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トッパンホールオープニング記念コンサート(マチネ)
福田進一
ギター・リサイタル


 2000.12.12(火曜日)14:00 開演  

トッパンホール




プログラム

グレゴリオ聖歌「おお栄光の神」による6つのディフェレンシャス

L.デ・ナルバエス作曲
シャコンヌ ニ短調 J.S.バッハ作曲

14世紀カタロニア聖歌に基づく組曲「黒い歳暮の朱い写本」
(2000/福田委嘱作品、世界初演)
 T アヴェ・マリア!
 U おお、輝く聖少女
 V 声そろえ歌わん
 W 7つの喜び
 X あまねく天の女王よ
 Y 喜びの都の女王
 Z 声そろえ歌わん

藤井敬吾作曲
*** 休憩 ***

6つのカタロニア民謡(1996−98/福田進一の為に)
 T 商人の娘
 U アメリアの遺言
 V 盗賊の歌
 W 聖母の御子
 X 先生
 Y 糸を紡ぐ娘

ナルシス・ボネ作曲
詩的ワルツ集

グラナドス作曲
マジョルカ作品202

グラナドス作曲
セゴビア編
朱色の塔 


アルベニス作曲
リヨベート編
アンコール

ドビュッシー賛歌

ファリャ作曲
バレエ組曲三角帽子より粉屋の踊り

ファリャ作曲
スペイン舞曲第5番

グラナドス作曲
アルハンブラの思い出 F.タレガ作曲




平日の午後2時からのコンサートということで会社を半日休暇を取って行った。
福田進一さんのリサイタルを聴くのも初めてならトッパンホールも初めて。トッパンホールはなかなか良いホールだが飯田橋駅から遠いのが欠点。但し音響はなかなか良くギター向きだと思う。
勿論福田氏の演奏が素晴らしかったことがギターが良く聞こえた第一の理由だろうが。楽器はブーシェ(多分)。

オープニングはナルバエス。舞台左手から登場、席に着くなり天を仰いだかと思うといきなり演奏に入る。
2フレットにカポタストをし、譜面台を立てての演奏。オクターブで演奏されるテーマから自分の世界に没頭していた。
曲自体、それ程良い曲だと思わなかったが、演奏に対する集中力はさすが。
リサイタル途中で気が付いたことだが、福田さんという人はステージマナーが素晴らしい。特に演奏開始までの時間が非常に短く、曲を弾き終えてからお辞儀をするまでの一連の動作がとても洗練されていて美しい。印象的だったのはどの曲でも弾き終えてから完全に音が消える迄の時間をとても大切にしていること。だから立ち上がってお辞儀をする仕草も綺麗に見えるのかもしれない。
続いてプログラムは、シャコンヌ。1弦の音程が少し下がっており、チューニングが気になったが、気にせずどんどん曲が進行する。自分にはテンポが少し速過ぎたように感じたが、最後まで小気味く回転するエンジンのような推進力で弾ききった。アゴーギクやピアノフォルテもCDの演奏よりメリハリをはっきりつけていたように思う。おそらくステージでの演奏ということで意識してやっていたのかもしれない。転調後の後半、珍しく楽譜を忘れられたような個所があったが、すぐに立ち直り要所要所ではポイントを外す事無く演奏していたのはさすがというしかない。
前半最後は、藤井敬吾氏に作曲を委嘱したという「黒い聖母の朱い写本」。浜田滋郎氏が福田さんにモンセラット寺院に所蔵されているカタロニア聖歌「朱い写本」をギターで演奏するよう提案したのがキッカケらしいが、福田氏は自分では手に余ると藤井氏に作曲を委嘱したいきさつがあるという説明が福田氏本人からステージ後半であった。
これまた席に着くなり演奏が始まる。ハイポジションのアルペジオとハーモニクスの入り混じったような複雑な音の連続が紡ぎ出される。譜面を見ながらの演奏だが、次々と超難度の技巧的なフレーズが息をつく間もなく続く。
ページをめくる手で、曲が中断されることなくどんどん演奏のテンションが上がっていくのには本当に感心した。
当初気になっていたチューニングの狂いも演奏中頻繁に調整され、Xあまねく天の女王よ辺りからチューニングが安定して来た。Y喜びの都の女王でのパーカッションとリズミカルな主題が交互に繰り返されるパッセージで、福田氏の技巧が冴える。エンディングのY声そろえ歌わんでは、ギターを演奏しながら福田氏自らが歌を歌いながらの演奏が独特の効果を生み出していた。それにしても藤井さんはこんな難曲を作曲するだけでなく自分でも演奏されるんだろうか。弾き終えた後、観客席におられた藤井敬吾氏をステージに招き紹介する。
ここで休憩。ロビーでこれで藤井さんの新曲の出版も成功だという声が聞こえた。でも一体誰が弾くんだろう。こんな難曲。
ちなみにこの日、現代ギターの菅原編集長と、製作家の今井勇一さんの姿を見かけた。なんと私のすぐ後ろの席に今井さんは座っておられた。最初どこかで見た顔だと思っていたが、今井さんだと思い出せず後で気が付いたが、奥様らしき女性と一緒に居られ、とうとう声を掛けるタイミングを逸してしまった。

