと970mは九鬼山の山頂だった。

素晴らしい展望だ・・・。まずは雲取山に目が行った。これを同定するとあとは位置関係で七つ石や鷹ノ巣山などがわかる。目を転じて飛竜山。その前衛はわからない山もたくさんある。雁ケ腹摺山や滝子山、小金沢山や大菩薩など、登ったことのある山はやはりわかるものだ。麓には桂川がうねっており、箱庭のような展望だ。しばらく展望に見入っていると日陰の山頂なので急速に体が冷えてきた。そうそう、嫌にならないうちにお仕事だ。50MHzのダイポールをセットして自作のトランシーバを出す。積雪は50cmはあろうか、標識の横に空いている雪の穴に釣竿を入れるとスポッと一番下の段が中に簡単にはまってしまった。CQを出すと割と簡単に5局と交信できる。最近インターネットを通じて知り合いになった局とも交信できて嬉しい。以前この山のすぐ西隣の高川山で50メガを運用したときは全く呼ばれずに、そんなことからこのあたりはあまりロケの良い山とは思っていなかったがそうでもなさそうだ。長居するのもよかたっが、この先猿橋駅まで長丁場なのでそうそうに切り上げる。ここで登ってきた2人連れは山頂に着くとザックからノート型コンピュータを取り出した。カシミールで山座同定 をするという。GPSをプラグインさせて足跡をPCに取り入れることもしているという。山に釣竿や無線機を持ってくる御仁もいればPCを持ってくる御仁もいる。山の楽しみ方にもバリエーションが広がったな、と思う。

冷えた体での撤収はつらい。凍える指先が思うように動かない。えい、えい、と声を出しながらザックをまとめる。山座同定にいそしむ二人に挨拶をして東へ進む尾根を踏む。積雪は固いので快適ではないが、それでも白く化粧した山は美しく、心は晴れようものだ。やはり単調で季節感の乏しい植林の山にはこんな雪の時期がいいように思う。急な坂でアイゼンがあればとも思うがザックから出すのももどかしく足場を見ながらおりていく。凍結していないのでなんとかいける。100m近く下がると小広くなった。振り返る九鬼山が随分と高く見える。ここには右手に朝日小沢に下りるコース案内とバスの時刻表が掛かっていた。あまり歩く人はいないようだ。「田野倉駅、札金峠」方面は左下へ行くように示す指導標に従うとすぐにぐるっと左手に戻るように進むようになり、九鬼山の北斜面をトラバースするコースとなった。地形図どおりだ。ここは一部踏み後が細くなっておりそこに雪がついているので慎重に通過する。やや細いが快適な巻道だ。トラバースを終えると広くなり”紺場休場”の看板がある。写真をとろうとポーチを空けると、なんとコースタイムとアマチュア無線のログを記した紙とペン がないのに気づいた。山頂を出発するときに出発時間を書いたのは覚えているが・・。どうも寒さで慌てて、山頂のベンチに置き忘れてしまったらしい。こんな事初めてでショックだ。無線は5局のうち2局は知人なので覚えているが、あと3局のコールサインも覚えていない。といって今から150m近く登って山頂まで戻る気も、わかなかった・・。

QSLカードが着てから発行するしかないか、と考えて先へ進む。しかしこんなこと初めてで、がっかりとする。それにコースタイムを書かないと何か心配でもある。いつも使っている手帳がみつからなく、慌てて出発前に紙切れ一枚を持ってきたのがいけなかったのか・・。

トボトボと歩くと札金峠で左手に田野倉駅へのコースが分岐する。これを見送って更に行くと、ここにも札金峠の標識がある。こちらが旧峠なのか、小さな切通しで峠らしい。ここからは一転して登りとなる。馬立山まで、150m近く登らなくてはならない。南斜面ですっかり雪もなくやわらかい陽射しを背にうけながら歩く。しかし、コースタイムも無線ログも紛失はほんとうにがっくりだ・・。一旦登った小ピークから僅かに下りてまた急登となる。汗をぬぐうと衝立の様だった760m峰に登りついてここで北東へ90度進行方向を変える。僅かに進むと馬立山だった。二人連れがここでコーヒーを飲みながら休憩している。その横にザックをおろし、やや遅いがここで昼食。ラーメンを作る。二人連れがザックをまとめて札金峠のほうに去ってしまうと、ザワザワと僅かな風の音と柔らかな陽射し以外はなにもなくなった。
九鬼山山頂は積雪約50cm。遠望する
山々が素晴らしかった。
馬立山から九鬼山北斜面。雪化粧して
なかなか立派な佇まいを見せる。

ここから見る九鬼山は北斜面であるが雪を覆い三角形にとがってなかなか立派でもある。目を反対に転じれば里山らしく大月の町並みが手にとるように近い。馬立山からの下山はまっすぐ北東に下りると急な岩場となる。ここはそれを避けて右手の東側に延びる踏み跡で数十メートルほど下りてから左に戻るようにして巻いて下りたほうがコースがやさしいようだ。

ここまで、山は小さい割には小さなアップダウンが続き、歩き甲斐のあるコースだ。ここから先も小ピークを越えて北東斜面になるたびに残雪の登山道となる。740m峰で北西に菊花山への道を分ける。道標があるから良いものの、うっかりするとそちらのほうに進んでも何ら不思議のない分岐だ。もっとも菊花山にまわっても、それはそれで楽しいコースだろう。ここは北東に進む。標高が下がってきたせいか雪の感触も九鬼山のように固くはなく随分とやわらかくなってきた。快調に進む。前方に大きな岩峰が現れた。それを直登するコースと右手の基部を巻くコースに分岐している。気楽な巻き道を選ぶ。この岩の上はちょっとした高度感がありそうな感じだ。

再び先ほどではないが顕著なピークが出てこれが御前山730m峰だろう。左手から巻くように肩に上がるとここで厄王権現経由で大月駅へ行くコースと分岐している。ここまで、山自身は小さくて面白みがあるとはいえないが、しかしこうやって歩いていると大変に心地よい。そのまま右手猿橋駅へ向けて直進する。雪の残る下りとなり、後は淡々と進むだけとなった。大月の新興住宅街が眼下に近い。今日の山も、無事に終えたという満足感がわいてきた。あとは猿橋駅で缶ビールにありつくだけだ・・。

駅につく。到着時間を記そうとウェストポーチを空けて、がっかりする。今度から気をつけなくてはいけない・・・。

久々の猿橋駅は新装されていたが相変わらず駅の売店はなかった。駅にザックを置き国道20号まで缶ビールを買いに歩く。目の前にはもう何年も前に歩いた扇山・百蔵山が大きい。振り返ると西日に先ほど歩いた稜線が高い。言いようもない満足を覚える。それなりに雪の感触を味わい、また、これで禾生駅から猿橋駅までを歩きつないだことになる。嬉しい。揺れる車内で味わう缶ビールも大変旨い。さもない柿ピーも大変に美味しい・・・。

嬉しい。楽しい。疲労感すらも心地よい。ああ、素晴らしい2月の一日だった・・・。

コースタイム:メモ紛失のため不明。


アマチュア無線運用の記録

九鬼山 970.3m 山梨県大月市
50MHzSSB運用、自作SSB/CW機(出力4W)+釣竿ダイポール


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