風のささやき

一房の蜜柑

子供が持ってきてくれた一房の蜜柑
物欲しそうな素振りなど見せもしなかったのに
ありがとう
きっと美味しかったんだね
だから僕にも食べさせたかったんだ

僕は素直に口を開けていただくことにした
その小さな指先から
口一杯に広がった甘酸っぱい味わい
それは胸の中にも広がった
両方ともに味わっていた

その僕の様子を見て
すっかりと満足したように笑って
またテレビを見始めた子供
ほんの一瞬の出来事
子供にはありきたりの振る舞い

僕だけがこんなにも近くに僕のこと
気に留めてくれる人がいることが嬉しい

分け与えることはどれほど豊かだろう
分け与え続ける物は無いからお金も無いから
本当は温かい気持ち思いやりの気持ちで
僕の胸を一杯にして
それを素直に受け取ってもらえたら
どんなにかいいだろうに

人は拒んだり無視したり意地になり
恥ずかしさから自尊心から損をして
そんな損を繰り返し繰り返し
繰り返すうちに本当に素直に受け取る術を無くして

分け与えることも経験
受け取ることも経験を積んで
子供の指先の一房の蜜柑のように
心のままに分け与えられるように
素直に受け取ることができるように
その豊かさをいつでも感じられる自分であることを