シャコンヌ等、大曲、難曲を弾き終え、余裕が生まれたのか続くナルシス・ボネの作品は終始リラックスした演奏でほぼ完璧な演奏。なじみの曲ばかりだが、現代的な味付けがなされこれはこれで面白かった。
演奏後、マイクを手にして挨拶と今夜のプログラムの紹介。手慣れたもので、聴衆を飽きさせない。エンターテイナーぶりをここでも発揮していた。
ここからスペイン物が続く。最初のグラナドスを弾き始めた途端、福田さんの右手指が10本になったように見えた。難しいパッセージをものともせず弾いていく。ただ正直言ってこの詩的ワルツ集は自分にとっては余り良い曲だとは思えなかった。
アルベニスに入る前にまた福田氏がマイクを手にする。スペイン物は、福田氏の大好きなレパートリーとの事。
マジョルカは、私も大好きな曲。出だしの数小節でいい演奏を確信した。音色につやが出てきたように感じたのは気のせいではないだろう。。転調する中間部に入る直前で、突然曲を見失ったのは惜しいミスだったが、すぐに立ち直り最後は素晴らしいピチカートを聴かせてくれた。
エンディングの朱色の塔は、最初つまづいたが、観客に右手を挙げて、余裕ですぐに弾き直した辺りは百戦錬磨のたくましさを感じた。
とにかくF1レーサーのようなスピード感で、もう少しゆっくり弾いたらよいのにと思う部分も結構あったが、アレはアレ、ヴィルトオーゾの証なのかもしれない。
アンコールはファリャが2曲とグラナドスにタレガの計4曲。
個人的には、ファリャが今夜のステージでは最高の演奏だった。
ドビュッシー賛歌ってこんなに良い曲だったっけ。音色の変化が素晴らしい。粉屋の踊りは最高。ギターソロでは久々に興奮した。低音の歌わせ方や表情、低音を最初ピチカートで弾いて途中からピチカートでない音に変化する表現方法は大変新鮮で参考になった。とにかく音色が多彩でラスゲアードにも色々なバリエーションがあった。
続くグラナドスも乗っていて良かった。こうしたスペイン物のレパートリーは、メロディーの歌い回しが自由自在といった感じで、完全に曲を手中に収めているのだろう。最後にアルハンブラが演奏されたが、会場内が少々ざわついていたのが残念だった。特に私の前の席の御年寄りの一行。やはり前の方に座って聴きたかった。

年の暮れにこんなコンサートを聴けて満足だった。
それにしても福田さんはギター界のエンターテイナーだってことを改めて実感。30枚以上ものCDもだてじゃない。
クラシックギター界でステージで遊べるギタリストって他にいないし、それ相応の実力がないと遊べない。その意味で福田さんは貴重な存在だし凄いギタリストだと思う。