美女のち美男、ときどき美少女。
〜Beauty, Handsome and Pretty girl〜
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 第3章 要注意人物
 
   − 新生ゼノビア王国 首都ゼノビア−   ex. 〔運命共にし勇者へ〕
 
 >「家を継ぐなら結婚もしなくちゃね。 誰がいい? そうだわ、アイーシャがピッタリよ。
 > 悪いことは言わないわ、デネブだけはやめときなさい。」
 
 「ちょっと、ちょっと、ちょっと〜! ラウニィー! 何、勝手なこと言ってんのよ!」
 「だって、本当のことじゃない。あんたと結婚したって、ロクなことにならないの、
  目に見えてるもの!」
 反乱軍の中に、デネブは馬が合う仲間を見つけた。
 もっとも、この場合の「馬が合う」というのは、対等にケンカしてくれる相手という
 意味だったが…
 
 「うるさい、うるさい、うるさ〜いっ! ワタシがサイノスと結婚して何が悪いのよ!」
 「ふん、私が釘を刺さなくても、サイノスの方が、ちゃ〜んと分かってるんだから。」
 「きーっ!! あ、サイノスぅ〜 何かあったらワタシに言ってね。
  いつでも、ワタシが作ったカボチャ人間が応援についていくから〜♪」
 
 確かに、ラウニィーの言う通りだった。
 ガラスのカボチャを取り戻すため、デネブはあの日以来、あの手この手を使って、
 勇者を誘惑してみたのだが、この朴念仁は、一向になびこうとはしなかった。
 どうやら、心の奥底に誰やら、しっかりと決めた人がいるらしいのだ。
 それは、ランスロットについても同じことだった。
 真面目一辺倒、そういうのに限って、コロっと転んでしまうものなのだが、
 なんでも、戦乱で妻を失ったらしくて、その心の傷には、デネブのようなタイプが
 入る込む余地はなかったのだ。
 
 そんなこんなで、反乱軍が神聖ゼテギネア帝国の圧政を打ち破った今日の今日まで、
 彼女が求めた3つのものは、何一つ手に入ってなかったのだ。
 
 そして、こんなデネブとラウニィーのいさかいを、どこか遠くから見ている者がいた……
 
 
 
   − パラティヌス王国 バーサ神殿 −
 
 不気味に輝くオーブの向こうに、気が強そうな女と、お色気ムンムンの女が
 言い争っている。
 それをいささか呆れた表情で見ているのは、何やら人形のようなものを肩に乗せた
 魔導士風の美男子と、それとは対照的に、おどろおどろしい雰囲気をかもし出す
 老婆の二人だった。
 オーブの光がぼんやりと照らし出すその場所は、どこかの遺跡のようであった。
 
 「この女がアレだ。ラシュディ様の言われていた要注意人物だよ。」
 「ゼノビアの新たな女王とかいう女ですな?」
 魔導士風の若者は、首を横に振りながら否定した。
 「いいや、そっちの方じゃない。あっちの魔女の方だよ。」
 
 老婆は怪訝な表情で、もう一度確認するかのようにつぶやいた。
 「まさか、あの女が? 失礼ながら、何かの間違いでは?」
 「私も間違いであって欲しいと思う…が、これは事実。とにかく曲者でな、アイツは…」
 どうやら、この若者はデネブのことを知っているらしい。
 間違いであって欲しいというのは、かなり真剣に言っているように見えた。
 
 老婆ゼーダは、ある計画のために、賢者ラシュディとその弟子であるアルビレオと、
 行動を共にしてきたが、この若者…アルビレオが、こんな困った顔を見せるのは
 初めて見た。
 さらに、詳しい話を聞こうとしたその時だった。
 オーブに映るその魔女の視線がオーブの方を向いた。
 つまり、オーブのこちら側の、アルビレオとゼーダの方を。
 
 【ちょっと、あるび〜! 何、コソコソと覗き見してんのよ〜!?】
 「ヒィーっ!!」
 不覚にもゼーダは、驚きの声をあげてしまった。
 まさか、魔界のオーブを逆側から覗ける人間がいるとは思わなかったのだ。
 
