第32号d(2003年10月1日)

カナダの自然災害対策

カナダ王立芸術院会員、カナダ・グラフィック・デザイナー協会評議員 江森 瑛子

カナダの地図 一口にカナダといっても太平洋と北極海、大西洋に囲まれる広い地域なので自然災害にもいろいろあり、地震の原因は3種類あります。
  1. 太平洋沿岸南西沖には、北アメリカプレートと太平洋プレートに挟まれたホアン・ド・フカ・プレートなどの断層があるため、沿岸地帯では毎年約300回のごく弱い地震があり、20年に1回位はマグニチュード6以上の地震が発生します。
  2. 北アメリカ大陸は年に数センチ南下をしていて、地盤の弱いセント・ローレンス河沿いなどの地域ではときどき地震があります。(ナイアガラの滝は地盤沈下によって出来た断層です。)
  3. 北極圏の地震の原因は1.2.と違い、氷河期からの氷が溶けて重みが無くなるに従って下の地盤が不均等に膨張して起きるものです。
 連邦政府の重要施設保護及び緊急対策庁があげる重要自然災害は、やはり地震が始めにきて、洪水、竜巻、あられ、雪崩/土砂くずれ、吹雪/氷雨、津波/大波の順です。
災害には、カナダならではのものが多くあります。起伏のない大陸の中央を南から北に流れる河の大洪水は避けられないようです。春に上流が突然暖かくなって雪が溶けても、下流はまだ氷に閉ざされているので、爆破をしたくらいでは水の行き場所がありません。

白樺の木 1998年に起きた氷雨害は、樹木1本に氷が2トンも付着し、木だけではなく鉄骨の高圧送電柱がへし曲がって、広範域で停電を起こす災害でした。停電時の暖房は薪を燃やすだけになり、水は雪を溶かすことになります。大波は冬に大西洋上の嵐からくる害が大きく、春に大きな湾で一度氷から溶けた海水が、寒さがぶり返して凍って膨張し、氷の波になって押し寄せて村を押しつぶした例もあります。

鉄塔 災害時の対策は慎重に練られていて、連邦政府、州政府、地方自治体や専門NGO団体(人命救助や救急)が動いて、ヘリコプター飛行を始め行き届いた活動が、24時間体制で行われています。地震災害が予測されるブリティシュ・コロンビア州では、職場単位で緊急事態の対処法の指示と一緒に、3日分の救急・水・食料の入った袋を配っています。もっとも非常食は、1日に1個だけ食べて栄養を補給する「パワー・バー」という小型のクッキーのようなものです。ただ、地域住民の防災対策はあるにはありますが、行きわたっていないのが一番弱い点です。

 チェックリストに上げてあるのは、家族の集合場所、身分証明書、救急道具、食料、水、衣服、常用薬です。なかでも衣服は救助対策計画には必ず出るもので、適切な衣服や履物なしでは凍傷または凍死が免れない国ならではです。また各家庭に配られた文書の中には、「家庭の災害対策26週間」という
    • 地域外に電話連絡が出来る人を置く
    • 家族の1人が救急訓練を受ける
など26項目を1年間に毎週1項目づつ用意をしてゆく計画表もあります。

カナダで暮らすのに、始終遭遇する災害は何といっても雪と氷です。東京近辺で雪が降ったときに信じられないような光景を目にしましたので、ここで雪や氷の上の車の運転の初歩の心得をあげて、お役に立ちたいと思います。
    • 何があっても急な動きはしないこと。急ブレーキは踏まない覚悟。発車をするときにはそっと、そっと動き始める。登り坂道では信号が赤になってもできたら止まらないで、ごくゆっくり前進する。
    • ガソリンは満タンにすると、相当な重量がある。ことに駆動車軸上にあるタンクの重量は車輪のスリップ防止に利用できる。
    • すり減ったタイヤはもってのほか。
    • 発車ができなくなったら、動けるまで前後にギヤを入れて車をゆする。でも動きはじめたら止まらない。
 注意はしても、大雪や氷雨では動けなくなる車が続出します。そんな車を見ると、カナダの人はどんな天候でも必ず飛び出して、車を押してくれます。車はちょっと力がかかれば動くからです。まず自分が注意をして迷惑をかけないこと、困っている人がいたらすぐ助けること。この心得は地震災害でも同じでしょう。


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