湘南の丘陵・湘南平から高麗山へ

(2001/4/1、神奈川県中郡大磯町)


昨日は横浜でも午後3時にミゾレの中最低気温1.3度を記録するといった3月最後の花冷えだった。桜の出鼻がくじかれなければいいが、と危惧した翌日の日曜日も晴れてはいるがやや冷たい空気。が今日を逃して来週だともう遅いだろう、とインターネットの花見情報を繰り、湘南平に行こうと決定。妻が大車輪でお弁当を作り上げ、ザックに無線機やお弁当など一式入れてから家を出たのは11時だった。

(湘南平(千畳敷)から桜の木の向こうに浅間山、
そして高麗山。ここを辿る尾根道は雑木の中に
春が満ち溢れていた。)

平塚駅からバスに乗る。湘南平は標高200メートルにも満たない丘陵だがその頂上まではバスで上っていける。とはいえ花見日和の今日は山頂の駐車場が満杯でそのために渋滞が花水川に沿う車道まで延びておりその中にバスが完全にはまってしまった。仕方なく適当なバス停で下車して車道を歩いて湘南平を目指す。

緩やかな登りの車道歩きは味気ないが満開の桜並木の上り坂に娘2人も家内も文句を言うこともなく歩いてくれる。昨日の降雪のせいか丹沢の峰々には雪が付いているのが良く見える。南斜面が白いのだから山はさぞや降ったのだろう。鯨の背のように特徴ある尾根を伸ばした三ノ塔、そしてその左に塔ノ岳が立っている。もうしばらく丹沢にも行っておらず、憧憬の想いがつきなかった。

車道の途中から登山道のような道にとりついて高度を稼ぐ。足元に可憐なスミレの花を見て湘南平山頂だった。お花見客で満杯だ・・・。昨日の寒さのせいか肝心の山頂の花のほうは今ひとつといったところか。がなにはともあれ持ってきたお弁当を広げ缶ビールを取り出す。渋滞が心配だったこともあったが桜の木の下で真昼間からビールを飲む楽しさの誘惑に負けたのも車ではなく電車+バスで来た理由だった。その誘惑に負けた喜びを思いっきり味わおう。

缶ビール片手に50MHzを運用しながら空いた手で弁当を食べるのは大変だ。それでも桜の木の下であれば多少の無礼は許されよう。のんびりとラグチューペースで5局交信。相模湾が真っ青でそこに白い桜と黒い林がコントラストを作っていた。朝起きて急遽1時間でこしらえたという妻の弁当も自然の手伝いもあろうがとても美味しい。

風がやや強くなったのを機に無線設備を撤収して娘2人にせかされてテレビ塔に登ってみる。若い男女が「いつまでも一緒にいられますように」と願いをかけて2人の名前を書いた鍵を展望台の柵にかけるのは湘南台名物だが、7歳の長女の目にはそんなことも分からない。「鍵がいっぱいだねー」と無邪気に走り回る。そう、いつか彼女にもそんな事が分かる日がくるだろうけど、出来ればいつまでも分からないでいてほしい、例えそれが親のエゴであっても・・。

缶ビールでまだ目が回っている感じだが浅間山へ続く尾根道へ足を踏みだした。一等三角点の山頂を過ぎる。雑木林がいい感じで小さなアップダウンの道も楽しい。明るい雑木が続き、渡る風も柔らかく春を実感する。ここは地元住民の格好のハイキングコースなのか麓から犬連れの夫婦なども登ってくる。林相が濃くなりそこに椿の花が幾つか混じった。黒っぽい木々に椿の濃い赤色が思いのほか映えている。木橋を2個続けて渡ると薄暗い感じの高麗山だった。奈良時代以前に朝鮮から渡って来た高麗人がこの近くに上陸したといういわれが山頂の案内板に書かれていた。 1200MHzで1局交信して、急な石段で山麓の高来神社を目指す。

男坂と女坂の分岐で家族に決を求めると男坂が良いという。滑りやすい石段が続く急坂は心配だったが長女は元気良く先に行ってしまう。あいつ、いつの間にこんなところを怖がらずに歩けるようになったのだろう・・。最近何かとお姉ちゃんに対抗心を持ち始めた3歳の二女も先に行きたがるがそうはいかない。手を握りしめ一緒に下りる。妻は階段が苦手でへっぴり腰で降りてくる。しばらく下りて神社の裏庭に出た。国道一号線に出るとすぐに平塚駅行きのバスが通りかかった。

急に行き先を決めて準備をした割には上手く事が進んだと言える。花見と野山散策の半日。かけがえのない時間だった。

平塚駅の駅ビルで夕飯のおかずなどを買い求める妻と走り回る子供たちを見ながら、ああこういう事が家族の姿なのだろうか、などと変な実感がわいてきた。去年の花見は何処に行ったっけ・・。一昨年は・・。あれっ、近所の公園に行ってお弁当を広げたのは、もうそんなに昔のことだっけ・・。そう、下山した高来神社で見事だった桜の木を見て思ったのだった。桜の咲いている時期は本当に短い、そしてその季節を迎えるまでの間もだんだん早くなってきた、と。毎回その季節を迎える度に子供の背が伸びたのを感じ、引きかえに髪の毛も薄くなり顔の皺も増え腹の出た自分がいる。ともに歩く家内とて、いつの間にかそれなりの年齢になっている・・。それらは嬉しくもあり寂しくもある。自分は何処に行こうとしているのだろう・・。このまま毎年が過ぎていくのだろうか。そうして気づいてみれば何年も何年も年月を経ている・・。もしかしたら幸せとはそういうものかもしれなかった・・。

又来年も再来年も桜の芽吹くころ、こうやって四人一緒に歩ければ、と考えた。


アマチュア無線の記録

湘南平(千畳敷)180m
神奈川県中郡大磯町
50MHzSSB、5局交信、最長距離:静岡県田方郡
自作SSB/CW機(4W)+ダイポール
高麗山 168m
神奈川県中郡大磯町
1200MHzFM、1局交信、
STANDARD C710(0.3W)+ホイップ

Copyright 7M3LKF Y.Zushi 2001/4/21


(戻る) (ホーム)