美女のち美男、ときどき美少女。
〜Beauty, Handsome and Pretty girl〜
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 第15章 カチュア、復活
 
   − 新生ヴァレリア王国 首都ハイム/王家の墓 −
 
 カチュアの死を、バクラム軍に対する恨みに転化したデニム率いる解放軍は、
 難なくハイム城を攻略した。
 実の叔父であるブランタが牛耳っていたバクラム・ヴァレリア王国はここに崩壊。
 解放軍はこれを機として、解放軍という名を捨て、正式に新生ヴァレリア王国が
 誕生した。
 
 ブランタの背後で動いていたロスローリアンは、まだ島内に残っているため、
 予断は許さない状況ではあるが、その一部は島からの撤退を始めたらしく、
 デニムたちも、ようやく一息を入れることができた。
 
 空中庭園に逃げ込んだロスローリアンの残党を駆除するための最後の仕上げが
 あるが、その前にやっておかなければならないことがあった。
 先日、銃で射殺されたカチュアの葬儀だ。
 
 新生ヴァレリア王国として、国葬をすべきだという声も高かったが、デニムが断固
 拒否した。
 今さら、そんなことをして何になると言うのだろう。
 僕は姉さんのために、何もしてあげることができなかった…
 静かに別れを告げたい… そんなデニムの望みを、変えられる者はいなかった。
 
 それでも体裁だけは保ちたいという一部の者の意見を入れ、
 場所だけはヴァレリア王家の墓となった。
 葬儀に集ったのは、イベント・キャラと呼ばれる一部の者たちだけだった。
 
 柩の中のカチュアを、デニムは涙を流さずにじっと見つめていた。
 (姉さん、とても綺麗だよ…… 父さんに… 僕たちの父さんにまた会えるね……)
 
 神父エルリグが最後の別れの言葉を言い終わる。
 あとは、柩のフタを閉じて、土をかぶせるだけ…… その時だった!
 「ぷはぁ〜 危なかったわー 初めてなので、よく分からなかったけど、
  上手くいったのねー!?」
 そんな言葉を吐きながら、突如カチュアが起き上がったのだ!
 柩を囲んでいたイベント・キャラは皆、驚愕し飛びのいてしまった。
 
 「きゃ〜 化けて出たわ! カチュアが化けて出た〜!!」
 オリビアは涙を流し、イヤイヤと首を振りながら、叫んでいた。
 セリエが尋ねる。
 「お前が、リザレクションを使ったんじゃないのか!?」
 「違う、違うわ〜 だって、それはステージ・クリア前までしか、効き目がないのよっ!」
 
 騒ぐ面々をよそに、当のカチュアは目をパチパチしながら、周りを見渡している。
 その目がある一点に止まったと思うや、急に大きく見開かれた。
 「はぁ〜い、おはよう〜 ベ・ル・ちゃ・ん♪」
 「デ、デ、デネブ…!?」
 (………し、失敗した……?)
 ベルゼビュートは、己の失敗に感付いた。
 そりゃ本当の転生をしたのは初めてだけど…
 よりによって、転生したところに、この女がいるとは…
 
 「……な、なんで、あんたがここに居るのさ!?」
 「なんでって、ワタシ、軍の中枢メンバーだもん。 よ〜く、ご覧なさい。」
 カチュア、いや転生したベルゼビュートは、もう一度、周りをよく見てみた……
 しかし、この状況が一体どういうことなのか、周りを囲んでいる連中が誰なのか、
 サッパリ分からなかった。
 
 そう、長らく死者の宮殿に潜んでいたため、ベルゼビュートは極端に浮世離れ
 していたのだ。
 ゴリアテの英雄とか言う若造が幅を利かせているらしい…ぐらいは、なんとか
 聞いているのだが、そこまでのレベルの情報しか持っていないのだ。
 (そう言えば、何人かは、前に一度、戦った気がするような…しないような…?)
 「……ははあ、ベルちゃん、な〜んにも分かんないんだぁ♪」
 何せ、あの戦いでは二人の人物しか見てなかったのだから、
 ベルゼビュートは、やっぱり思い出せなかった。
 
 「…そ、そうだ、ちょ、ちょっと待って! アル様はどこ、アル様は居ないの!?」
 辺りを見渡しても、あの人がいない…
 事情はさっぱり分からないが、デネブとアルビレオが一緒の軍に居たことは覚えている。
 そして、その抱擁を最後に見たことも。
 必死の形相で尋ねるカチュア顔のベルゼビュート。
 
 「ああ、あるび〜なら、あの宮殿の一番ふか〜い所で、ぴきーんって、どっか
  消えちゃったわよ。」
 「……ってことは、ここに居るのは…」
 「そう、ワ・タ・シ…だけよ。」
 (ガーン、サイアク〜)
 ベルゼビュートのカチュア顔は、どんよりと沈んでしまった。
 「まあまあ、念願の副作用のないピチピチした体になったんだし、良かったじゃないのー
  でも、ワタシなら、カチュアだけは選ばないけどねぇ〜」
 ポンポンとカチュアの肩を叩くデネブ。
 遠巻きに見ていたイベント・キャラたちも、ようやく近づいてきた。
 
