登り残した御坂の主峰・黒岳へ

(2000/7/30、山梨県東八代郡)


(黒岳への登りで
ガスに会う。
登れど登れど
ガスは更に前方
へ逃げて行った。)

NIKON FG20
35-70mm F11AE

7月最後の週末、山梨県・御坂山塊で登り残していた黒岳を目指す。昨年の12月、今年の4月とここのところ御坂に足を延ばす機会が大きいが黒岳は御坂山塊の最高峰という事もあり早く登りたかった。

河口湖駅駅前から4月から11月までは天下茶屋まで土日運行のバスがあるので稜線には訳なく上がってしまう。稜線に上がると適度に風が吹いており暑くも無く快適だ。昨年末にすでに無線運用している御坂山を越え御坂峠へ。下界は晴れていたが稜線は丁度雲との境で、前方の黒岳はその山頂部がすっぽりと雲の中に隠れている。しかも普通の白い雲ではなくややねずみ色がかった、いかにも一雨降らします、といった感じの雲だ。あそこを歩くのか、やや気が重くなる。送電線鉄塔を越えしばらく歩くと視界が開けて御坂峠だ。峠の茶店(山小屋)は閉めて久しいようだがトタンの戸をずらすと中に入れそうだ。埃とカビっぽいが中には布団なども置いてあり避難小屋といった程度には充分使えるだろう。

黒岳への登りの中でいよいよ雲の中に突入して濃密なガスの中を歩くようになる。ブナ・ミズナラの林の中を霧が流れるその様はなかなか幻想的でもあるが、入梅時期ならいざ知らず盛夏のこの時期にこの眺めを見るとは思ってもいなかった。この眺めは幻想的なので決して嫌いではないが、同時に雨に会うのではないか、とすこし不安も漂わす眺めだ。なだらかな登りの中時折急登が混じる。見上げる上り坂の上に濃いガスが流れているのでそれに追いつこうと登るとそこにあったはずのガスは消え更に前方に漂っている。まるでガスに手招きされているような、そんな不思議な感覚だ。前方からかすかな音。歩みを止めて耳を澄ますと鈴の音だ。誰か居るのか・・。しばらく登るとガスの奥、前方に登る夫婦づれをみつけた。鈴の音は奥さんの赤いザックから流れ出ていた。二人を追い越し先へ進む。鈴の音が後ろになって、やがて聞こえなくなった。再びガスの中独り登る。

傾斜が緩むと視界が開けて黒岳山頂。これが一等三角点も置かれているという御坂の主峰の頂上か、という感じのあまりぱっとしない山頂だ。風が強く黒い雲白い雲が速い速度で移動していく。時折晴れ間が覗くがそれも一瞬だ。ただそのおかげで涼しく快適。米国人を連れた3人パーティに会う。だだっ広い平野しかないアイオワ州から来たという彼はこの手の日本の自然の美しさにいたく感動しているようで、それを聞いてこちらも何となく嬉しくなった。それに最近は山で外国人に会う機会がずいぶんと増えた。

アマチュア無線・50MHz運用。毎度のJG1OPHに呼ばれ、山と無線仲間の消息を教えてくれる。JS1MLQが静岡市移動で出ていたとのこと、多分南アを縦走しているのだろうか・・。と次には当の本人、川田さんが呼んでくる。南ア中部の烏帽子岳からで明日塩川に下りるとの事。これで南アルプスの全山縦走を終えたという。素晴らしく、羨ましくもある。南アルプスは自分の中で最も憧れる山域だが全山縦走など体力的にも精神的にも出来っこないのが分かっている・・。しばらく無線を続けていたが急にパラパラと雨つぶてが落ちてきた。慌てて閉局・撤収をしてゴアを羽織ると再び止んでしまう・・。

今日の目的は大石峠まで。ガスの中を西を目指して歩きはじめる。破風山を越え新道峠。ここで一思案。下山地の大石ペンション村からのバスは15:41の次が17:10。ここから大石へ下りれば15:41のバスに余裕だが、大石峠まで歩くとバス停着は16:30頃か・・。早く家に戻って家族に会いたいとも思うがここから下りては歩き足りないという気もする。最近長時間歩く山歩きをしておらず欲求不満気味だった。どうしようか、ええい。歩こう。楽しもう。家族には悪いけど・・。真っ直ぐに稜線を辿る。

