第4章 ランスロットのオルゴール − バクラム・ヴァレリア王国 首都ハイム/城の地下牢 − ex. 〔白と黒〕 >物悲しく流れるメロディを背中に聞きながら、何を考えるのか。 >去り行く暗黒騎士の後ろ姿が、闇に飲まれていく。 >ランスロット・タルタロス… 闇に包まれたその姿は、もう誰の目にも映らなかった。 シュビビビ〜ン! 突如、空間が歪み、そこから現れたのは、魔女デネブ。 ひょいっと、薄暗い牢屋の石床の上に降り立った。 「あららぁ、アルちゃん、昔は素直ないい子だったのにねぇ〜 ほんと、月日の移ろいってのは、恐いものね…… それにしても、ランスったら、こんな辺ぴな島に来ているなんてー 探すのに苦労しちゃったんだからぁ。」 そう言うと、キョロキョロと辺りを見渡して、ある物を見つけると足早に近づいていった。 「いやーん、あったわ、これよこれ! ランスロットのオルゴール♪ ようやく、巡り会えたわね〜 ううん、スリスリ〜★」 聖騎士が落とした小ぶりなオルゴールを手に、ご満悦のデネブだったが、 ふと、背筋に寒気を感じ、振り向いた。 そこには、デネブに近づいてくる2人の男が… 一人は長柄の槍を、もう一人は鉤爪を両手にきらめかせていた。 「もう、そんな恐い顔しちゃってぇ〜 リラックス、リラックス〜♪」 愛想笑いを浮かべながら、そう言ったデネブだったが、この2人には通用しない ようだった。 長柄の槍を構えたヒゲ面の騎士が呟いた。 「突然、現れるとは、面妖な…… 何やら分からんが、聖騎士殿の大切なモノ、 おとなしく置いていってもらおうか。」 「あちゃー、冗談が通じないタイプみたいね。^^; いつも、いつも、そんなんじゃ、疲れちゃうわよ。」 チッチッチッと、差し出した一本の指を左右に振りながら、お茶目に振る舞って みたのだが… 「このシリアスな展開の空気が読めないのかっ!」 鉤爪の戦士は、その言葉と共に容赦なく、その鉤爪を美女に向かって振るった。 「きゃあ〜」 間一髪で、その攻撃をかわしたデネブだったが、その瞬間、腹部に別の槍が 刺さっていた。 それは、もう一人の男の突き出した槍だった。 「我々、ロスローリアンをなめると、こうなる。」 槍が美女から引き抜かれると、大量の血があふれ出した。 さすがに痛みを感じながらも、デネブはまだ、薄笑いを浮かべていた。 「……ほ、ほんと、あんたたち……戦闘バカ? い、イタタタタッ… …この身体、気に入ってたのに〜 でも、デネブは不滅よ♪」 突然、その身体は、全ての力が抜けたかのように、横倒しになった。 不思議と倒れる音は聴こえず、オルゴールが石床に転がる音だけが、空しく響き 渡った。 鉤爪の男は倒れこんだ体を確認していたが、どうやら死んでいるようである。 「この女はいったい…?」 「……分からぬ。 …狙いはオルゴールだったようだが。」 「………調べるか?」 ヒゲ面の騎士は、槍を一振りして血を落としながら答えた。 「いや、よそう。何だか嫌な予感がする…」 (手を出してはいけないものに、手を出してしまったのではなかろうか…) 暗黒騎士ヴォラックの胸中を一抹の不安がかすめる。 この女が、ローディスの未来を左右することに気付くのは、もう少し先のことだった。 ≪ Next Chapter ≫ |