風のささやき

ばら色のブランコ

小さな子供の
背中を押している
空がばら色に染まりかける頃だ

もう少し強くとか
もうこれ以上押すなとか
随分と厳しい注文だ

自分ではブランコを
上手く操ることはできずに
バタバタと空を蹴るばかり

上の子供も最初はこうだった
今ではすっかりと
背を押す必要もなくなって
一人で遊べるようになった

まだまだ肌寒い風
けれど陽ざしは春の色合い
季節を繰り返すうちに
その移り変わりの風合いを
感じられるようになって

また春は巡り来て
懐かしい友との再会のように
しみじみとする
凍てついたわだかまりが
ゆっくりほどけるようだ

子供の横に座った少女
瞬く間に描かれた大きな弧
恐れも知らず投げ出す体を
ブランコが受け止める
その挑戦と安堵の間に
どんな力学が働いているのか
遠心力や重力
そんな法則では説明ができない
風に自由な歓びが満ちる

少女の足は空に触れて
靴の先が茜色にそまる
その淡い炎を松明のようにともして
行ったり来たり
この世界にお裾分けする

少女を見守る子供に
その大きな弧の体
どれだけ雄大に見えている
そんな奇跡が溢れる公園で
子供は沢山の豊かさを身につける

それに引き換え
人に追われて 時間に追われて
奇跡など信じなくなった大人は
日々の現実に削られてゆくばかり

子供の目に映る世界を忘れたとして
心が震えることのない毎日だとして
せめて春の夕日に
しみじみと心の暖をとる
そんな休息があっても良い

僕はすり減りすぎている
子供が連れてきてくれた公園で
少しだけ元気になれた