風のささやき

お化け

「俺お化けすごく怖いんだ」と布団の中で子供が呟いた
誰に対して言うとでもなくて
ちょうど昔話を語り始めた暗闇の中
山姥が登場したあたりでの事

「お化けのこと凄く考えちゃうんだ。細かいところまで
 だから怖くなるんだ」
そう言って布団の中に潜り込んだ
自慢げに笑いながらのことだったけれど

お化けがいるかいないかは
僕には断言はできないけれど
恐ろしさは人の心が作り出す
人の心の闇の中で蠢くそれは本当だ

一人眠る夜にぞっとした
自然と震えた体の芯に霜が降りた
心に湧き上がる魑魅が津波のように襲った
僕だけの実在僕が生み出した

街中にいて人ごみを歩いて沢山の人
交差点すれ違う人それなのに一人だった針の筵
亡き者にしたい僕を見つめる沢山の目は
僕の中から見つめる目だった恨みがましく僕の描いた

青く澄んだ空の下眩しい陽ざしに
包まれている暖められてられている
木々も語りかける風も楽しげに囁く花も香る
それなのに囚われ囚われて身震いする者に

そこから逃れる術はなかった
逃げようとすればするほど
目を背けようとすればするほど
逃げられない凝視せざるを得ない物がいた

君たちが生まれるずっと以前
君たちと一緒にいる未来のことなんて想像もまるでできなかった
息苦しい毎日に溺れ咳こみ涙流す毎日に僕は僕のお化けを想像して
身震いをしていたんだ笑い事にはならなくて僕自身がお化けのように青ざめて

そこから少しだけ解放されたように感じられるようになったのは
いつのことだっただろうか今は覚えてはいない
僕だけのお化けが少しその色を薄くして
ふと体の力が抜けた自然と笑えるようになった僕が不思議で

いま君たちに眠る前に本を読んでいる僕がいる
君たちの未来に思いを寄せる僕がいる
僕の心のお化けを駆逐しているのは確かに君たちだ
僕の心の中で君たちが大騒ぎで跳ねまわるからお化けの入る余地も無くて

君たちの心がお化けを作り出すのか楽しい話を作り出していくのか
それは君たちの心次第だでもそれを覚えるために必要な月日もある
お化けからは決して避けられないことがあるよお化けを見つめ続ける必要も
それでようやくお化けの正体を見極められるのだから

それが君たちに力をくれることもそれに負けない君たちであると信じている
だって僕にもできたんだ君たちにできないはずはないじゃないか
心模様は君が作ることその陰影が君の歩んだ道君の彩君の証
大好きだよ