美女のち美男、ときどき美少女。
〜Beauty, Handsome and Pretty girl〜
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 第22章 空飛ぶ老婆
 
   − 新生ゼノビア王国 首都ゼノビア −
 
 「むひょひょひょひょ、若くてピチピチしたのが、たくさん入ってきおったの。
  男が少ないのは不満じゃがのぉ まあクラスがクラスだけに、我慢するとするか。」
 
 ドゥルーダ各種専門学校・ゼノビア分校の、新年度が始まった。
 新たに創設された秘書・クラスでは、講師の挨拶に誰もが、息を飲んでいた。
 (このクラスを選んだのは、間違いでは…!?)という思いと共に。
 
 「では、出席を取るとしようかの、 え〜、ゴロゴロビッチ〜」
 「……は、はい!」
 「むひょひょ、数少ない男じゃの、たっぷり可愛がってやるぞい。」
 「け、け、け、結構です〜」
 
 そんなやりとりが、しばらく続いていたのだが、あるところでババロアの声が止まった。
 「え〜っと、次は、次は……! ベ、ベルゼ……ビュート……?」
 ババロアは、ハッとして、顔を教卓から起こした。
 ボサボサの髪に隠れていた、瞳が見開かれ、キョロキョロとその名の主を探す。
 
 「はい。」
 軽く手をあげて、鈴の音のような美しい声で返事をしたのは、
 ショート・ボブの金髪の少女。
 数少ない男子生徒はもちろん、女子生徒までもが、ためいきをつくほどの、
 クラスでもとびきりの美人だ。
 ババロアは、その少女の名に驚いた。
 そしてよく見ると、顔こそ違うものの、どこか懐かしいような、不思議な感じを覚えた。
 
 見つめられていた少女は、ゆっくりと指で鼻を押し上げ、ブタっ鼻を作りつつ、
 アッカンベーをしてみせた。
 
 ババロアの差し出した手が、小刻みに震えている。
 「………嘘じゃ、嘘じゃなかろうね。 嘘だなんて言われたら、わたしゃもう
  死んでしまうよ…」
 少女はにっこり微笑んだ。
 「…ただいま。」
 「……ベルっ───────────!!!」
 ババロアは飛んだ。一直線に3つの机を飛び越えて。
 
 「きゃあっ!」
 ドンガラガッシャと、 いくつもの机が弾き飛ばされた。
 何事かと驚く生徒達をよそに、ババロアはおいおい泣きながら少女を抱きしめた。
 少女もババロアを抱きしめ、おいおい泣き出した。
 老婆と少女、アンバランスな二人の大泣きは、いつまでも止まることがなかった。
 
 
 秘書・クラス初授業は休講となり、この日のことは、生徒達の語り草となった。
 空飛ぶ老婆の物語として──
 
 
 その後、首都ゼノビアのメイン・ストリートに開店したオープン・カフェ、
 『カフェ・ド・ライアン』には、1つの名物が誕生した。
 風そよぐデッキで、優雅なティー・タイムを過ごす2人の美女。
 
 1人は、ヴァレリア島以後、消息を絶っていた魔女デネブ。
 小悪魔のようだった以前の姿とは外見は変わり、随分色っぽくなった大人の女。
 別人と言われても仕方がないくらいなのだが、カノープスのお墨付きもあり、
 何よりもその言動や振る舞いが、あのデネブに間違いないということで、
 新生ゼノビア王国魔法軍団に、以前と同じように所属することになった。
 鮮やかな紫色のワンピースのミニからのぞいた足は、前以上に兵士たちを魅了した。
 
 そして、もう1人の美女は、専門学校に通う学生、ベルゼビュート。
 笑うと軽く揺れる、そのショート・ボブの金髪は、道行く人々を振り向かせた。
 
 2人はいつも楽しそうに笑っていた。
 声をかけようとする男達は大勢いたが、二人を囲むカボチャ頭のSPが気味悪く、
 結局、みな、遠巻きに眺めているだけだったという。
 
 
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