道が読めなかった安蘇の低山・尾出山

(2001/12/1、栃木県安蘇郡葛生町・上都賀郡粟野町)


分県別登山ガイドから栃木の尾出山に目をつけていた。以前に登った桐生市・安蘇郡の熊鷹山から東を見たときに連なる低山の中に、比較的目立つ立派な独立峰があったように記憶している。あれが尾出山ではないか、という勝手な想像も手伝っていつか登ろうと考えていた。

栃木IC経由で登山口の与州平に行く。寺沢林道の途中に左手に派生する林道分岐辺りに車を止める。予定では尾出山から尾根を伝って高原山まで歩き、ここへ下りてくる目論見だ。

寺沢林道はそのまま続いている。比較的急で高度を稼ぐまっすぐな道だ。林道終点となり、ここで3人パーティが休んでいた。挨拶をして目の前にまっすぐ続く沢沿いの登山道に踏み出そうとすると「いつもこのコースで行くのですか?」と聞いてくる。初めての山であることを告げ歩き始めた。よく踏まれて入るがやや荒れている。
(落葉を踏んで日溜りの尾根を歩いた。
茶色のモノトーンの中、秋の匂いが
一面に漂っていた。)

杉林の中倒木や流されたと思われる石がゴロゴロしていて歩きづらい。が、10分も歩かぬうちにかなり大きな谷が左手に分岐していて踏み跡もここで直進と左手に分岐していた。どちらの方向の杉にもピンクのリボンが幹に巻かれており、どちらでもよいのだろうか。が良く見るとそこらじゅうの木にこのリボンが巻かれている。登山道を示しているのではなく伐採用の目印と気づいた。さて、どうしようか。ここで頼みの2.5万分の1地形図「中粕尾」を広げる。現在地点はかなり明瞭な谷の出合である。地形図では海抜570mあたりに大規模な谷の出合が見てとれる。たしかガイドブックに「二俣」と書かれていた沢の分岐である。なるほど今、二俣か。であればこれを左に辿るのが正解だろう。地形図上の登山道コースも左の谷に沿って記載されている。左に沿って谷に踏み込んでみる。上部は急峻な谷で尾根筋が逆光のなかに頭上に見える。くずれやすい地肌を踏んであるくが、どうも違っていそうだ。それに稜線があんなに近いのだろうか。

出合に戻って思案する。まぁ山は小さいので何処を歩いても強引に登れるかもしれない。とここで下方から枝を踏む足音が聞こえてきて、先ほどの3人組が登ってきた。「台風で道が荒れているねぇ。まだ先ですよ」と言う。地元パーティのようだ。

彼等の後につづいて本谷をそのまま歩く。沢水はとっくになくなり再び小広い谷の分岐となった。先ほどの二俣ほど明瞭な出合ではないがもう源頭だろう。とここで彼等は左手の不明瞭な谷にトラバース気味でぐいぐいよじるように歩いていく。手元の地形図を広げるがどうもしっくりこない。二俣の上にそれらしい谷の合流は2箇所読めるがいずれも規模の小さいものと思われる。今、何処に居るのだろう。ここは一体、地形図上の何処なのか。

それらしい沢の分岐が地図上から見て取れないことが悔しい。先ほどの大きな出合からさして歩いていない。えぃ、いいや、思考は停止して彼等の後を追った。崩れやすいトラバースをすぐで稜線に出た。ここが尾出峠なのだろうか。この尾根が高原山に続く縦走路なのだろうか。それにしても落ち葉が吹き溜まりのようにたまった尾根で踏み跡は全くと言っていいほど判別できない。これが縦走路であるはずなら背後に825mピークがあるはずだ。振り返るが枯れ藪の枝が煩わしく遠望が全く利かない。10mほど先を先ほどの3人組が先行しているがすぐに彼等はザックをおろして1本立てはじめた。

代わってトップとなり更に尾根を進む。枯れ藪の尾根で枝がしきりと邪魔するが高度は稼いでいる。小さな岩稜が連続して出てきて、一体何処から取り付こうか、と思案する。しかしこれがガイドブックにも載っている縦走コースなのだろうか。判らないがもう山頂は近いし、あまり考えずに目前のコース選びに専心しよう。

歯のように地表から生えたような連続する小さな岩を越えていく。結構タフだ。右下の方にトラバースするように逃れると色あせたリボンがある。ザレた地肌のなか、潅木をつかんで直登する。よつんばいで攀じるがずるずると滑りそうでイヤな感じだ。口の中に砂っぽさが広がり唾を吐く。頭を上げると前方に緑色のナイロンロープが垂れ下がっている。左手でつかんで登ると傾斜が緩み降りかかる枯れ藪を払いながら進むと明瞭な踏み跡に合流してそこが尾出山の山頂だった。

ヤレヤレ、ともかく登ってきた。石祠の上に「達筆標識」もある。袈裟丸や皇海山などはまださほど白くないが、白根山は名の通り真っ白である。その右手の男体山は黒々としている。僅かな標高差の山々なのだが、この違いは何だろう。

日溜りの山頂で、久々に缶ビールを開けて50MHzのリグを出す。枝が邪魔して3m長のヘンテナは無理だろう。釣竿ダイポールをアンテナを設営する。CQを出すとJI1TLL須崎さんが即座に呼んできて長話となる。7L1UGC・鈴木さんとも久々につながった。連続はしないがなかなか呼ばれて嬉しい。10局以上と交信するのは久しぶりだ。

