損益分岐点分析とは何か

 利益が出ているかどうかは、損益計算書を見ただけで、誰だって分かります。
 それに「表面上の利益」を出すのは実に簡単なことなのです。
 例えば、売掛金の水増し、買掛金の繰り延べ、既に落としてしまった費用を「研究開発費」といった名目で「繰延資産」に計上、棚卸商品を実際より多くする等々で、すぐに利益は出せます。
 しかし資金移動表を作成すれば、この粉飾はバレバレです。何故なら、利益は必ず「現預金の増加」となって現れます。表面上の利益をいくら出したところで、売掛金の水増し、買掛金の繰り延べ、既に落としてしまった費用を「研究開発費」といった名目で「繰延資産」に計上、棚卸商品を実際より多くする等々によって「現金預金が減少」してしまったことを、資金移動表がすぐにあばいてしまう。皆さんが勉強した資金移動表は、こんなに優れものだった、のです。

 個人企業で人を雇っていなかったり、銀行から借入がない場合は「損益分岐点」は考えなくてもいいでしょう。
 しかし、人を雇っていれば昇給も考えなければなりません。借金があれば元金も利息も支払わなければなりません。
 自分一人だけなら財布の紐を締めればだから済むことなのですが、社員や銀行に対しては、赤字だから昇給や元金・利息の支払いを我慢してね、というわけにはまいりません。どうしても、昇級や返済に見合うだけの売上高を確保しなければなりません。
 
 損益分岐点分析とは、売上高にかかる費用を「変動費」と「固定費」に分けて計算をすることで、「収支とんとんとなる売上高を導き出す」こと
をいいます。
 損益分岐点を導き出すためには、経費を「変動費」と「固定費」に分けて、変動比率を出す必要があります。
 では、変動費・固定費とは何を意味するのでしょうか。
 
 ここではサービス業での費用分解基準を採用
します。
 建設業・製造業・販売業については別の基準があります。ご関心をお持ちの方は、『中小企業の原価指標』(中小企業庁編・同友館発売)「T 調査の概要」を参考にされてください

 変動費とは売上高の変動にともない、変動する費用のこと。

 材料費 光熱費 外注費

 固定費とは売上高が変動しても、変動しない費用のこと

従業員給料 役員報酬 福利厚生費 消耗品費 広告宣伝費
車両修理費 車両燃料費 保険料 賃借料 減価償却費
支払利息 租税公課 他営業費


損益分岐点(計算算定式)
(a) 損益分岐点売上高   = 固定費
1− 変動費
売上高
(b) 変動比率   = 変動費 ×100
売上高
(c) 限界利益率   = (  1− 変動費 )×100
売上高
(d) 損益分岐点比率   = 損益分岐点売上高 ×100
売上高
(e) 経営安全率   = 100  − 損益分岐点比率
(f) 目標利益を得るための必要売上高  = (固定費+目標利益)
限界利益率


