周波数シフター
音響光学変調器を2台用いて、
光周波数差が非常に僅かな2本のレーザ光を生成する装置です。


<< 特徴 >>
1.光周波数差の時間的安定度が1ppm以下と非常に高い
2.レーザ光の周波数の時間的揺らぎが光周波数差に影響しない

<< 基本原理 >>
周波数シフターの構成を説明します。
 光の周波数は極めて高いものです。HeNeレーザ波長(633nm)では474THzです。THzとはGHzの1000倍です。現在光通信分野で100GHz程度の実験が進められていますが、それよりもはるかに高い周波数です。現代の科学では認識できません。従って、いくらこの周波数に情報が載っていても解読することは不可能です。そこで直接光周波数を議論するのではなく、光周波数のシフトとビート信号を利用する方法で光に載った情報を取り出すのです。
 光周波数を僅かにシフトさせる方法には各種ありますが、周波数シフターでは音響光学変調器(Acousto-Optic Modulator:AOM)を用いています。シフトさせる周波数はAOMに供給される超音波周波数で決まります。その周波数は、AOMに使われる媒質より50〜300MHzが通常です。従って、AOMを透過した光と透過してない光ではこの周波数だけ差があります。この2つの光を干渉させると、この周波数のビート信号が得られます。この程度の周波数では電気信号処理できますのでビート信号になんらかの情報があれば取り出すことが出来ます。
 しかし、レーザ光と言えどもその周波数はふらついています。474THzの周波数が安定でも、例えば1ppmの安定度であっても474MHzの揺らぎがあることになります。この揺らぎ量はシフト量と同程度です。これでは、シフトさせた結果なのか、レーザ光の周波数が揺らいでいる結果なのか判別できません。そして、ビート信号解析は情報を明確に取り出すことが出来ません。
 そこで、下記に示す周波数シフタの構成のように2つのAOMを用いれば上記の問題は解決することが出来ます。2つのAOMに供給され周波数をf1,f2とします。すると、各AOMを透過した光はf0+f1、f0+f2の周波数となります。ここで、f0はレーザ光の周波数です。明らかに
     f0 >> f1,f2
です。しかし、2つの周波数差はf1−f2(の絶対値)です。基本的にf0の影響を消すことが出来ます。
 但し、光の揺らぎがありますので完全に影響を落とすことが出来るのか否か問題となります。これに対して、周波数シフタは
    1.計測の同時性
    2.一つの水晶発振器の利用
    3.周波数安定化レーザの採用
により解決しています。
 1と3に関しましては、周波数安定化レーザのページで説明しています。そちらをご覧下さい。
2の”水晶発振器が一つ”が何故問題になるかを説明します。水晶が別々ですと各々の揺らぎΔf1、Δf2が加わって、ビート周波数は
    f1−f2+Δf1−Δf2
です。Δf1,Δf2はランダムですので、誤差の最悪な場合はΔf1−Δf2〜2Δf1となります。一方、一つの水晶発振器を用いれば、Δf1−Δf2を限りなくゼロに近づけることが出来ます。つまり、ビート周波数の揺らぎ成分を抑えて、データの信頼度を増す作用があるのです。
このように単にAOMを使うだけでは不十分であり、それなりの対策を取らないと高精度計測は出来ないのです。

<< 構成 >>
周波数シフタは光学部と電気信号部、制御部からなります。下記に光学部と、電気信号部の関連を簡単に示しました。
レーザ光は分岐され、2つのAOMを透過します。各々のAOMは個別のドライバーより異なる周波数の信号が加えられています。その結果、2つの光は異なる周波数だけシフトを受けて、光学部より出射されます。


<< 仕様 >>

光学部  (使用するAOMの特性に強く依存します。AOMメーカー及び型番を指定することも出来ます)

     項目  仕様値  注意事項
 光波長  633nm  レーザを貸与していただけるならば、短波長から長波長まで可  
 アクティブアパーチャー    0.8φ  AOMメーカの仕様値により変更あり
 挿入損失   2dB以下  AOM材質により増加する場合あり
 分離角(80MHz)  14.6mrad  波長により、またはAOM材質により変動あり
 最大レーザパワー密度  250W/mm2    波長により、AOM材質により変動あり
 入射光条件  直線偏光  ランダム変更でも可
 出射光  直線偏光  入射光条件に依存する
 出射ビーム本数  2本(平行光)  1本に合波する形式も可
 出射ビーム間隔  20mm  20mmは最低値で、それ以上の幅でも可
(出社ビーム本数が2本の場合)

ドライバ部  (使用する光学部の特性に合わせて調整を行います)

項目 仕様値   付加事項
 中心周波数  80MHz  AOMメーカーでは、200MHzを超える中心周波数や40MHzの周波数も存在しますが、多くの製品は80MHzです。
ビート周波数 25kHzの整数倍であり、10MHz以下であること
7種類の周波数を指定できます。  
 指定された周波数の1つで出力できるように設定します。残りの6種類は、筐体内のコネクタスイッチを所定のコネクタに変更することで実現できます。所定のコネクタ以外では出力周波数は保障できません。
ビート周波数安定度 1ppm以下(中心周波数に対して)  実力値は0.05ppm程度です
使用温度範囲 0〜30 ℃  ビート周波数が安定になるまで、最低1時間の暖機運転が必要です。
 出力パワー  指定パワーに調整。ただし、1.3W以下  
 出力端子  2chのBNC出力。出力周波数は指定周波数。
出力パワーは指定パワー
 2つのBNC出力から、f0+f1,f0+f2の周波数を出力。ビート周波数より、f1、f2は決定され、変更は不可
電源 AC100V  スイッチ、ヒューズ (3A)

