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大萩康司ギター・リサイタル
浜離宮朝日ホール
2003.5. 21(水曜日)19:00 開演
プログラム
トッカータ・イン・ブルー |
C.ドメニコーニ作曲 |
亡き皇女の為のパバーヌ |
M.ラベル作曲 |
コンポステラ組曲 1.プレリュード 2.コラール 3.クーナ 4.レシタチーヴォ 5.ムニェイラ |
F.モンポー作曲 |
休憩 |
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ギターの為のソナタ 第一楽章 espansivo 第二楽章 Abbandono 第三楽章 Burlesco 第四楽章 Serioso |
西澤健一作曲 |
さくらの主題による変奏曲 |
横尾幸弘作曲 |
ヴィラ・ロボス賛歌 |
ディアンス作曲 |
若い女性客で満員のホール、チケットは勿論完売とのことでクラシックギターらしくない?コンサート風景に遭遇した。テレビや雑誌のメディアでも目に触れる機会の多い若手ギタリストということもあってか普段のクラシックギターコンサートとは明らかに客層が違う。 休憩時のロビーでは女性トイレ前に長蛇の列・・・\(◎o◎)/!あんな長い女性トイレの列を見るのは連休中の高速道路のサービスエリアぐらいなもの。終演後もサインを求める若い女性ファンで出入り口付近はごった返していた。今回大萩君は満員の聴衆を前にして幾分緊張しているようにも見えたが、たどたどしいながらも人柄を感じさせるMCで、ステージが進むにつれ聴衆との距離が無くなっていくのを実感出来るとても暖かいコンサートとなった。 浜離宮朝日ホールは大江戸線築地市場駅からすぐのところ、新橋、銀座まで徒歩の距離にある。オープン以来、10年近く経つらしいがまだまだ新しい響きの良いホールで、ギターには最適なホールの一つかもしれない。今回チケットを譲ってくれたKさんのお陰で前列から5列目中央という演奏を見るのにも格好の席で聴くことが出来た。オープニングのドメニコーニが始まると、残響の多さがやや気になったが、僕の座った席の位置にもよるのだろう。 ドメニコーニはアメリカ公演での模様をリアルオーディオでインターネットで見て以来、是非生で聴きたいと思っていた曲。彼の若さあふれるエネルギッシュな演奏はとても好感がもてる。今回は満員の聴衆を前にした緊張感からか、一部アルペジオの音が抜けたり、曲を見失いかける場面も見られヒヤッとさせられたが、その都度照れ笑いを隠さない彼の初々しさが、さらに多くの女性ファンを獲得していたように見えたのは持てないオジサンのひがみ根性か・・(^_^;) 彼のメカニックは左右ともとても安定していて特に左手の押弦フォームが美しい。また今回印象に残ったのは彼の演奏姿勢、特に右手のフォームで、右手の懐が大きくギターとの接触面積がとても少ない点が参考になった。以前GGサロンで彼の演奏を聴いた時は一番前の右端で聴いたせいか右手のフォームの特徴に気がつかなかった。彼のギターを良く鳴らす秘訣というか、アンコール最後のレイゲーラがそれを良く物語っていた。また時折右手首の角度を弦に対して水平方向に変えるタッチなども興味を引いた。多分意識的にやっているというよりも彼自身の音に対する感性がああしたタッチを自然に生み出しているだけなのかもしれない。 ディアンス編の亡き王女の為のパバーヌは、6弦という制約の中で効果的に音を拾った優れた編曲。大萩君のギターも美しいハーモニーをつむぎ出していたが、どうしても音数に限りがある上、音量のダイナミクスが乏しいせいもあって、やや平坦に聴こえてしまった。 続くコンポステラは、大萩君の感性にあっているのかとても良い音楽を奏でていた。特に出だしのプレリュードの音色の変化、色彩感が素晴らしい。ただプレリュードの最後の箇所でカンパネラを狙った左手の運指が成功していなかったように思えた。それまでが良かっただけに残念。それとムニェイラでの調弦の甘さも気になった。演奏そのものが良かっただけに残念。音程が狂っているとどうしても意識が演奏に集中出来ない。彼のこの作品に対する意図はよく見えるのだがピッチのわずかな狂いが折角の努力を水の泡にしてしまう。 後半一曲目の作品はモー沢。君こと西澤君が作曲したソナタ。今回初めて聴いた。単音で演奏される第一楽章はとても親しみやすいメロディーで、大萩君のフレージングや音色の変化も曲にとてもマッチし、この作品の良さをアピールしていた。ただ続くどの楽章も美しい音で分かりやすいフレージングで演奏されていたが今一つ盛り上がりに欠けるという印象は拭えなかった。 続くさくら変奏曲では、チョーキングのかけ方(二箇所のうちの一箇所)に違和感を感じた。変奏部に入ってからはアルペジオ風の早いパッセージが、やや早すぎて細かい動きがきれいに聴こえてこなかった。ただトレモロの部分はとても美しく見事。アンコールで弾かれたディアンスのタンゴアンスカイでもトレモロの3連音に続くプルガールで下降する和音の箇所はばっちり決めていて鮮やかだった。 フィナーレのビラロボス賛歌は、それまでとは打って変わって軽快かつスリリングな演奏。ヒヤヒヤする場面も無くはなかったがこの手の曲は、彼の得意とするところなのだろう。とにかく一気呵成にエンディングまで弾き切り会場を沸かせていた。 アンコールは、今回リリースされたコンピレーションアルバムMIRAIに収録されているギター曲が順に演奏された。サンバースト、タンゴアンスカイ、11月のある日、そのあくる日の4曲。サンバーストは難所で珍しく葛藤する大萩君の姿が見れた。一方アンコール二曲目のタンゴアンスカイは、終始余裕。右手の弾き方もビジュアル効果たっぷりで本当にカッコいい。11月のある日は彼をメジャーにした十八番。サンバーストでも感じたが調弦の甘さが残念だった。アンコール最後となったレイゲーラのそのあくる日では、右手の懐の深さを存分に発揮し、美しく豊かな音がホール一杯にに染み渡った。 |