 (練習問題1)それでは「資金移動表の作成」で使用したA社の「X期」と「Y期」の損益計算書を参考にして、これらの計算算定式を使って、損益分岐点分析と取り組んでみましょう。
損益計算書
X期 Y期 Y期−X期 X期 Y期 Y期−X期
売上高 167,745 138,059 -29,686 光熱費 0
燃料費 16,275 13,269 -3,006 租税公課 923 -923
労務費 61,677 40,186 -21,491 地代家賃 5,363 5,310 -53
傭車料 38,462 25,308 -13,154 保険料 4,785 400 -4,385
修繕費 7,338 3,616 -3,722 消耗品費 779 779
減価償却費 2,164 -2,164 福利厚生費 5,430 1,464 -3,966
仕入高 0 1,103 1,103 事故費 131 -131
直接経費 34,282 23,564 -10,718 材料費 0
運送原価 160,198 107,046 -53,152 リース料 8,092 8,309 217
売上総利益 7,547 31,013 23,466 高速道路料 9,466 7,302 -2,164
販売・管理費 31765 15785 -15,980 雑費 92 -92
営業利益 -24,218 15,228 39,446 直接経費計 34,282 23,564 -10,718
営業外収益 15723 2434 -13,289 役員報酬 9,870 2,820 -7,050
営業外費用 2365 1691 -674 事務員給与 9,523 3,485 -6,038
経常利益 -10,860 15,971 26,831 賞与 0
特別利益 0 0 0 通信費 2,563 1,255 -1,308
特別損失 1627 1320 -307 広告宣伝費 294 181 -113
税引前利益 -12,487 14,651 27,138 運賃 2 2
法人税 70 70 旅費交通費 30 1,364 1,334
当期利益 -12,487 14,581 27,068 交際費 1,555 424 -1,131
前期繰越利益 -11,378 -23,865 -12,487 会議費 11 11
当期損益金 -12,487 14,581 27,068 水道光熱費 452 370 -82
合計 -23,865 -9,284 14,581 消耗品費 243 152 -91
利益準備金 0 寄付金 0
別途積立金 0 地代家賃 1,687 1,830 143
役員賞与 0 租税公課 4,422 2,450 -1,972
株主配当金 0 減価償却費 0
0 保険料 123 123
0 諸手数料 180 316 136
0 諸会費分担金 419 342 -77
処分合計 0 0 0 雑費 527 660 133
次期繰越利益 -23,865 -9,284 14,581 販売・管理費 31,765 15,785 -15,980
(練習問題1の解答)
変動費・固定費の算出
X期 Y期
傭車料 38,462 25,308
仕入高 0 1,103
材料費 変動比率
光熱費 X期 Y期
変動費 38,462 26,411 22.9 19.1
燃料費 16,275 13,269
労務費 61,677 40,186 限界利益率
修繕費 7,338 3,616 X期 Y期
減価償却費 2,164 77.1 80.9
租税公課 923
地代家賃 5,363 5,310 損益分岐点売上高
保険料 4,785 400 X期 Y期
消耗品費 779 202,237 121,320
福利厚生費 5,430 1,464
事故費 131 損益分岐点比率
リース料 8,092 8,309 X期 Y期
高速道路料 9,466 7,302 121 88
雑費 92
役員報酬 9,870 2,820 経営安全率率 (注)
事務員給与 9,523 3,485 X期 Y期
賞与 -20.6 12.0
通信費 2,563 1,255
広告宣伝費 294 181 (注)経営安全率目安
運賃 2 40%以上 安 泰
旅費交通費 30 1,364 25〜40% 健 全
交際費 1,555 424 15〜25% 普 通
会議費 11 7〜15% 要注意
水道光熱費 452 370 7%未満 危 険
消耗品費 243 152
寄付金 固定比率
地代家賃 1,687 1,830 X期 Y期
租税公課 4,422 2,450 92.9 71.9
減価償却費
保険料 123
諸手数料 180 316
諸会費分担金 419 342
雑費 527 660
営業外費用 2,365 1,691

固定費 155,866 98,111

 (練習問題2)X期の売上高・変動費・固定費を使って、Y期の経常利益と同じ15971(単位千円)の目標利益を達成するための、目標売上高を計算しなさい。
(練習問題2の解答)
目標利益を得るための必要売上高  = (固定費+目標利益)
限界利益率
155866+15971 222,959
77.1
損益計算書
X期 目標 X期 Y期
売上高 167,745 222,959 133% 光熱費 0
燃料費 16,275 16,275 100% 租税公課 923 923 100%
労務費 61,677 61,677 100% 地代家賃 5,363 5,363 100%
傭車料 38,462 51,122 133% 保険料 4,785 4,785 100%
修繕費 7,338 7,338 100% 消耗品費
減価償却費 2,164 2,164 100% 福利厚生費 5,430 5,430 100%
仕入高 0 0 0 事故費 131 131 100%
直接経費 34,282 34,282 100% 材料費 0
運送原価 160,198 172,858 108% リース料 8,092 8,092 100%
売上総利益 7,547 50,101 664% 高速道路料 9,466 9,466 100%
販売・管理費 31,765 31,765 100% 雑費 92 92 100%
営業利益 -24,218 18,336 直接経費計 34,282 34,282 100%
営業外収益 15,723 0 役員報酬 9,870 9,870 100%
営業外費用 2,365 2,365 0 事務員給与 9,523 9,523 100%
経常利益 -10,860 15,971 賞与
特別利益 0 0 0 通信費 2,563 2,563 100%
特別損失 1,627 1,627 100% 広告宣伝費 294 294 100%
税引前利益 -12,487 14,344 運賃
(*) 法人税 1,483 1,483 旅費交通費 30 30 100%
当期利益 -12,487 12,861 25,348 交際費 1,555 1,555 100%
前期繰越利益 -11,378 -11,378 0 会議費
当期損益金 -12,487 14,581 27,068 水道光熱費 452 452 100%
合計 -23,865 3,203 27,068 消耗品費 243 243 100%
利益準備金 0 寄付金
別途積立金 0 地代家賃 1,687 1,687 100%
役員賞与 0 租税公課 4,422 4,422 100%
株主配当金 0 減価償却費
0 保険料
0 諸手数料 180 180 100%
0 諸会費分担金 419 419 100%
処分合計 0 0 0 雑費 527 527 100%
次期繰越利益 -23,865 3,203 27,068 販売・管理費 31,765 31,765 100%

