風のささやき

夏の街角で

茜色に染まる夕空に
響く歌があった
灯りが点りはじめた
街角で歌う若い女性の声だ

切ないそれは恋の歌
届かない思いを歌にこめて
その人が目の前にいるように歌い上げる
ほろ苦い気持ちが気づかれればいい
その切なさを感じてもらえればいい

歌が終わっても 拍手はまばら
急いでいた耳に聞き取れたのは
断片的な歌詞にメロディー
それでも少し胸が温かくなった

どうして人は誰かを愛しく思うのだろう
うつむき歩く一人一人の胸にも
きっと思い描く人の姿があって

その思いを上手く伝えられずに
心ねじ曲げ苦しむこともあるけれど
愛しさは止まらない
その人に胸は温かくなる
それを素直に伝えられれば良い
そこにいつも幸せは触れると良い

次の彼女の歌が
夕空に溶け込んでゆく
胸を弾ませる姿が目に浮かぶ
今度は楽しげなメロディーで

星はまたたき始める
見上げる僕を愛しく思い
歌ってくれる人があるだろうか
誰かの胸の片隅に
温かいものを残せたことが
あったろうか
記憶の扉の奥を探す

きっとみんなが
歌い上げたい思いがあって
歌は上手くない
僕は詩をあなたに捧げる