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福田進一ギターリサイタル


 
2001.9.22(土曜日) 19:00開演  

福岡あいれふホール

レポーターはコージさんです。
いつも詳しいレポート有難うございます。
コンサートの興奮がダイレクトに伝わってきます。
相変わらず福田さんは絶好調みたいですね。

内容は頂いたメールをそのまま転載されて頂いております。
万一内容に関してご意見等ありましたらお手数ですが
管理人YASUまでメールにてご連絡願います。



<プログラム>

ソル……………魔笛の主題による変奏曲

  ……………アリア「うつろな心」の主題による第5幻想曲

  ……………ウゼ嬢に捧げる幻想曲ニ長調

            (休憩

藤井圭吾………14世紀カタロニア聖歌に基づく「モンセラートの朱い本」

アサド…………ギターソナタより「アンダンテ」

ピアソラ………ブエノスアイレスの冬

    ………天使の死

ヒナステラ……ソナタより「第一楽章」「第4楽章」

           (アンコール)

ヴィラロボス…ショーロス第一番

モンテーニ……パチアージョ

タルレガ………アルハンブラの想い出

ソル……………ギャロップ

ディアンス……タンゴ・アン・スカイ

<感想>

 かつて演奏者自身が、福岡のいずみホール(大阪)と形容したホール、それが今回のあいれふホールで、最近もバルエコやラッセルがここでリサイタルを開いたのは、記憶に新しいところ。収容人員は350くらい。規模といい響きといい、ギターコンサートには実にふさわしいホールだ。福岡市の中心街、天神の一角にそれはある。

 福田を聞くのは二年ぶりであり、目新しいプログラムもあって、期待に胸を膨らませ、熊本から二時間かけて到着。いつもながら夫婦同伴である。ホール周辺で軽い食事を済ませ、赤ワインで気分を徐々にコンサートモードへ。会場に入ると、すぐCD販売コーナーが目に付く。明日発売という福田の新しいCDをいち早く手に入れられたのは思わぬ収穫。開演前にいつも感じるあの独特の高揚感を楽しみつつ、プログラムに挟まれたチラシをめくると、なんと、一度聴きたいと思っていた大萩康司のコンサート予告。10/15(月)だって?現代ギター誌にも載ってない。すぐに主催者と交渉し、チケットをゲット。これまた思わぬ収穫だが、良く考えるとコンサートは平日だ。直ちに病欠を決意する。今日の席は5列目中央でベスト。開演直前にさっと見渡したところ、80−90%の入りか。客層の幅が実に広いのに驚かされる。若い人から年配の方まで満遍なく、といった所に、彼の築いてきた足跡を見る思いがする。

19:00。このところ太めになった福田がにこやかに登場、抱えていたのはブーシェでなくラコート。同じコンサートで、現代ギターと古楽器を使うのは、爪の長さやタッチの関係でむつかしいと言っていたのだが。会場を見渡すといきなり口を開き、「まだ着いてないお客様がいるので、本番に入る前にソルのメヌエットを演奏します」と宣言。やはりそうか。彼は前回のときもその前のときにも、そう言って「魔笛」を弾いたのだった。これもファンサービスだろう。おもむろに楽器と弦の説明を始める。古楽器ゆえに可能となる演奏技法を使うことと、弦はイタリア製の、最もガット弦に近い音を出す太目のリュート弦を使うのだそうだ。メヌエットは、例の初心者が良く弾くイ長調の有名な曲だった。演奏は非も可もなく、と言ったところ。ラコートの音はやや小さめだが、音色は、CDで聞くほどこもらない。しばらく聞いているうちに全く違和感は無くなった。

 プログラム一曲目は、前回、「間もたせ」で弾いた魔笛。もちろん序奏付き。今回7年ぶりに録音し直したらしいが、これまでずっと各地で弾いて来たはずである。今回の演奏は、それに較べかなり早い演奏だったが、温かみがあり、随所に福田の感性が伺えたし、技術的にも非常に安定したものだった。しかし、序奏は少し速過ぎると思った。

2曲目。主題のメロディーは、「当時は現代の宇多田ヒカルくらいにヒットした」「全部弾くと25分かかり、聴衆に苦痛を味合わせたくないので繰り返しをカットして弾く」などと言って客を大いに沸かせ、演奏に入る。それでも長い曲だったが、変奏曲の面白みを福田の見事な演奏で聞くことができ、たいくつするはずもない。特殊奏法満載だったが、左手だけで弾くパートがあるのはめずらしい。それでもメロディラインがはっきりわかる明快な音で、かれの強靭な左手を見せていただいた。