<<周波数シフタの必要性・有効性>>
周波数シフタがなぜ必要かにつき説明します
光ヘテロダイン測定においては、光の干渉信号を電気信号に変換し、その電気信号の周波数、位相を変位量と結び付けています。
光の周波数はその変位量のものさしの役割を果たしますので、一定であることが要求されます。しかしながら、様々な揺らぎが存在するため、HeNeレーザの周波数は基本周波数(f=約500THz)に対して10^−6(つまり500MHz;Δf)程度の揺らぎがあります。光ヘテロダイン測定では、この揺らぎを持った光の周波数を2つに分割し、その各々をわずかながらシフト(α、β)させます。そのシフト量は、概ね80MHzです。仮に、α=80MHz、β=85MHzとします。すると、各光の周波数は、f+α、f+βとなります。この2つの光を干渉させると、ビート周波数として、2f+α+β、と、|α−β|を得ます。前者の周波数はあまりにも大きく、電気回路では検知できません。後者の周波数は5MHzとなり、通常の電気回路で認識できます。ここで、Δfが2つの光に共通に同位相で寄与すれば問題は発生しませんが、2つの光の間にわずかながらの光路長の差がある場合、必ずしも同位相で寄与するとは言えません。これは大きな問題です。そこで、この光路長差をなくすべく光学回路が設計されます。この設計で0.1nsの光路長(=3cm)以内を目標にします。(この差は注意しないと容易に発生します。ご注意ください。)更に、αとβにも、揺らぎがあります。これらの揺らぎを抑えなければ、”ビート周波数は何を測っているのか”、の疑問が湧いてきます。まず、このαとβ値を小さくするために、周波数安定化HeNeレーザを用います。(弊社製品では、5×10^−9程度の安定度です。Δf=3MHz程度です)。αもβも、この程度以下の揺らぎを有します。しかし、同一の光源から出ていますので、時間差がなければ原理的に同じ値です。差はゼロになり得ます。これが、基本的に低周波数のビート信号が得られる理由です。
では、2つの光の両方ではなく、片方にのみAOMを設置し、ビート信号をとってもよいのでは、との疑問が湧きます。AOMドライバの安定性は20ppm以下が得られていますので、80MHzでも1.6kHzと小さく問題なさそうです。しかしながら、80MHzのビート周波数の信号処理において、1周期を100分割して位相を認識しようとすると、問題が発生します。信号処理回路は、8GHz以上の大域を必要とします。波長がものさしと述べましたが、100分割では、精度が633nm/100=6.33nmしかありません(反射ではその半分の3.16nm)。そこで、600分割をもくろむと、50GHzの帯域が必要となります。この周波数では製作困難でしょう。AOMドライバからの強烈なRF輻射もありますので、難しい処理になります。
そこで、このαとβの揺らぎによる影響を解決しつつ、低周波帯域での測定を行うために、周波数シフターがあります。光の同時性と、ドライバの時間差をなくすことで、ドライバそのものからの周波数揺らぎの不均一を押さえて、αーβの揺らぎを押さえています。低周波帯域のために、ビート周波数を下げています。
ただ、分割を増やすために、低周波数のビート信号を用いることには問題があります。この問題に関しては<ビート信号周波数の選択基準>を参照してください。

<<ビート信号周波数の選択基準>>
ビート周波数は次の2点から選択する必要があります。
(1)
測定対象の速度−下限値を決める
(2)
信号回路の帯域−上限値を決める
測定対象の速度は、ヘテロダイン計測の欠点と結びつきます。
「測定時間間隔内に波長の半分以上変化する対象物は真値を測定できない」の欠点です。例として、対象物が100mm/sの速度で移動する場合、波長の半分(=316.5nm)移動するのに要する時間は、3.165μsです。この時間が測定時間間隔の最大値です。処理回路の構成は、最低この時間ごとに測定しなければなりません。この周波数は約300kHzです。したがって、ビート信号周波数も300kHzが必要です。これが測定対象の速度が下限値を決める理由です。
この周波数で信号処理をするためには、有効数字を考えますと、最低2桁高い高周波を処理できる回路が必要です。つまり、30MHzの信号を処理できる装置やボードが必要です。高周波を処理できる装置やボードは高周波ほど高価になります。したがって、処理周波数に上限が発生します。結果、ビート周波数に上限が生じます。これが信号回路の帯域が下限値を決める理由です。

カタログ(PDFファイル)


<<100VAC入力型周波数シフタドライバの選択>>

100VACを入力とするタイプの周波数シフタドライバもあります。
この場合、出力パワー及び出力周波数を固定していただく必要があります。(注文時に指定必要)
外見はシンプルで、フロントパネルには2つの出力BNC端子があるだけです。リアパネルには、AC100挿入口、SW、,ヒューズ、ファンのみがあります。
上記カタログ内の写真とは異なる、下記の概観写真となります。




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