 「おめえ、死んでたはずのヤツが生き返っても、なんとも思わねぇのか?」
 「や〜ね〜、かのぷ〜 めでたいことなんだから、気にしない、気にしない〜 ねぇ?」
 
 銃というもので撃たれても、死にはしないのだろうか?
 そんな疑問を持つ者もいた。
 モルーバが口を開いた。
 「…そう言えば、あのレンドルとかいう者。麻酔銃というものもあると言っておった。」
 「麻酔って言うと、麻痺みてぇなもんか? そんなら話は分かるぜ。ガッハッハ!」
 ザパンは、もう理解できたとばかりに、豪快に笑い飛ばした。
 「いや、血が流れてたんだぜ、ドバーっとよ。さすがに死ぬだろ?」
 ガンプの異議にも、ザパンは「細かいことは気にするなって、ハゲるぞ。」の一言で
 済ませようとする。
 「おい、デニムっ! こんなヤツにまで、オレの愛情を注げっていうのかっ!?」
 ガンプの叫び声が空しく響いた。
 それはそうだろう、デニムはそれどころではない。
 
 「……ね、姉さん… ほ、本当に生きて…いるのかい…?」
 デニムは驚きと喜びが、ないまぜになった顔で、カチュアの手を取った。
 「きゃあ〜 やめて、やめてー 私に触れてもいいのは、アル様だけ!
  アル様だけよー!」
 カチュアは弟の手を振り払うと、何やらわけの分からない、うわ言を叫んでいる。
 「……ね、姉さん…!?」
 
 
 カチュアが生きているというのは、誰の目から見ても疑いようがなかった。
 そんなことがあるのだろうか? それに、どうも様子がおかしい。
 どうやら、イベント・キャラのことを一人も覚えていないらしい。
 この島で今、起きていることもほとんど知らなければ、自分のことさえも知らないのだ。
 
 「記憶喪失のようじゃ。」
 人生経験豊かなバイアンが、そう断定したが、システィーナが口を挟んだ。
 「そんなところだとは思うけど、それにしては、何でデネブのことは覚えているの?」
 そう、確かに目覚めた後、カチュアが「デネブ」と口走ったのを、何人もが聞いている。
 
 「そりゃ、コイツがいちばんインパクトあるからだろ。」
 カノープスは当たり前とでも言うように、デネブを指差しながら言った。
 パチンとウインクしてみせるデネブ。
 「それにしても… デニムのことさえ忘れているのに……」
 システィーナは、どうにも納得がいかなかった。
 
 「いずれにしても、このままでは国民の前に立たせるわけにはいかんな。」
 モルーバは早くも、女王が生きていたという事実をどうすればいいのか模索していた。
 実のところ、彼の頭の中では、デニム王、オリビア王妃、そして後ろ盾の自分…という、
 ウハウハな構図が完成していたのだ。
 正直、困っていた。
 
 その時、イベント・キャラの輪の中に、準々イベント・キャラの「影」が舞い降りた。
 「……そんなに目立っちゃ、影じゃなかろうが。」
 冷たくつっこむモルーバ。
 「…失礼。急報がありましたもので。」
 「………いったい、なんだ?」
 「例の聖騎士様らしき方の所在を突き止めました。」
 
 「本当かよ! おい。」
 カノープスは待ってましたとばかりに、手を打ち、喜びを顔に浮かべた。
 戦友として、仲間として、男として、アイツとはもう一度会いたい。
 その思いを持っていたカノープスならではの反応の早さだった。
 
 そして、デニムもまた喜びの表情を浮かべていた。
 ランスロットと過ごした日々は短くても、時間に比例しない思いが彼にもあった。
 そして、同じ思いを持っていたはずのカチュア……
 ハイムの地下牢での出来事を悔やんでいたカチュアは……
 それでもやっぱり無反応だった。
 (…姉さん、ランスロットさんのことも忘れてしまったのかい……?)
 
 そして、もう一人、目を輝かしていた人物がいた。 ……デネブだ。
 (きたわ〜 待ってたのよね、その情報♪)
 
 その時、ザパンがパンっと大きな音をさせて手を叩いた。
 「そうだ、こういうのはどうだ? カチュアとその聖騎士を会わせるってのは。
  ショック療法ってヤツさ。 なんならオレがカチュアにキスしてやってもいいんだが…」
 「それそれ、面白そう〜 やってみましょうよ♪」
 デネブがすぐに乗った。
 「えっ!? いいのか、ブチューっと行くぜ、ブチューっと。」
 「違うわよ… キスぐらいで記憶が戻るわけないでしょっ! ショック療法の方よ」
 
 (これはチャンスよ。行くならきっと少人数のはず…… 必ずオルゴールを
  GETしてみせるわ!)
 
 カチュア……ベルゼビュートの眉もピクピクと動いた。
 先ほどからの、みんなの質問を聞いていて、ぼんやりと自分の立場はイメージできた。
 このままでは、身動きが取れなくなる、そんなVIPなのだ、この体の女は。
 
 (これはチャンスよ。行くならきっと少人数のはず…… アル様を探さなくっちゃ…
  何よりも、この女から逃げなくっちゃ… でも、あれっ? どうしてデネブとアル様は
  一緒じゃ…)
 
 「うむ、面白そうだ。」
 モルーバのお墨付きを得て、作戦が実行されることになった。
 参加メンバーは、デニム、カチュア、デネブ、影の4人。
 カチュアの記憶奪回・ショック療法作戦 ……開始。
 
 
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