ぱっとしない雨上がりの藪山歩き−藤野鷹取山

(2000/6/25、神奈川県津久井郡藤野町)


新ハイキング社発行による「中央線の山を歩く」(藤井寿夫著)という本は道志やJR中央線の主に高尾駅から塩山駅あたりまでの区間の低山や無名山、藪山の類が豊富に紹介されており、山梨県東部の山に出かける機会の多い身としてはなかなかありがたい。紹介されている数あるコースの中でJR藤野駅北東に位置する鷹取山の記事が目を惹いていた。もとより梅雨の最中、雨を覚悟出歩くのであれば短いながら少しひねったコースが面白い。鷹取山は「地形図読図入門の山」と紹介されている。2万5千分の1地形図にも、もちろん昭文社のエアリアマップ「高尾・陣馬」にも登山道の表記はない。つまり薮っぽいのだろう。標高472mと山自体は小さい。小さくもひねりがありそうだ。こんな日にはもってこいの山だろう。

* * * *

いつもは登山客を必ず見かける休日の朝の八王子駅だが小雨降る今日のような日に限ってはさすがに酔狂な山好きは見かけない。もしかして自分は変わり者なのか、と思っているとそれでも何人か同好の士を見かけた。なんとなくほっとする。

JR藤野駅で降り立つ。スパッツをつけ準備OK。ガイドブックのコピーに従い中央高速のガードをくぐり廃屋となった民家の前を左手に折れて稜線に立つ藤野神社を目指す。雨上がりの急な石段は滑りやすい。境内は既に尾根の上で、あとはゆるゆるとこの尾根を北北西に進むという算段だ。

境内から少し下がると分かりやすい確かな踏み跡が西北西に伸びている。その明瞭さにやや拍子抜けがしてしまったが高圧電線と絡むように進んでいく。踏み跡は稜線を素直に辿っており、左右両手の落ちた細い尾根の個所もありなんとなく目を閉じればアルプスの高峰の吊り尾根を歩くような想像をしたいところだが、何のことはない、目を開ければ左手下からは直下の中央高速を往く車の音が聞こえてくるのだから仕方が無い。

分かりやすい尾根道ではあるがこのあたりから道は下草が生えはじめ往来の少なさを思わせる。一度下がって眼前に迫る377mピークは高圧電線を左手にわけ直登する。山頂は薄暗く、ここには「岩戸山」という山名標識が掛かっている。鷹取山へ、を示す標識にしたがって北に短く急降下すると今までの明かるい雰囲気から一変して薮がちの暗い道となった。なによりもクモの巣がしきりにふりかかってきて不快の極みだ。下草が奔放でスパッツのみならずズボンまでぐっしょりと濡れてくる。短いながら一部コースを隠すような枝も出てきて枝や葉が遠慮なく顔や首筋にも振り掛かり雨滴でたまらない。これはいかん。むし暑いがゴアのジャケットを羽織ることにした。

地形図上では二本の送電線が東西に並行して走っているが、濡れた藪の中を枝を払いながらやや進むとひょっこりと明るく開けた箇所に出てそこが北側を走る送電線の鉄塔の立つ台地だった。ここで二本目の送電線もパスして北西に進路をとる。しばらく刈り払いのされた道だがすぐに薄暗い薮に導かれる。ズボンの濡れはここまでぐっしょりくればもう気になる事もない。むしろ冷やりとして気持いい、とも開き直れる。

ガイド記事によるとこのあたりで林道とクロスする、とあるが最低鞍部あたりでなるほどそれらしい交差がある。が林道というよりもやや幅の広い踏み跡、といった程度のもので道も歩かれなければ当然自然に還っていくという好例であろう。登りかえすと小さな岩がありそれに乗るとガイドの通り小さな祠がある。5円玉と 1円玉が一枚づつ置かれている。一条のか細い踏み跡はなおも続き、まあルートファインディングに苦しむという程のものでもない。ただ濡れた枝と草が大きく立ちはだかり、そこに申し合せたように蜘蛛の巣がかかっているから厄介だ。からむクモの粘糸と草の露で露出する肌が猛烈に痒くなってきた。顔、首筋、手・・。ちりちりと痒く、タオルでもあれば首から顔にかけてぐるぐる巻きにするのだが生憎と持ってきていない。準備の手薄さが後悔された。

(濡れた薮と蜘蛛の巣をくぐる事2時間、
好事家のみが寄るであろう寂峰の山頂は全く冴えないものだった。)

NIKON FE10 ズームニッコール35-70mm F11AE

引き続きガイドの示すとおり林道と思えるやや幅広の道を併せるがこれとて廃道で林道といえる代物ではない。つっきって高度を稼ぐと地形図上の350mピークでここには小渕山という山名標識がかかっている。

