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『クワイト』とは?

『アンボス・ムンドス』のアフリカ特集(第6号)では、アフリカ音楽の現状について書かせていただいたのだが、全体概要を限られた紙数と時間で書くにはいろいろと限界があった。特に各国の状況をある程度細かなところまで触れることは出来なかったので、こうした点、機会をみて補っていきたいと考えているのだが、ほとんど触れられなかったもののひとつが、南アフリカの音楽。今回はそのうち、ヒップ・ホップに焦点を当てて紹介してみたい。

ひところは日本でも南アフリカ音楽が人気を博し、特にクアトロ・レーベルがアフリカン・ジャズ・パイオニアーズ、マハラティーニなどを積極的に紹介していた。ところが最近は、せいぜいマハラティーニの死が伝えられたくらいで、音楽状況そのものは全くと言っていいほど分からなくなっている(最近の南アフリカのジャズについても、概説する予定なのでお楽しみに)。

ところが、南アフリカ音楽シーンが、停滞しているとか、核を失っているということはなく、今現在この国を席巻しているのが(といっても黒人社会において)、90年代半ばに登場した、クワイトと呼ばれる南ア流のヒップ・ホップである。

まず、クワイトに至るまでの過程を振り返ってみよう。80年代から90年代初頭にかけては、バブルガムと称されるディスコ・サウンドが大人気だった。その代表的ミュージシャンとしては、チャカ・チャカ(CHAKA CHAKA)、ブレンダ・ファッシ(BRENDA FASSI)、チッコ(SELLO CHICCO TWALA)などがいる。

その一方、80年代後期からハウス・サウンドが盛んに流入し出し、フランキー・ナックルズやマスターズ・アット・ワークをはじめとする数多くのディスクが聞かれ、DJたち(アーサーもそのひとり)がそのサウンドを模倣するという状況が起こった。

この2つの動きは互いに相互作用し、若い黒人たちの感覚を写し取るような歌詞を伴った強烈なダンス・ミュージックである、クワイトの形成に結びついた。

このクワイトは、ヒップ・ホップやハウスに加えて、最近のR&Bやラガの要素も吸収している。そしてそのサウンドの最大の特徴は、プログラミングされたベース・ラインのもたらすグルーブといえるだろう。このベース・ラインはひたすら重く、同様にプログラミングされたキックの音と一緒になってそれぞれの曲を支配する。そしてその上にキーボードの生む軽快なサウンドがのる。一方ボーカルは、歌うというより、語るというか叫ぶというか、、、、ラップほどの激しさやスピード感はない。いずれにしても、至ってシンプルな構造の曲ばかりで、この分かりやすさが10代の若者を中心に受けている理由だろう。確かに、ディスコで大音量で身体を預けるのが最も似合うサウンドで、これまで紹介されてきた南ア音楽の優雅さとは対極に位置する存在だ。

ブレンダとチッコ

クワイトのミュージシャンで一番気になるのは、アーサーなのだが、いろいろ探し回ってみても彼の単独盤を入手できなかったので(リリースされていない可能性もある)、ブレンダとチッコの作品をいくつか紹介したい。

ブレンダは1988年にデビューした後、93年『AMAGENTS』の大ヒットで一気にブレイクし、バブルガム・ミュージックの女王の座につく。今の時点で当時の曲を聴くと、まあ普通のディスコ・サウンドで、すぐに連想するのは、マドンナだ。彼女もマドンナのことを相当意識していたと見て間違いない。

90年代半ばはいろいろスキャンダラスなトラブルが続いたらしく、96年の『NOW IS THE TIME』あたりの出来は良くない。しかし、曲によってはクワイトを予見させるビートも窺われる(ちなみにこのアルバム、2曲でパパ・ウェンバが参加している)。

続く97年、『PAPARAZZI』により復活、ここで彼女のクワイトが全面展開する。そして98年『MEMEZA』とそこからシングル・カットした「VULI NDELELA」が空前の大ヒット(ロンドンあたりでも相当にうれたらしい)。今年になって日本にも入荷してきた99年リリースの最新作『NOMAKANJANI?』も最近の好調振りを示す一枚である。

(ところで、多くの文献で、チッコがプロデュースした『MEMEZA』によって復活したように書かれているが、音楽的には前作の『PAPARAZZI』を分岐点と捉えるべきだろう。なお『PAPARAZZI』は、『ミュージック・マガジン』2000年3月号で北中氏が取り上げていた。)

一方のチッコはかつてバブルガムの帝王的な存在で、ネルスン・マンデーラに捧げた「WE MISS YOU MANELOW」や「PAPA STOP THE WAR」などのヒットを飛ばしているものの、正直言って余り面白くない。

サウンドがクワイトらしくなるのは、95年の『MODJADJI』あたりからといえる。しかし最近はプロデュース業がメインらしく、そのためか98年の『MAMATILIDA』(恐らく最新作)は埋め草的な曲もあって不満の残るできだ。

BLACK PRESIDENT (1994)
NOW IS THE TIME (1996)
PAPARAZZI (1997)
MEMEZA (1998)
NOMAKANJANI? (1999)
THE BEST OF CHICCO (1992)
MODJADJI (1995)
MAMATILIDA (1998)

スターンズの編集盤

ところでクワイトのCDのうち、今日本で買えるのは、せいぜいブレンダの『NOMAKANJANI?』くらい。だが、内容の優れた編集盤が2種あるので、まずはこちらを聴いていただきたい(というより、多くの方にとってはこの2枚で十分だろう)。

THE INDESTRUCTIBLE BEAT OF SOWETO VOLUME 6 : SOUTH AFRICAN RHYTHM RIOT (STERN'S/EARTHWORKS STEW38CD,UK,1999)

クワイトを含めた南アの最近のポップス集。ブレンダの「VULI NDLELA」やアーサーの「OYI OYI」といったヒット曲を収録。

KWAITO : SOUTH AFRICAN HIP HOP / VARIOUS ARTISTS

(STERN'S/EARTHWORKS STEW42CD, UK/USA, 2000)

こちらはクワイトに焦点を合わせた選曲。ブレンダ、アーサーに加えて、アバ・シャンテ、エム・ドゥーなどの人気者の曲も収録。

SOUTH AFRICAN RHYTHM RIOT (STEW 38CD)
KWAITO (STEW 42CD)

クワイトの未来

クワイトの未来、というか南ア音楽のこれからはどうなっていくだろうか?正直言うと、クワイトは聞き捨てられる運命にあるポップ・ミュージックの一種と思う。改めて語る機会があればと思うのだが、聴いた限りでは南アのジャズが今結構つまらない。何がつまらないかと言うと、「フュージョンくさい」のだ。こうした状況を見ていると、かつての芳醇な南ア音楽はどこへ消えたのかと首を練ってしまうが、この国はまだまだ再生の途上にある。セネガルあたりのヒップ・ホップを聴いて気づくとおり、西アフリカの各地にまかれたヒップ・ホップの種がどんどん芽生え始め、そのなかにはとんでもなくクールなもの、ヒップなものもある。もしかすると、南アでもこれらと同様な、ヒップ・ホップによる自分たちの音楽の再生が始まる、いや始まっている可能性は否定できない。


(2000/08/19 Ver.1.0)


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