◇四◇
私の起こした事件がおそらく学園中に知れ渡ってから、二日が経過した。
相変わらず、薄暗闇の部屋の中に私は閉じ篭っていたが、二日以上もそんな環境で過ごして
いると、流石に少しはそんな生活にも慣れてくる。
今ではその闇の中で、霧沢さんと簡単な会話を楽しめる程度には順応していた。
(りんちゃんは、せいとかいではどんなふうにおしごとをしているの?)
彼女――霧沢美紀ちゃんは、本日十五回目の倫に関する質問をしてくる。
その様子から、彼女が本当に倫の事を好きなのだという想いが伝わってきた。
「うん、倫の生徒会での仕事はそれはもう凄いわよ。下手をすると、一日中生徒会エリアで仕
事をし続けかねないくらいの勢いだもの。学園全体のコンピュータメンテナンスなんて、この
学園じゃ多分倫にしか務まらないでしょうね」
私がそう話すと、美紀ちゃんは笑顔でそれに答える。
相変わらず長い髪に隠れて表情は見えないが、それでも何となく感情が分かる程度にはこの
娘の事が分かってきた。
(うん、りんちゃんはほんとうにすごいよ。りんちゃん、おへやにもどってくると、じぶんの
さいとのこうしんも、まいにちかかさずやってるんだよ。わたし、りんちゃんのほうむぺえじ、
だいすき)
美紀ちゃんは、本当に嬉しそうにそう語る。
倫の運営しているサイトの事は私も知っている。学園のネット内では一、二を争う程の人気
サイトだ。
基本的にこの学園では、生徒一人一人が自分のサイトを持つ事を義務付けられている。
だが、それはあくまで入学当初の課題としてであって、その後もきちんと運営をし続けてい
る人間というのは滅多に居ない。
ある意味では当然の事である。この学園には外部から入ってくる新たな情報などほとんど存
在しないのだから、サイト情報を更新しようにも、更新すべき内容がほとんどないのだ。
けれどもそんな中、倫のサイトはひときわ輝きを放っていた。
そのサイトは様々な詩や小説、CGイラストなど、いわゆる創作系の情報を中心に扱ってい
るのだが、そこには情報が閉鎖された学園内でのそれとは思えぬ自由さと、そして豊かさがあ
った。
かつて一度、倫に尋ねてみた事がある。
何故この閉鎖された学園の中で、これ程新しい物を生み出す事が出来るのかと。
彼女は答えた。
「世界が狭かろうと広かろうと、同じ事ですよ。要は、そこで自分が何をしたいかなのではあ
りませんか?」
非常に倫らしい答えであったと思う。
美紀ちゃんは、いかに倫のサイトが素晴らしいかを熱く語っている。
私もほぼ同じ気持ちである為、自然と会話は白熱する。
いつの間にか、私は時間が経つのさえ忘れながらその暗闇でのお喋りに没頭していた。
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