風のささやき

陸橋のある風景

あれは僕が子供の頃からある古い陸橋で
どれほどの電車を支えてきたのだろう
それを自転車に乗せた子供と見ている

夕暮れの秋の風は少し涼しく
咳をする子供が「寒い」と言った

手を振るために
生まれてきたようなすすきが
動くものすべてを見送る
流れる茜雲を 道を急ぐ一人一人を
もちろん自転車で通り過ぎる僕を
流れてとどまらぬ川にも
別れの寂しさを告げることなく
すべてを押し流す時間にも

寂しさを感じるのが人なのだとしたら
なぜ人は寂しさを背負わされているのだろう
背にした子もやがては
大きくなり離れてゆくのに
その消えてゆく温もりの代わりに
寂しさは背中にしがみつき離れない

川の水面には淡い炎が流れている
大きな夕日へと電車が頭から吸い込まれてゆく
まるで働いた意味も分からなかった一日さえ
「お疲れさま」とねぎらうような
優しい手の中に包まれた夕暮れ時に

働き過ぎの電車もゆっくりと見えた
夕日を抜け出したときには
救われたようなホッとした表情をした
電車の中でうたたねをしている
学生も会社員もどこか温もっていた

力いっぱい電車に手を振る子供は
いつから人であることの
寂しさを知るのだろう

夕暮れの風よ 今は
この子には何も告げずにいておくれ

けれど寂しさを埋めてくれるものもある
その人たちの顔を見たくなって
急いで家に自転車を走らせる