里山・藪山・治療薬 - 津久井郡の低山歩き

(2001/9/30、神奈川県津久井郡津久井町)


こんなことを書くと我ながら情けないが、40歳も近くなった自分、明らかに30歳前半と違うこと、それはやはり「カラダが衰えた!」という事だろうか。良い例が風邪で、季節の変わり目にちょっと薄着でいるとすぐに風邪を引くし、決定的に違うのはなかなかそれが直らないことだ・・。例によって9月も半ばを過ぎると「きちんと」風邪をひいてしまったので、もう2週間、鼻風邪・喉・だるさなどが続いている。薬も飲んで、8時間以上寝ても治癒の気配なし。そうこういううちに9月は「山無し月」になってしまいそうなので空白を埋めるとともに、最後の荒治療に出た。そうそう、必要なのは気力、それに気分転換。山歩きこそが最良の薬ではないだろうか?

治療薬なのだから服用量には気をつけねばならぬ。となれば歩行時間の少ない山、いや丘だ。遠出する気がわかないのはやはり「病」のせいか?であれば地元・神奈川の未踏ピークを一個減らそうか・・・。
(鳥屋・中開戸から登り始め右手に望む仙洞寺山。
ここから山頂へは倒木・藪・蜘蛛の巣の道程だった)

宮ケ瀬湖の北方、鳥屋集落の北には仙洞寺山(せんとうじさん・583m)と茨菰山(ほおずきやま・511m)というマイナーなピークがある。どちらも地形図を点検するのがよほど好きな人か、「新ハイ」の熱心な読者でもない限り、あっ、あとは「山ラン」関係者以外は、まず登ろうとはしないだろう。里山といえば聞こえは良いが、ただの藪の低山だろう、そんな不遇なる山が、こういう時は丁度良い。かく言う自分も新ハイキング社の「中央線の山を歩く」(藤井寿夫著)でも読まなければまず登る気は起こらなかっただろう。

仙洞寺山にはガイドブックの示すように国道412号線の小沢集落から入り南西に尾根を辿って山頂に至るのがもっとも道もよさそうで正攻法の感がある。が、どうせなら仙洞寺山の西にある茨菰山もからめてで登りたい。アプローチに車を使うとなると仙洞寺山と茨菰山の中間地点辺りから両者を攻めるのが良いのか。

考えて両峰の中間地点である鳥屋集落の中開戸地区まで車を走らせる。

8:40、路肩に車を停めて目指す仙洞寺山を右手に見て集落をぬけてゆっくりと登り始めた。畑の中を歩くと畑仕事のおじさんがこちらをみてなにか言いたそうにしている。村の集落は結束が固くなかなかこういうときは部外者は居づらい。とがめるような視線を痛いほど感じながら仙洞寺山への道を聞くと、これを行けば良いと杣道を示してくれる。気をつけてなとも言い添えてくれた。

鹿柵を越えるといきなり雑草に覆われた道となった。緩い傾斜だが久々の山なので息があがってしまう。良い良い、この調子で悪い汗を流して、風邪を飛ばしたいものだ。

山が小さいのでもう稜線が見えている。稜線に立てば立派な踏み跡でもあるか、と期待していたが汗をぬぐって立った尾根にはここまで以上に希薄な踏み跡があるだけだった。ガイドブックによるとここには「火海峠」の名がついている。峠でも何でもない、ただの藪の中である。9:05、ここから左手に進めば地元の鎮守らしい金太郎権現に行け、更にそこを抜けると車道に一旦出て茨菰山に行ける。まずはここを右手に詰めて仙洞寺山を踏んでから戻ってきて茨菰山に進もう。

すぐに415m峰への登りに取り付いた。希薄な尾根道に倒木と小枝が掛かり歩きづらい。パキパキと枝を踏みながら降りかかる小枝や草を手で払う。早くも蜘蛛の糸の洗礼で、不快指数がたちどころに上がってきた。道は不明瞭だがまぁ高みを辿ればよいだろう。倒木の415m峰を越えると急な下りとなり見下ろす北面は藪の広い谷で、思いのほか懐が大きく見える。鞍部からは一転して急な登りが待っていた。踏み跡はかろうじてわかるが十メートルも登ると曖昧となった。ただ伐採跡だろうか、若い植林帯と荒れ放題の藪との境がなんとなく読める。この境に沿うのが正解か。しかしおそろしく急な土肌で立ち木につかまらないと乾いた砂地に足がずり落ちそうだ。

枝をはらいながら遮二無二登ると9:20、ようやく前衛峰の如き高みに登りついた。ここへきて初めて仙洞寺山の頂上が望めた。谷を挟んでおりまだ随分あるように見える。どうやって谷を越えるか・・・。地形図を見る。ここは地形図上の450mの高みだ。であればこのまま伐採跡に沿って北に平坦に進めばうまい具合に仙洞寺山から南西に延びる尾根に出るだろう。古びたジュースの空き缶が転がっていたので下山時の目印にと登ってきた箇所にそれを置いた。