* 法人税の計算ですが、前期繰越利益(この額を欠損金額の全額と仮定)を税引前利益から控除し、その金額に法人税率(50%)を掛けて算出しました。もしA社の欠損金額が税引前利益額よりも大きいなら、法人税額は定額部分である均等割(A社は資本金1千万円だから年額5万円)だけが課せられることになります。

法人税率
普通法人 協同組合    公益法人
資本金一億円以下 資本金1億円超
年800万円以下の所得 年800万円超の所得
税率 22% 30% 30% 22%

 実際にはA社のY期はX期よりも大幅に売上高が下がっています。それなのに目標利益が達成できたのは何故でしょう。売上高は対前年比82%でしたが、運送原価は対前年比67%・販管費は対前年比の半分の50%ですね。変動比率を22.9から19.1へ、固定比率も92.9から71.9へと大幅に引き下げることに成功したからこそできたことですね。
損益計算書
X期 Y期 前期 X期 Y期 前期
売上高 167,745 138,059 82% 光熱費 0
燃料費 16,275 13,269 82% 租税公課 923 0%
労務費 61,677 40,186 65% 地代家賃 5,363 5,310 99%
傭車料 38,462 25,308 66% 保険料 4,785 400 8%
修繕費 7,338 3,616 49% 消耗品費 779
減価償却費 2,164 0% 福利厚生費 5,430 1,464 27%
仕入高 0 1,103 1,103 事故費 131 0%
直接経費 34,282 23,564 69% 材料費 0
運送原価 160,198 107,046 67% リース料 8,092 8,309 103%
売上総利益 7,547 31,013 411% 高速道路料 9,466 7,302 77%
販売・管理費 31765 15785 50% 雑費 92 0%
営業利益 -24,218 15,228 直接経費計 34,282 23,564 69%
営業外収益 15723 2434 15% 役員報酬 9,870 2,820 29%
営業外費用 2365 1691 72% 事務員給与 9,523 3,485 37%
経常利益 -10,860 15,971 賞与
特別利益 0 0 0 通信費 2,563 1,255 49%
特別損失 1627 1320 81% 広告宣伝費 294 181 62%
税引前利益 -12,487 14,651 運賃 2
法人税 70 旅費交通費 30 1,364 4547%
当期利益 -12,487 14,581 27,068 交際費 1,555 424 27%
前期繰越利益 -11,378 -23,865 会議費 11
当期損益金 -12,487 14,581 27,068 水道光熱費 452 370 82%
合計 -23,865 -9,284 14,581 消耗品費 243 152 63%
利益準備金 0 寄付金
別途積立金 0 地代家賃 1,687 1,830 108%
役員賞与 0 租税公課 4,422 2,450 55%
株主配当金 0 減価償却費
0 保険料 123
0 諸手数料 180 316 176%
0 諸会費分担金 419 342 82%
処分合計 0 0 0 雑費 527 660 125%
次期繰越利益 -23,865 -9,284 14,581 販売・管理費 31,765 15,785 50%




経営分析のまとめ

 経済状況がこのようなときに、売上高を伸ばすだけで目標利益を達成しようよいうのは無理があります。利益を確保するには経費(変動費・固定費)の引き下げと絡めて考える必要があると思います。
 経営改善計画は、損益分岐点分析を自由自在に使いこなすなかから、編み出されてくるものです。
 損益分岐点分析をぜひとも自家薬籠中のものとしてください。
 これでとりあえず損益分岐点分析の勉強はおしまいにします。


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