測定室やシールドは必要?


金銭的問題もありますが、基本的に必要です。
理由は以下の5点です。
①測定精度を確保するため。
②外部からの影響を抑えるため。
③測定者の影響を排除するため。
④長時間の周期的変動を極力抑えるため。
⑤エラー原因を明確に探るため。


個々に説明します。
①測定精度の確保
  要求精度に見合う測定環境は当然要求されます。例えば、1nm精度を要求する実験を行うならば、環境変動で,1nm動いては、精度が確保できません。2つの例を挙げましょう。
<1>膨張。小さい光学系だとしても、10cmの距離程度の大きさはあるでしょう。光学系にインバーを用いたとしても(線膨張10^-7)、0.1度の温度制御で、1nm変動します。コンパクトで高価なインバーで、かつ0.1度の温度制御が必要です。0,1度の温度制御下では、人の出入り禁止です。
<2>音。普通に使われる音圧レベル(通常の会話で60dB、電車のガード下で100dB)で考えます。60dBは0.02[Pa]です。試料の大きさを10cm角、重さを100gだとします。この試料に働く力は、2×10^-4[N]。すると、加速度として、2×10^-3[m/s^2]が発生します。1000Hzの音だとすると、1周期、10^-3秒、この加速度の効果が、大雑把に3割の時間だけ働くと仮定します。すると、この加速度で、(押したり引いたりするわけですが、押す分だけ扱います)、0.1nmの移動を引き起こします。突発的な音は、これ以上の音圧でしょう。
②外部の影響の排除
  外部からの影響は、多因子あります。温度・湿度・振動・音・風・対流・発熱体・衝撃波・機械動作・電源ノイズ・信号線へのノイズ、など数多くあります。これらを一つ一つ除くのは大変です。電気信号を介しての問題以外は、まとめて排除しようとするのが最も楽です。電気信号周りのノイズの除去は大変です。突発的な信号ノイズは、外部機器のON/OFFで発生することもあります。はっきり言って、除去するのは困難です。
(弊社も本社での開発で悩まされました。車の通行、飛行機の飛来、原因と決め付ける決定的な証拠がないのです。原因不明でほとんどが終わりました。原因を明確にしたいのですが、わかりません。そこで、大胆な発想で、「訳の分からぬこの地にいるから、だめなのだ」、として開発室を立ち上げました。ひともまばら、交通量1日数台、工場なし、農作業の機械音なし、飛行機ははるか上方、緊急ヘリが飛ぶ程度。結果、悩みが消えました。鳥の鳴き声が、”やかましい”、と思える環境は、自然の測定室ほど素晴らしいものはない、と実感させてくれます。)
③測定者の影響排除
  意外かもしれませんが、測定誤差に大きな影響を与える要因は、測定者の存在です。人間は発熱体です。部材を触ると、その部材の温度は上がります。そして上がった温度が、平衡になるまでの時間が意外に長いのです。風を当てることなく、自然に放置した場合、部材表面からの放熱だけなのですから(伝導を期待できるほど、熱容量の大きな部材に乗っていれば別ですが)。空気も温度上昇させます。
  [経験から。2.5m立方の測定室に、入室前20度の温度が、5分間作業しただけで、23度まで上がり、20度に再度下がるためには、約1時間かかりました。予想以上の影響に、最初は驚きました。たった5分の作業でも影響大です。1時間で複数の人が入った場合は、半日つぶれます。弊社測定室の、機密性が良かったからでしょうか。]
  つまり、測定者の存在および測定室への進入は、予想以上の影響を生むことを覚悟してください。

④長時間の周期的変動を極力抑制
  長時間安定的な環境を作り出すためには、相当な投資が必要です。そのような環境で実験されているならば、幸いです。そうでない場合、長時間測定において、いろいろな要因で、周期的変動が発生し、計測結果に影響を与えます。
  経験から言えば、最も大きな影響を与えるのは、天気です。台風が近づいている時、梅雨の時、雪の時、酷暑と感じる時、などは、1日で大きく変わります。温度・湿度・大気圧、すべてが安定せず、大きく変わります。朝の天気予報で、長時間データを取得するか否かを考慮します。この天気の影響は、よほどでない限り、必ず発生するものです。こういうときは、”晴耕雨読”の精神が良いのではないかと。
 長時間測定は、出来れば密閉の容器の中で出来ると、これらの心配はしなくてすみます。開発室のホームページに記載されている長時間測定は、密閉容器の中の測定です。 
⑤エラーの原因を探る
  測定データのエラー原因は、なかなかわかりません。引き起こす原因が多すぎるからです。そこで、原因となる元を断てば、その原因を排除できます。ただ、簡単に元は絶てません。”少なくとも、以前よりは少なくなっている”と判断することは可能です。その寄せ集めで、エラー原因を探るしかありません。消極的な原因探求ですが、手っ取り早いです。その代表が、測定環境の改善で、測定室の導入です。
  ただ、都心では、思わぬ伏兵が多いので、測定室を設けても、消えない場合があります。東京23区内では、地下鉄が網の目上に走り、首都高速や高速、新幹線・私鉄・JR、非常に複雑に入り乱れて存在します。さらには、下水設備や大規模災害対策設備、地下電線・ガス配管、その上、高層ビルが建ち、家が密集し、車が走り、多くの人が歩き・騒ぐ。こんな環境で、静寂を求め、高精度計測は、もはや不可能です。いくら測定室を設けても、エラーの発生原因が多すぎます。23区内での、高精度計測はあきらめましょう。大阪地区も似たり寄ったりでしょう。エラーの最大原因は、測定室の場所選択したことだと思って下さい。
 


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