風のささやき

川縁で

電車が遠くへ走り過ぎて行き
その後はもう静かになった
夕暮れがせまってきている
もう山の影に夕日は
赤い色を残して沈んでしまった
どこか急いでいる風にして
(何に急かされていたのだろう)

ちゃんと目の前に
見えていたはずなのに
もう見えなくなってしまった
ものが一杯あって

飲み干してしまった
一杯のお茶程にも忘れてしまって
立ち上る湯気も直ぐに冷めてしまった

朝日から夕日に錆びて夜の闇へと
川の流れも見えなくなっていく

急に風が出てきた
すすきが動揺したように揺れる
肌が冷たさを予感している
星がもう瞬きを始めたところで
鳥はねぐらへと帰る
蝙蝠が闇に迷い始めた

僕は何を見てきただろう
僕は何を語ってきたのだろう
何も無いもぬけの殻のように
風が通り抜けるだけの僕は
ここで何をしているのだろう

自分が揺らいだゆらゆらと
火を流す川の流れにこのまま
燃え上がり流されてしまう生でもいいと
唇が何かを言いたくて言えなくて寂しい

少し遅れてついてきた
あなたが僕の手をとった
その手が温かくて僕は
体の感触を思い出すように

そうだね確かな物は何もない
全てが移り変わる場所に生きていて
その流れに身を任せている

明日へと一緒に渡っていこう
焦ることはない焦ることはないと
自分に言い聞かせている