節三郎岳へ向けて再び緩い登りが続く。霧が再び速くながれていく。雨が急に強く降り始め再びカッパを羽織った。樹林の稜線歩きなので横着してカッパのズボンをはかなかったのが裏目に出た。雨に濡れた下草に触れあっという間にズボンがぐしょっりと濡れて重くなってしまう。風が相変わらず強くブナの林がなびくように揺れる。露岩地帯に出て雨に濡れた岩が滑りやすく緊張する。片流れの大きな一枚岩を慎重に越えると二枚の大岩が行く手に待っている。回り道を探すが絶壁となっておりどうやらこの二枚岩をすり抜けるしかなさそうだ。手を付いて足を掛けて通りすぎた。黒岳から先は誰にも会わない中、稜線で見舞われる風と雨、それに濡れた露岩とはなかなかこちらを不安にさせてくれる。時折薮っぽい道も現れる。御坂は夏はシーズンオフのようだ。
(大石峠にて。人の来ない山に
咲き乱れるその様は
寂しい美しさに
溢れていた。)
NIKON FG20
35-70mmF4.5、 1/250秒

視界が開けると大石峠に出てここからペンション村までは一度歩いている道となる。色とりどりの花が咲き乱れる大石峠は人寂しい美しさに溢れており、緊張が解けてほっと胸をなで下ろした。

雷光型に大石へ下りる道となる。ここへきてゴアテックスのトレッキングシューズの中の靴下がじゅくじゅくしてきた。ずいぶんと濡らされたからなぁ、ゴアといってもこんなものか。いやズボンから靴下に染みた水分が爪先まで伝わったのか・・。林道に出て靴を脱いで靴下を絞ると面白いように水が滲み出た。見上げるとさっきまで歩いていた御坂の主脈稜線が高く見える。相変わらず雲はその稜線を絡むように流れていた。

少ないバス、のんびり運行の富士急から中央線・横浜線を乗り継いで自宅に着いたのは下山してから5時間後の21時半だった。直線距離の割に御坂は遠いというのが実感だ。

* * * *

今日の山行で一応JR初狩駅から精進湖まで、御坂の主脈全山縦走が終わったことになる。派生している三ツ峠や十二ケ岳、三方分山などはまだ登り残しているが、三ツ峠山は人気の山だが自分の中ではあまり登ってみたい気が湧いてこない。テレビアンテナ乱立の、冴えない山に思えてしまう。十二ケ岳や三方分山は晩秋の頃にでも登ってみよう。川田さんの南アルプス主脈全山縦走には比較すら出来ないが、御坂山脈縦走は早く達成したかったのでやはり嬉しい。それに初雁駅を介して大菩薩にも足跡がつながった。あと二回中央線沿いの山を歩けば足跡を丹沢・奥多摩につなげる事も出来る。年内にはそれをやろう・・。

好きな南アルプスの展望にも恵まれ(今日はだめだったが)、又訪れる人も丹沢や奥多摩に比べ格段に少ない御坂は気に入った山域だ。御坂山塊の山々はそれぞれ良い山だったが、記憶の中では薮歩きの果てに立った王岳の静けさとその格好良さが、今日の黒岳の風雨・ガスの稜線歩きとともに良い印象で残っている。

(天下茶屋9:30−稜線9:45−御坂山10:18−御坂峠10:43−黒岳・アマチュア無線11:35/13:00−破風山・アマチュア無線13:20/13:30−新道峠13:40−節三郎岳・アマチュア無線14:10/14:20−大石峠15:05/15:20−林道16:00−大石16:30)


アマチュア無線運用の記録
黒岳 1792m
山梨県東八代郡芦川村
50MHzSSB運用、21局交信、最長距離、茨城県那珂郡
自作SSB/CWトランシーバ(4W)+デルタループアンテナ
御坂山脈の中で最も高い山。遠くから見ると重厚で大きな山だ。山頂は樹林に囲まれ展望は得られない。立派な一等三角点が置かれている。山塊の最高峰で好きな50MHzの運用が出来た事が素直に嬉しい。
破風山 1674m
山梨県東八代郡芦川村
430MHzFM運用、STANDARD C710+ホイップ 主脈縦走路中の一ピーク。顕著な高みもない。手短に、と1200MHz運用を目論むが入感なし。時間も無いので430MHz運用。東方面は黒岳がブロックしているせいか、ビームでも使わぬと1200は苦戦するのだろう。
節三郎岳 1665m
山梨県東八代郡芦川村
430MHzFM運用、STANDARD C710+ホイップ 主脈縦走路中の一ピーク。雨の中、これも手短にと1200MHzにトライするも入感なし。再び追われるように430MHzへ。山ラン稼ぎも楽ではない。

Copyright:7M3LKF,Y.Zushi 2000/7/30


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