この後も時折作業道と思われる枝道が現れるが藤野山岳会の手による青い木製標識が時折掛かっており迷う事はない。コースを見つけるという作業自体は厄介ではない。が、もちろん歩く土の上には登山靴の跡はなく、ここしばらく探訪者がこの山にいなかった事を物語っている。時折さびたスチールのジュースの空缶などを見つけるが見たことの無いような図柄の缶だ。

いくつかの小さなピークがあるが、コースに掛かる濡れた枝とそれに判で押したように絡んでいるクモの巣がとにかく不快で露出した素肌がたまらなく痒い。ガイドに従い稜線をはずさぬように進む。

一個所稜線を外れる個所があるがそこはやや東側に一旦離れふたたび山腹をトラバースして再び稜線に戻る。あとは尾根に乗る事を心がけるのみ。か細い踏み跡が続くのでさして心配は要らない。標高400mあたりで今度は尾根を真っ正面にして踏み跡が左右に分かれている個所に出た。まっすぐと尾根を進みたいところだが道は無い。どちらから道から巻いて尾根に乗るのだろうか・・。頼りの藤野山岳会の青色看板はここにはない。地形図とにらめっこしてまずは右手の踏み跡に踏みこんでみるが十数メートルも進まぬうちに枝が大きく掛かりいかにも廃道っぽい。雨をたっぷり含んだ土肌はずるりと崩れやすくこれは違う。戻って左手にいくと今度は問題無い。良く見ると色の褪せたくすんだテープが巻かれておりこれが正しい。すぐに巻き気味に稜線に戻るように道が続いている。

クモの巣は相変わらずで一体幾つ今日はこいつと絡んだ事だろう。いきなり顔にかかると不快なので目を良く凝らしながら払いつつ進むのだが百発百中とはいかない。掻き毟りたくなるような痒みを体中に感じながら滑りやすい坂を登ると視界が開けてそこにこんな寂峰にはやや不似合いな立派な山名標柱と古ぼけた三等三角点が立っていた。

ふーっ、やっとついた。しかしぱっとしない山だなぁ。こんな山をわざわざガイドにする人もいるとはとんだ好事家も居るもんだよな・・。

こんなピークでも一応ヤマランのポイントになるのでアマチュア無線・50MHz運用。樹間にワイヤーダイポールを張りピコ6をつなげた。もとより低い山の上Eスポも出ているかもしれない。それに雨という予報もあり最低限の設備だ。まぁCQを出して1局でも呼んでくれれば良いだろう。そんな気持ちでCQを出すとJG1OPHをはじめとして5局と交信が出来てしまう。これは意外。

こんな山頂で食事を取る気もしない。ささっと片づけて北に向かうと左手に古びた有刺鉄線が現れそれに沿うように高度を急激に下げていく。三基の石祠が右手に洗われそのまま下りていくと佐野川と上沢井を結ぶ舗装道路に飛び出た。こちらからはあっけなく登れてしまうようだがこの舗装道路からの鷹取山への入り口にはこれといった標識もなく勝手知ったる人以外は入れないだろう。

山自体は小さいのでこれといった苦労もなく登ってしまった。登る前は小さくとも一ひねりある山、と思っていたが、まあそれでも半ひねりくらいはあったか・・。

JR上野原駅まで車道をたんたんと歩く。駅に着くと昨年の2月に登った鶴島御前山が目の前に思いのほか大きかった。

* * * *

家に着くなり家内が私のなりを見て驚きの声を上げた。鏡を見るとなんと首筋から顔じゅうが蕁麻疹のように真っ赤になっている。痒みはさしてなかったが、雨露と蜘蛛の糸などにかぶれたのだろうか。果たして翌朝起きてみるとポツポツとそこらじゅうに赤い発疹があり、とても痒い。たまらず皮膚科にいくと、毛虫やダニにやられたのではないか、との事。さもありなん、下山してレインウェアを脱いだらカラフルな毛虫が一匹ウェアを這っていたのだから。

おぞぞ、雨の上がったばかりの薮の山など決して行くべきではないな・・。何が一ひねりした山だか知らぬが、全くぱっとしない雨上がりの薮山歩きだった・・。

(コースタイム:JR藤野駅9:10-藤野神社9:24-岩戸山(377mピーク)9:45-鉄塔10:02-岩上の小祠10:08-小渕山(350mピーク)10:17-鷹取山・アマチュア無線11:05/12:10-林道12:28-JR上野原駅13:35)


アマチュア無線運用の記録

鷹取山 472.4m
神奈川県津久井郡藤野町
50MHzSSB運用、5局運用、最長距離:神奈川県横浜市
ミズホMX6S(1W)+ワイヤーダイポールアンテナ

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