さて高原山方面に進む。先ほど藪の中からひょっこり踏み出た踏跡はなんなのだろう。試しにまっすぐにそちらに進んでみる。上から俯瞰してみるが物凄く明瞭な踏み跡でこれは一般登山道そのものだ。改めて地形図を広げると謎が解けた。南西に進んでいるこの尾根道こそが高原山へ続く尾根である。さっき自分が登ってきたのは1本東側にある、山頂から東南に落ちる尾根であった。そう考えるとあの希薄な尾根道との関係が符合する。しかし、あの尾根に登りつくまでのアプローチがいまひとつ判別しない。林道終点から歩き始めて最初の遭遇した谷の出合は一体何処なのだろう。

考えても仕方ないのでまっすぐ進む。鞍部が尾出峠で、ここを東に辿ると先ほどの谷の何処かに出るはずだ。そこはどちらに進もうと自分が思案したあの谷の出合・二俣に出るに違いない。謎解きのためにここを下りようか、との衝動に駆られたが予定通りまっすぐ尾根を辿る。落葉で踏跡の不明瞭な円丘状の825mピークを通り過ぎる。前方に高原山が見える。しかしどうもはっきりしない。一体どういうアプローチであの南東尾根に出たのだろう。そんなことばかり気になって目の前の展望がすんなりと頭に入ってこない。とはいえ、葉をすっかり落とした雑木を辿る道は心地よく、日溜り山行の良さが凝縮されている。高原山への登りで振り返ると尾出山が立派な姿を見せており、なかなかのもんだ。
(高原山へ登りから、尾出山を望む。)

高原山で再び簡単に50MHz運用をこなしていると例の3人組が通り過ぎた。山頂直下の東電の高圧鉄塔で休んでいる彼等に追いつく。案の定地元のパーティで尾出山には静けさを求めて年に数回登っていると言う。

ここからは東電の鉄塔巡視路である。ここまでの尾根コースよりもはるかに明瞭でありたんたんと下がる。しかし、足慣れした地元のパーティが先導役してくれたおかげで当初考えていなかった尾根道を辿り山頂まで無事に着いたが、結果よければすべて良しとはいかない。彼等がいなかったらあの尾根に出る直下の沢の分岐からトラバースなどに踏み込もうという判断を自分で下せただろうか。この道を辿ろうと自分で決めて、その通り地図を見ながら歩ければ満足は高いが、そうではなく半ば盲目的について行ったのだから全く情けない話である。186号鉄塔で鋭角的に折り返しつずらおれを7分も辿ると林道となりすぐに駐車した場所に出た。

* * * *

家に戻りガイドブックやYAMAROOMのバックナンバーを調べてみた。意外なことが分った。あの林道の終点こそが、私がそうであろうと誤って考えた海抜570mの分岐・二俣であった。そんな事はありえないだろう、と歩いているときは林道周辺の地形を見る事もせずに目の前に伸びる沢道にまっすぐ踏み出してしまったが。そういえばあそこで休んでいた3人連れに「いつもこのコースか」と問われたが、それはこのコースがマイナーな道で、メジャーなコースは別にあると考えるのが普通かもしれなかった。あの時は休んでいる3人に邪魔にならぬようすんなり通り過ぎるのを心がけたが、あの時周りを見れば、物凄く明瞭な沢の分岐と左手に登る本来の登山道を見出せた、という事になるのだろう。となると最初に自分が「二俣」であると誤認した谷の出合は標高620m地点にある、地形図上でもわずかにそれとわかる沢の合流地点であり、トラバースに転じた箇所は標高670mにある、やはり僅かな等高線の窪みの箇所に該当することになる。そう考えるとすべてがピタリと一致した。しかしあんなに大きく思えた最初の谷の出合が地形図にするとほんのわずかな等高線の窪みでしかない、という事が驚きであった 。実際の地形の在り方とそれを地形図に展開したギャップが自分には全くつかめていなかったのはがっかりであった。

それにしても本当にあの林道の終点に地形図上で見るあんなはっきりとした沢の分岐があったのだろうか。林道工事の名残で確かに路肩には盛り土があったものの、あんなに明瞭な地図上の沢の分岐を果たして見逃せるものだろうか?今となっては判らないがいずれ又行く機会があればもう一度見てみたい。しかし、読図とはまったくもって自分には難しい。少しは地形図にも慣れたかな、なんて思っていた自分の甘い考えが根底から崩れ去るのはくやしくもあったが、ここまで情けないと痛快ですらあった。

(終わり)

(コースタイム:林道分岐9:20-林道終点9:47-尾出山10:50/12:15-尾出峠12:35-825m峰12:50-高原山13:30/13:52-186号鉄塔14:15-林道14:23-林道分岐14:28)

(国土地理院ホームページよりダウンロードした地形図を使用)

アマチュア無線運用の記録

尾出山 933m
栃木県安蘇郡葛生町
50MHzSSB運用、自作4WSSB/CW機+ダイポール
高原山 755m
栃木県上都賀郡粟野町
50MHzSSB運用、自作4WSSB/CW機+ワイヤーダイポール

Copyright 7M3LKF Y.Zushi 2001/12/6


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