第5章 少女の瞳に、大粒の涙 − ヴァレリア島 バスク村・跡地 − ex. 〔少女の瞳〕 >少女の時間が緩やかに流れ出す。 >男の時間も緩やかに流れ出す。 >流れは永遠に交わることはないかもしれない。 >けど、並んで流れていくことならできるかもしれない。 >どこまでも、どこまでも。 少女は丘の上が、今までよりも好きになれそうだった。 オレンジ色の夕焼けが、傍らの影を長く長く伸ばしていくのが好きだった。 何の変哲もない、2つの石が伸ばしていく影が。 ここには、もう1つの大切な思い出もできたから。 ごぼごぼ……… ググググっ…… ボカーっン!!! 横で寝そべっていた竜が、ビックリして首を持ち上げた! 墓石の前の地面が、盛り上がったと思った刹那、凄い勢いで土を弾き飛ばしたのだ。 「ひ〜いい、もうっ! あるび〜と違って、骨からでも再生できるのが、 ワタシの術の素敵なところなんだけど、この地面から出る感触だけはウンザリね〜 まったく、ゾンビじゃないんだし! それに、泥だらけになっちゃうんだからぁ」 地中から現れた女は、現れるやいなや、早口にまくし立てた。 驚いて少女の後ろに隠れてしまった竜たち。 少女と、もう1人の男も、驚いて止まってしまっている。 そんなことは、お構いなしに美女は新しいボディのチェックを始めていた。 「あら、なかなかいいじゃない♪ ちょっとアダルティな感じだけど、美人だわ。 究極の美肌を手に入れるまでのつなぎとしては合格ね。」 パンパンと泥を叩き落としながら、美女…生まれ変わったデネブは、微笑んだ。 すると突然、少女はデネブを見ながら、つぶやいた。 「……お、母さん?」 その瞳には、信じられない…という驚きと、喜びが交錯していた。 デネブは、その少女を見やると、 「あらぁ、こちら、あなたのお母さん? なかなか気に入ったわよ。 なるほど、よく見ると、あなたも美人ねぇ〜 しかも若くてピチピチ! もし、死んだ時は教えてちょうだい。すぐにでも乗り換えるから〜★」 目をパチパチしながら、息を飲む少女をよそに、デネブをさっさと立ち去ろうとする。 しかし、ふと足を止めると、振り向いて竜たちに告げた。 「そうそう、ちょっと今、所持金が心元ないのよねぇ〜 あなたたち、ワタシと一緒に、オークションにでも行かない?」 「ピーっ!」 「ギャァ〜!」 「フミっ!」 「もげぇ〜」 4匹の竜は、何に怯えたものか、叫び声をあげながら、どこかへと逃げ去ってしまった。 「……ん、もう、失礼しちゃうわ! 地道にお店でも開いて、稼ごうかしら?」 そうつぶやきながら、美女は足早にこの場を立ち去って行った。 夕日が沈みきろうとする中、ジュヌーンはようやく声を振りしぼった。 「…きみの、お母さんなのか…?」 「違うわっ!! あんなの、あんなの絶対に、お母さんじゃないっ!」 大粒の涙が、その頬を流れ落ちていった。 少女は丘の上が、嫌いになった。 ここは、酷い思い出の場所だから。 ≪ Next Chapter ≫ |