風のささやき

あなたに結ばれるように

枯葉が枝を離れるように
言葉が奪われてしまうとしたなら
凍えた舌が最後にひとつ
選ぶのはどんな言葉だろう

「ありがとう」か
「ごめんね」の
どちらかだろうけれど

歳月を載せた言葉は
どんな熱に色づき
どんな調子で震えるだろう

それがあなたに
鮮やかに
開いてゆく言葉でありたい

   〇

書きとられた言葉は
熱を奪われ
記憶の地層に折り重なり
遠い夢の底に沈んでゆく

やがて掘り起こされ
腕の中に温められる日を夢見て

願わくは 言葉の強さが
虹の光沢を そっとまとって

   〇

胸に湧く言葉は
一度きりの繰り返し

あなたとの出会いに添える
白い大輪の
カサブランカでありたい

   〇

沈黙の大樹の木陰に
言葉はひととき
憩うことを知る

   〇

言い損ねた言葉は
後悔の水たまりになって
つま先を
いつまでも濡らしている

   〇

宛先のない封筒は
水色の涙の色をしている

書き損ねた便箋は
しょっぱく濡れて
燃やしても
青い炎が少し点るばかりで

   〇

僕の中に縛りつけられた
未来の言葉は

明るい朝に
解かれてゆくだろうか

まだ固く結ばれた
紐の結び目を指先でさぐりあてる

   〇

誤解なく届くのなら
桜吹雪に酔うように
しみじみと
隣り合えるのなら

けれど言葉は
迷子のように
口から離れては
誰の手も握れずに
途方に暮れて

誠実さを確かめたくて
反芻し検証する綴り字を
体よく言えば
詩と呼んだりする

   〇

あなたが頷き
僕の手を取ってくれた朝

言葉のしずくが
胸いっぱいにはじけた

レモンの酸っぱい光から
新しい胎動が兆した

   〇

拙いのであれば
傷つけしまうのであれば
風の中でひとり
語ればいいだろうに

けれど言葉はいつでも
あなたに届きたい
不届きもので

だから今日も
おずおずと
言葉を綴る

丁寧に
いつか
あなたの心に
結ばれるように

自分の言葉をいつももどかしく思いながら。Last Updated 2026/01

← 詩の一覧に戻る