僕の口が物言う言の葉奪われたとしたなら
動かない舌が言葉をあなたに
伝えられなくなるとしたなら
僕は最後にどんな言葉を選び
あなたに届けようとするだろう
きっと「ありがとう」か
「ごめんね」のどちらかだろうけれど
どんな熱を帯びどんな調子で
声震わせるのだろう
僕の重ねた年月を載せて
書かれてしまった言葉は
時として熱を伝えない
それが沢山の人に届くための
手段だと知ってはいても
いつの間にか書かれた言葉は
遠い記憶の化石になる
それを掘り起こす人の
腕の中で温められて震えだす
夢を見て目を閉ざす
願わくは黒光りする鉱石のような
胸の内に湧き起こる
言葉は一度きりの
あなたとの出会いに添えられた
あなたのために咲いた一輪の
白いカサブランカのように
その言葉あなたが素直に受け止めて
花の香に酔うように顔をうずめて
嬉しそうに微笑むのを見ることができれば
覚えなかったのかも知れない
僕は言葉を紡ぐこと
人に届かない言葉の戸惑い
僕の口から二度とは戻ってこない言葉
その誠実さを確かめるように
伝わらない言葉は僕の拙さの証と
反芻し検証する言葉は
いつか迷いの綴り字
体よく言えばそれを詩と呼んだりをして
拙すぎる言葉であれば
人を汚していく言葉であるのなら
風の中にたち一人で語り続ければいいだろうに
けれど言葉はいつでもあなたに届けたくて
僕はまた何かを言おうとする
おずおずとしながらも
叶わないことと知りながら
言い続けることだけが
あなたに届くことと信じて