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セルシェル・プレイズ・バッハ


イエラン・セルシェル

 
2002.11.8(金曜日)19:00 開演  

第一生命ホール



プログラム
    

第一部

無伴奏チェロ組曲1番(BMV1007)のプレリュード
BWV1006よりガボットとロンド
BWV1007よりジーグ
BWV1002全曲
BWV1001全曲

休憩


J.S.BACH作曲
第二部

BWV997よりプレリュード、サラバンド、ジーグ
G線上のアリア
BWV1005全曲

J.S.BACH作曲


アンコール

BWV998 プレリュード、フーガ、アレグロのプレリュード
across the universe  ジョンレノン



第一生命ホールは地下鉄勝どき駅が最寄駅。偶然駅の改札口でギタ菌さんに鉢合わせした。第一生命ホール行くのは今回がはじめて。バブル期に建てられた建物らしくリッチな作りである。建物の中央部にある空飛ぶ円盤みたいな形をした構造物がホールの一部で、広々とした(ある意味で無駄な空間の多い)ロビーからホールにエスカレーターで上る。天井は高いが響きはよさそう。

セルシェルは、童顔で可愛い人である。よく見るとがっちりとした体格をしているのだが、年齢の割りに若々しい顔が子供っぽく見せている。11弦ギターのコンサートを聴くのは初めてなのだが、何故か弾く前から大きな音が出てくるような気がしていた。予想通りというか音はPAは使っていなかったが広いホールにパイプオルガンのような立体感を持った響きが絶えることなく流れる。

彼のバッハは、端正で破綻の無い流れるようなバッハである。ともすれば流麗な音の流れに音楽そのものまで流されてしまいそうな気がしたが技量的にも余裕のある無駄の無い美しい演奏であった。11弦ギターの場合右手親指の運動範囲が6弦に比べるとかなり広いので右手のフォームが気になったが、セルシェルの右手は常にホームポジションが決まっていて親指は必要に応じてスムースに低音弦に向かって伸びていく感じ。またスケールはpiのフィゲタ奏法主体だが、音質が均一で実に見事。今回のオールバッハプログラムも彼の手に掛かると毎日の課題の基礎練習のように聴こえてしまった。元々バッハの音楽の性格そのものがある意味で淡々とした演奏姿勢を要求していることも確かだと思うので、そのこと自体に不満がある訳ではないのだが、この日の演奏を聴いていて僕自身の気持は余り高揚してこなかった。アンコール最後に演奏されたジョンレノンだけが彼の気持がストレートに弦の響きから伝わってきて一番心に残ったくらいだ。

多分僕はセルシェルが6弦ギターで同じプログラムを弾いてくれたら全く違う印象を持ったと思う。11弦ギターの音質そのものが僕は余り好きではないのだ。あるいは6弦ギターに比べると演奏者の心の揺らぎみたいなものが、楽器の構造上伝わり難いのかもしれない。僕がギターで演奏されるバッハが好きなのはやはり6弦ギターで弾かれるからで、今日改めてその思いを強くした。音域も広くより原曲に近い形で演奏可能な多弦ギターの可能性を否定するものではないが、僕はギターの魅力はやはり6弦ギターの音色にあると思う。セルシェルの演奏にけちをつける気など毛頭無いが、出来れば彼の弾く6弦ギターをいつの日か来いてみたい。彼の演奏で一番衝撃を受けたのが彼が6弦ギターで演奏したシャコンヌなのだから。