雪が降る
雪が降る 暗い空の底で誰か綿を摘んでいるのか 細かい手作業の指先 その指先の忙しさに 合わせるかのように雪は濃さを増し 紛れ見えなくなって行く物 遠ざかり消えて行く物に目を凝らす 余韻は儚く 仄かに感じられていた温もりも 何故に多くの物の歩み去る まるでそこにあったことさえも跡形も残さず 僕が見ることを止めたら 本当に闇に飲まれて消えてしまう物 ーその僕の背中も誰かからは 雪に消えていく物として見えているのかも知れない 雪はだんだんと激しく降り 僕はますますと目を凝らし 懐かしい顔も苦い思い出も跡形もなく その歩み去った足跡まで消えて 僕の記憶も誰かの記憶と重なり あやふやになり自信が持てなくて ーあの人は一体どんな顔をして笑っていただろう とても好きだったのに 見逃せなかったその仕草ささいな癖も けれどその好きの言葉も嘘くさくさせる 虫食いのシルエット 忘れ去ることは冷たくて寂しくて 忘れ去られることの もっと冷たいことも知っているけれど それよりも冷たい雪の向こうの闇に すべては眠ろうとするのかもしれない 忘れ去られるための儀式の奥に 僕は何時までも目を凝らしていて