3曲目。1995年に発見されたソルの曲で、その真贋をめぐり議論が続いていたのだが、

このほど、直筆譜が発見されて決着したいわく付きの曲だそうだ。本邦初演であるが、これまた見事な演奏だった。今日の福田はとても好調のようだ。実に良くしゃべる。ここで休憩にはいった。

後半一曲目。ブーシェを抱えての登場。すぐに演奏に入る。藤井啓吾氏の新作だそうで、福田に献呈されている。最近、どこかマイナーなところで一度弾いていたような記憶があるが、定かではなく、今回のコンサートツアーが初めてなのかもしれない。

ヒナステラのソナタと並んで当夜の白眉であった。聴き応えのある曲、そして演奏。実に圧巻であった。これは、今後長らく弾き継がれていい名曲の誕生だと思った。藤井氏の曲はかって羽衣伝説を聴いた事があり、おもしろいとは思っても少し冗長に感じたりしていたのだけれど、これは曲想の妙といい、ギターの性能と効果を最大限に生かしたアイデアといい、特筆もの。ムーンタンの演奏効果をしのぐものがある。そして、それらを見事に表現して見せた福田の実力を、まざまざと見せ付けられた思いだった。演奏後の拍手が鳴り止まず、アンコール以外でステージに呼び戻されるのもめずらしい。タイトルからは想像もつかない現代的な曲であるが、今後1年間くらい弾き続けたあと、CDに入れてくれることを強く願う。フィナーレで演奏者がハミングするところがあるのだが、演奏後、2‐3日前から風邪気味で、本当はもっとうまいんです、と言い訳していたのがなんともおかしく、聴衆の笑いを誘っていた。

次がアサドの新曲ソナタから、アンダンテ。結構長い曲だったが、前の曲との対比的効果もあって、これも名演だと思った。ソナタでは、このアンダンテだけが、一般受けするのではないだろうか。こう言う曲になると、福田の演奏センスが一段と光る。

次にピアソラから、2曲を弾いた。これもなかなかの演奏だったのだが、後半最初の曲の余韻をまだ引きずっていたので、当夜の演奏の中では、息抜きの曲として聴いた。

明るい音色、音の艶、音色変化から来る色彩感の鮮やかさと立体感、音量、そして、感性に裏づけされ計算された音楽の構築力。彼の演奏を聴いていると、どんな曲を聴いても、そのようなものを感じてしまう。

そして最後にもってきたのは、ヒナステラのソナタ。時間の関係から、最初と最後を抜粋しての演奏だったのだが、これまた、凄みさえ感じたほどの名演だった。最近ではピエッリの演奏が記憶に新しく印象深いが、ピエッリをしのぐ演奏だったと言っていいと思う。変化が鮮やかで、視覚的にもエキサイトする。この曲の持つ劇性を、これほど見事にスリリングに表現されると、もう言葉もなく、フィナーレとしてこれ以上の効果は望めない。演奏直後、右隣の男がうなり声をあげ、左からはアンコールを叫ぶ声が聞こえる。こう言う演奏を聴かされると、クラシックのソロコンサートでは、この種の興奮は、多彩な音色と演奏効果を発揮できるギター以外では味わえないとつくづく思う。そして福田が、紛れもなく世界のトップギタリストの一人である事を、あらためて確認した一夜だった。これほどの大曲、難曲をずらりと並べたコンサートも最近ではほとんど記憶がない。

 さて、アンコール。聴衆の反応がわかるのだろう、5曲も弾いてくれた。2曲目は、本邦初演だそうである。コロンビア生まれの美しい曲だった。4曲目。なんと、ラコートをフォークギターのように首からぶら下げて登場、「一度やってみたかった」そうである。当日一番聴衆が沸いた一言だった。このスタイルでは難しい曲は弾けないから、と言ってソルのギャロップを、ウエスタンギターを弾くがごとく、踊りながら弾いて見せた。彼のステージでのエンターテナー性を見た思いだった。ほかでもこのパフォーマンスをやるつもりだろうか。これで終わりかと思いきや、押し出されるように再登場、これでお開きにしたいと十八番のタンゴ・アン・スカイを鮮やかに弾いて、こんどこそ終演となった。席を立ち出口に向かうと途中で、気品のある70歳くらいのご婦人が、ステージに向かって「ありがとうございました」と深々と一礼をしたのを見て、当夜のコンサートの質を見た思いがし、なんだか胸が熱くなる。

帰宅は12時を過ぎてしまったが、大満足のひとときであった。

これと同じプログラムを、12月に熊本で聴くことになる。