タイトル 鬼平犯科帳・五月闇
放映年 1995年(第五シリーズ)
放映話数 全13話
密偵、伊三次の馴染みの女、女郎のおよねを演じている。よく同じ人物でもシリーズが違うとキャストが替わるが、吉右衛門鬼平ではおよね=志乃さん

●鬼平犯科帳・ねこじゃらしの女
(1990年・第二シリーズ)
●鬼平犯科帳・五月雨坊主
(1997年・第七シリーズ)

女性初登場は池波志乃さん。江戸前の女って感じ。父親は金原亭馬生師匠、祖父は名人古今亭志ん生師匠。夫は中尾彬

 「いっささ〜ん」とやや鼻にかかった声で伊三次を呼ぶ声が、どこか色っぽく、また江戸前な感じがする。人のいい女でも、悪女でも、この女性ほど<おんな>を強く感じさせる人はいない。やや上目遣いで、ねっとりと視線を送り、にたり…と笑う。思わずぞくっとくる(いろいろな意味で…)
 だが、実際のこの女性は、きっとさばさばとした、男っぽい人だと思う。およねは、そんな池波志乃さんの素の性格が反映されて、どこか憎めない、かわいい女に仕上がっている
 「五月雨坊主」で、朝、納豆ご飯を伊三次に食べさせるシーンや、墨の筆でお互いの顔に落書きしあうシーン。伊三次役の三浦浩一さんとも雰囲気がぴったりで、精悍な伊三次と、ちょっとおばかなおよねが、緊迫したストーリーの中で、ほっと息をつける空間を作り上げている
 「五月闇」で雨続きの暇な時、思わず彦十を誘い(原作では五郎蔵)断わられた時ちょっと寂しそうに、「あたしって、本当に男が好きなんだね〜」と涙ぐむシーン。伊三次が過去にあった出来事のため、平蔵の許しを得たにも関わらずおよねと所帯を持たないことを知り、「あたし、伊佐さんにも振られちゃったんだ」と拗ね、伊三次が涙ながらに「そんなんじゃねえんだ」と叫び走り出す場面…どれも、志乃さん=およねがとても素敵だ。昔は、こんな女がいたんだ…と池波正太郎先生が呟いているようだ。ちなみに彼女は、第一シリーズで「金太郎蕎麦」のお竹を演じている。入れ墨をし、片肌脱いで出前を運ぶ、ちゃきちゃきの志乃さん。まだ見る機会を得ていないのが残念である
 つい最近、吉右衛門父@松本幸四郎さんの「鬼平犯科帳」を見たら、およねは藤田弓子さんが演じていた。こちらのおよねは健康的で、でもやはり明るく、可愛らしい。女郎という境遇にいながら明るさを失わない、彼女らのような女性を池波先生は愛したのだろう(2002.8.14)