伐採跡に沿って進む。ひょっこり藪を抜けるとスポンとエアポケットに落ちたような感じで幅広い林道跡に出た。地形図どおり。仙洞寺山の中腹を一周する林道なのだが、道といっても北に伸びる道は藪が遮っており廃道だ。南に目を転じるとなにやら動くものがいた。野犬だ。首輪をつけているが餌の物色でもしているのか・・・。一瞬体が固まってしまった。飼われていた犬であれば襲いかかることはないだろうが、怖い。肝心の山頂に至る道にどこから取り付けば良いのか判らないがあの犬のほうには行きたくない。反射的に北に向けて廃林道の藪の中に足を向けた。

アザミと茨が足元に絡みつくが怖くて仕方ない。何処から尾根に取り付こうか、密藪で文字どおり取り付く島なし。が、ふと目をとめると薄暗い右手の中に踏み込めそうな空間を見つけた。えぇい、ここから入ってしまおう。とにかく犬から逃れなくては。

中腰になって枝を払いのけるとなんと割合に明瞭な踏み跡があるではないか!上手い具合に主稜線を辿れたようだ。犬の嗅覚圏から逃れたい。枝を踏み蜘蛛の巣を払いながらひたすら登る。追ってこないか、歩みを止めるとシーンとしているが何やらパキンパキンと音が聞こえるような気がする。さっきの犬か?前々から充分わかっていたけれど自分はやはり怖がりなのだ。ザックから笛を取り出し「ピリリ」と鳴らす。動物よけだ。いや、この音を聞きつけて来るかもしれない。馬鹿なことをした、と先を急ぐ。

急いで歩いているせいか喉がいがらくて大きく咳き込む。頂上に着いたってどうせ人はいるまい。
(山頂は倒木と藪の中) (山頂からやや下ると
津久井方面の展望が広がった)

傾斜が緩んで、ここが山頂だろう。9:50、薄暗い植林の中を藪が茂っていた。冴えない山頂だ。気持ちがだんだん落ち着いてきた。なに、飼われていた犬だよ、来たらお握りでもご馳走してやればいいさ・・。

余裕が心の中に出て、無線をやる気になった。さっきまではそれどころではなかった。最近改良したヘンテナを組み立てて、自作の50メガの無線機をつなぐ。CQを出すとJG1OPHを初めとする御馴染みとつながる。これだけ大きな音を出していれば、犬も来ないだろう。陽の射さない山頂は薄ら寒く、鼻風邪が復活してきた。鼻がつまりマイクに向かって喋るのが辛い。ラストにJI1TLLに呼ばれるが、リグの変調が悪いのではなくて鼻声でそんな変調なんですか、と言われる。来るフェスティバルの話をして、閉局。

もう野犬に遭うかも知れぬさっきの道を戻る気は毛頭ない。このまま北西に、国道412号線・小沢集落に下りよう。こちらがこの山のコースでは一番歩かれているとのことだから苦労はしないだろう。10:40、ザックを背負い北西に向かう。

さきほどまでの藪道が嘘のような良い道が北西にまっすぐ伸びていた。わずかに下りると展望が開け相模川方面が薄いガスの中に広がっていた。午後から雨だという。丁度良い数時間の山歩きだといえよう。たんたんと下りるとどうしたものか5人組が登ってきた。篤志家も居るものだ。

場違いなログハウスがあり、そこにさきほどの周回林道が走っていた。森林公園の如きを作りかけていたのだろうか、それにしてもこんなところに公園を作ってもまず人は来ないだろう。公共事業の正当性が最近良く言われているが、政治に疎い自分ですら疑問に思うことが山を歩いていても時々ある。

周回林道をわずかに南に戻るとすぐに下から登ってきた林道が合流した。あとはこれをのんびり辿るだけ。

11:30、国道413号に出てバス停のダイヤを見ると、なんと車を停めた鳥屋方面に行く宮ガ瀬行きのバスは5分前に通ったばかりで次は2時間後だ。仕方なくのんびりと国道を歩いて、鳥屋・中開戸を目指す。

こうして下から見ると仙洞寺山もひとかどの山に見えるではないか。なにやら嬉しさが湧き上がってきた。鼻風邪はまだ治らないけど、荒治療が少しは効いたのか、だるさや熱っぽさは何処かに消えたように思える。茨菰山は、登れなかったけど、またいつか行こう。

風邪の治療薬としても「山無し月」を防ぐにも、正解だったかな、そうつぶやきながら右手に里山・藪山、そして愛らしき山を仰ぎながら車に戻った。


(コースタイム:中開戸集落8:40-稜線9:05-450m峰9:20-仙洞寺山・アマチュア無線運用9:50/10:40-国道413号線11:30-中開戸集落12:40)


アマチュア無線運用の記録


仙洞寺山 588m
神奈川県津久井郡津久井町
50MHzSSB運用、5局交信
自作トランシーバSSB/CW(4W)機、軽量ヘンテナ



Copyright : 7M3LKF Yukio Zushi 2001/10/21


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