 【そんな子には、お灸を据えてあげるわよっ!】
 魔女がそう言うやいなや、オーブはバリンと鈍い音を立てて、無残にも砕け散って
 しまった。
 「ば、バカな……!?」
 驚愕する老婆をよそに、若者の方は到って平静な顔をしていた。
 「ま、こういう女だよ。敵に回せば恐ろしい。 ……味方にしても恐ろしいんだけどね。」
 若者の代わりに、肩の上にいる人形が両手を広げて、ひょうげた仕草をしてみせた。
 
 「し、しかし、あの女、聞いた話では帝国軍にいたと言うではありませんか?」
 「まあ、その、なんだ。 見えているところにいてくれた方が安心ってことでね。
  何か夢中になるものを与えておけば、それに没頭するタイプだから。」
 ゼーダは、まだ納得できないようだったが、若者の方はこれ以上、説明する気は
 ないようだった。
 
 「あの女に逆探知されないうちに、予定通り、ヴァレリア島に行くことにするよ。」
 そう言って、さっさとこの場を後にしようとする。
 しかし、若者は2、3歩進んだところで振り向いて、言葉を付け足した。
 「あ、そうそう、ヴァレリアではそうだなぁ ……ラドラム…
  うん、しばらくは、ラドラムと名乗ることにするよ。
  万が一、デネブがここにやってきたとしても、教えるんじゃないぞ。
  あと、念のために、また転生用の身体を2、3見つけておいてくれると助かるよ。」 
 
 そう言えば、今の若者の姿はゼーダが探し出してきたものだった。
 そんなことまで手伝わされるのは、正直納得できないところがあるのだが、
 ラシュディの一番弟子の機嫌を損ねるわけにもいかず、渋々各地で情報を集め、
 実際に転生用の肉体を集めているのだった。
 「ええ、あなた様好みの、魔導士をまた、探しておきますよ……」
 
 ラドラム…いや、アルビレオは、肩の上の人形を、両手に持ち直して、しばらくじっと
 見ていたが、不意にその人形を、ゼーダの方へ投げて寄こした。
 あわてて、それを受け止めたゼーダに向かって、アルビレオは言葉を続けた。
 「この人形も、君にしばらく預けることにしよう。 少しぐらいなら魔法も使えるちょっと
  変わった人形だよ。
  実は、あのデネブにもらったものなんだが、分けあって捨てられなくてね…
  大事にしないと、何が起こるか責任は持てないよ。 では、また…」
 そう言うと、アルビレオは足早に、この場を立ち去っていった。
 
 「ちょ、ちょっとラドラ…… アルビレオ様ぁ!」
 ゼーダは慌てて追いかけようとしたが、アルビレオの姿はあっという間に消えて
 しまっていた。
 
 「はぁ…… まったく魔界の住人たるこの私を、ただの駒みたいに使いよって…」
 そうつぶやくと、ゼーダは、アルビレオから渡された人形の顔を見つめた。
 口元がニタ〜っと、三日月の形になって笑ったようになった。
 「ひっ!」
 あわてて、飛び下がったゼーダは、不覚にも腰から座りこんでしまった。
 (しかし、本当に気味が悪いわ。 …それにしても、あの魔女が計画の妨げになるかも
  しれぬとは…)
 ゼーダは、それが悪い冗談のようにしか思えなかった。
 
 それはそうだろう、ゼーダはラシュディを、デムンザ様に引き合わせた時のことを
 思い出していた。
 ラシュディは豪胆にも、以前ゼーダに対して、アルビレオが言ったことと同じことを
 口にした。
 「お主の方が、ワシの片腕になるかもしれぬが、それでも良いか?」と。
 怒るかと思ったデムンザだったが、逆に大きな声で笑い出した。
 そして、何の気まぐれか、全身を黒い甲冑で包んだ魔界の騎士をも、ラシュディに
 贈ったのだ。
 
 魔界の石『キャターズアイ』でさえも、何かのきっかけにしか使わないという程の大賢者。
 (あのラシュディが、恐れる女とは一体……?)
 
 そんなゼーダの心を知ってか知らずか、また人形の口元が不気味に笑いの形をとった。
 「こいつメっ! いつかの仕返しじゃ!」
 なんとなく、むしゃくしゃしたゼーダは、その身体に蹴りを一発入れてみた。
 人形は特に痛がる素振りも見せず笑い続けていた。
 ゼーダの心は、鬱々として晴れなかった。
 
 
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