第7章 因縁の再会 − エクシター島 死者の宮殿/地下3階 − ex. 〔石の花園〕 >「しかし私一人だけで、もし魔物が襲ってきたら。」 >「短時間なら大丈夫だ。ここより上の階には魔物の気配はない。」 >ラドラムがそう告げると、さすがにベイレヴラも受けざるを得ない。 (そうねぇ… 確かに魔物の気配はないけれど、この気配は……?) デネブは心の中でそうつぶやくと、取り出した羊皮紙にサラサラと何かを書き付け、 それを折りたたんで、軽く口付けをした。 「ベイレヴら〜ん♪ 理由は聞かずにこれを受け取ってぇ〜」 それは、デネブのキスマーク付きの紙だった。 「ま、まさか、デネブ殿…! そ、それはいけません、私は仮にも神に仕える身、 いや、この際、信仰を捨てるべきなのか… どうする、どうする、ベイレヴラよっ!」 コブシを握り締め、一人芝居を演じる神父。 「うふふ、まあ、とにかく持っていてよ。それで、こ〜んな顔の人にあったら、 それ、渡しといてね〜☆」 そう言って見せた顔は、まるで鬼婆のような顔をしていた。 一瞬、後ろに飛び下がったベイレヴラに向けて、軽くウインクをしたデネブは、 さっさとB4Fに続く扉へ向かって行った。 「は…? 渡す…? 私への手紙ではないのですか??」 去り行くデネブと手紙を交互に見るベイレヴラは、狐につままれたような顔をしていた。 そして、手紙を開いてみようとしたのだが、どうしても開かない。 軽く折られただけにしか見えないのだが、どうしても開かない。 持っていた手燭で透かしてみようとしても見えない。 (この魅惑の、カボチャの形をしたキス・マークのせいなのか?) ベイレヴラは、傍らですすり泣いているサラのことも忘れて、しばらくは手紙を 探っていた。 >高笑いとともに、白いガウンの女は闇の中へ消えようとしたが >そのガウンを引っ張る者がいた。 >贅沢にも風の法衣を着たゴーストだった。 >「……余計なものまで作ってしまったようだね。まあいい、着いてきな。」 >ゴーストは嬉々として悪魔と共に闇の中へ消えていった。 ゴーストと化した男、かつてベイレヴラという名だった男。 人間だった時の記憶はスッカリ消えてしまっていたのだが、 傍らに立つ女の顔を見て、あることだけは思い出した。 (間違イナイ… コノ鬼婆顔ダ…) 女の羽織るガウンの裾を、ちょいちょいと引っ張り、ある物を差し出した。 魔界の女、ベルゼビュートは、副産物のゴーストが差し出した羊皮紙を受け取った。 裏返してみると、そこにはカボチャの形をしたキス・マークが… 「……!! で、デネブっ!?」 思わず、大きな声をあげてしまった。 ゴーストを恐い顔で見つめると、問い詰めた。 「お前、これをあの女から預かったのかい?」 ゴーストは、怯えた感じを見せながらも、間違いないというように、ウンウンと うなずいている。 (あの女… なんで、こんなとこに来たのよ…) ベルゼビュートは、嫌な予感がしながらも、手紙を開いてみた。 ベイレヴラの時とは違い、それはたやすく開かれた。 「は〜い、べるちゃん☆ おひさしー こ〜んなところにいるってことは、やっぱり副作用が大きかったの? 人前に出られない? 大丈夫よ、自信を持つのよ♪」 手紙の内容はそれだけだった。 ……ワナワナと震える手が、突如、手紙をビリビリと破った。 「あの、女めぇぇぇぇっっ!! 永年の決着、今度こそつけてやるわっ! 先回りするわよー!!」 その形相を見ていたベイレヴラは、後ろを向いてこっそり逃げ出そうとしていた。 しかし、その首根っこを、ガッチリ後ろから押さえられた。 「なに、逃げようとしてんのよー! あんたも出動するのよぉ〜」 「ピキーっ!!」 ……デネブとベルゼビュート、二人の間にどのような過去があったというのだろうか?? − エクシター島 死者の宮殿/地下50階 − 「フフフフフ…… ついに来たわね、デネブ! 姿は違っていても分かるわ。 決着をつけるわよ!」 ベルゼビュートは燃えていた。 地下50階の扉を開けてやってきた9人の戦士たち。 しかし、ベルゼビュートが用事があるのは、そのうちの1人、デネブだけ。 ……と思っていたのだが、ベルゼビュートはある男を見て、目を見開いた。 「あ、あれは…… 姿こそ変わってはいるが、もしや、もしや……? ア、アル様!? 間違いないわ、アル様よ!! アールーさーまー!!」 ラドラムと名乗っているアルビレオは、少し驚いた。 (アル様…? そう言えば、そんな風に呼ばれていた頃が……??) デネブが肘で、アルビレオを小突きながら、耳元でヒソヒソとささやいた。 「この、この〜 色男! 男冥利に尽きるってもんね♪」 アルビレオは、怪訝そうな顔でデネブを見ながら、もう一度、高台に立つ女を見た。 見た目は若い美女…のようかと思えば、老婆?のように見えたりもする。 白いガウンに、黒のミニスカート… (誰だ? さっぱり分からん…) そんなアルビレオを見ていたデネブは、ちょっといい加減にしてよーという感じで 教えてあげた。 「ベルちゃんじゃないのさ。150年ぶりぐらいでしょ、手ぐらい振ってあげなさいよ!」 「誰だよ、それ?」 そんな二人のやり取りを遠目に見ていたベルゼビュートの怒りは頂点に達した。 「デ、デネブめ〜 性懲りもなく、アル様とイチャイチャ、ベタベタしちゃってー! 私は、私は、あの時からずっと、あんたを恨んでいるのよ〜!!」 話は150年ほど前に遡る―――― ≪ Next Chapter ≫ |