美女のち美男、ときどき美少女。
〜Beauty, Handsome and Pretty girl〜
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 第2章 美肌と暗黒道
 
   − ゼテギネア大陸 ハイランド地方 −   ex. 〔君影草〕
 
 >ただ一人、生き残った四天王クァス・デボネアの手によって、
 >そのなきがらは、古びた屋敷の中庭に埋葬された。
 >君影草と呼ばれる白い花が、可憐に咲き誇るその庭に。
 
 草木も眠る丑三時、古びた屋敷の中庭で、土を掘り返す音が続いていた。
 同時に、人のものとも妖怪のものともつかぬ、奇妙な言葉も少々……
 
 「デェねぶサマ、ホリだスィもの、ヲわっタでスよ」
 スコップを手にする者、吊るはしを肩に担いだ者、4つの影は頭だけが異様に
 大きかった。
 そこに▽や○の形をした穴が開いている。
 そう、彼らは、デネブがガラスのカボチャを使って生み出した、カボチャ人間たちだった。
 
 「はぁ〜い、ごくろうさまっ♪」
 そう言いながら、石垣の上から降りて、掘り返された土の山の脇に向かってきたのは
 デネブだ。
 「いよいよ、ご開帳ってわけね。 さあ、みんな柩のフタを開けてごらんなさい。」
 4人のカボチャ人間は、デネブの指示通り、掘り返された柩のフタを開けてみた。
 横に無造作に置かれた、そのフタには、この柩の主の名前が刻んであった。
 ……エンドラと。
 
 開かれた柩の中に横たわっていたのは、死からそれほど時を経ていない女だった。
 純白のドレスを着た美しい女の周りは、鮮やかな純白のスズランの花に
 埋め尽くされていた。
 そう、この女性こそ、神聖ゼテギネア帝国の女王、黒き女帝と呼ばれたエンドラだった。
 2日前、反乱軍との戦いに敗れ、激動の生涯を終えたばかりのエンドラ。
 しかし、この輝かんばかりの美しさをなんと形容すればいいことか……
 
 「ほんと、綺麗ねぇ〜 ワタシが見てもホレボレしちゃうわ。
  とても40歳過ぎとは思えないのよねぇ きっと、何か秘密があると思うのよねぇ…」
 そう言うと、デネブは遠慮なく、エンドラの身体を調べ始めた。
 指輪やネックレスなど、装飾品の1つ1つを丹念に調べていく。
 しかし、全てを調べ終えた彼女は、いかにも残念というように、息を大きく吐き出した。
 
 「はぁ〜 やっぱり無駄骨かぁ。 悔しいけど、この子、な〜んの細工も入ってないわ。
  結局、暗黒道のおかげってことなのかしら??
  別に暗黒道を否定するつもりはないけど、こと美肌に関してはねぇ〜
  ベルちゃんみたいな副作用はゴメンだしね。」
 美女の独り言とは無縁に、横たわるもう1人の美女はどこまでも美しかった。
 「…ゴメンナサイね。 もういいわ、アンタたち、元の通りに埋め直して。」
 
 (それにしても、この花、でぼちゃんらしいわね… ノルンも悔しいでしょうに)
 意外にも少し暖かい目で、デネブは棺のフタが閉じられるのを、
 ほお杖をつきながら、じっと見ていた。
 
 と、そこに、ガチャガチャと触れ合う甲冑の音をさせながら、数名の騎士たちが
 近づいてきた。
 「お前たちー! ここが女帝エンドラの埋葬地と知っての狼藉かー!?」
 暗闇でよく顔は見えないが、どうやらリーダー格らしい男が、デネブたちに向かって
 叫んだ。
 
 「いやね〜 もう、めんどくさいー!」
 心底、そう思ってもいないように一言吐き出すと、デネブは1人のカボチャ男を
 つかまえた。
 「え〜っと、あんた名前は何だっけ??」
 声をかけられたカボチャ頭は、カボチャのほほを赤くしながら、答えた。
 「ぼきノお名マえハ… サいバいまんデしゅ」
 「そう、じゃあ、サイバイマンちゃん、あの人たちに『タクティクス』用の必殺技、
  見せてあげて!」
 「うぃー、むっしゅー」
 「マドモアゼルでしょうがっ!」
 
 ヨタヨタした足取りながらも、騎士たちに向かっていくカボチャ頭。
 騎士たちは、コイツのあまりの無防備さを、逆に警戒しながら、取り囲んだ。
 「イグでスぞー ぱんプきん・ぼ〜〜っむ!」
 そう叫ぶや、カボチャ頭の頭は、木っ端微塵に吹き飛んで、それを食らった騎士たちを
 吹き飛ばした。
 真っ赤な血を浴びて… いや、真っ黄色のカボチャを浴びた騎士たちが横たわる。
 
 「うわ〜、思ってたよりズッと威力があったみたいね。
  でも、大丈夫よ、命までは落としてないから。
  さあ、あんたたち、早いとこ、墓を元に戻して、ズラかるわよ〜」
 
 そう言って走り出したデネブの顔は、面白くて仕方がないという、無邪気さに
 あふれていた。
 
 
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