とてもとても長い冬だった
窓の外には降り続く細雪
陽も閉ざされた空は
灰色に覆いかぶさる天幕だった
僕は泣いていた
いつまでも春の訪れの
音信はなかった
春を信じられなかった
一頻りの涙も凍えると
頬は冷たかった
笑い顔は忘れた
風景は雪に塗り込められて
誰もが嘘の優しさを
語るように感じた
一緒に呼吸をすることは
苦しさだった
向けられた黒い瞳に
敵意だけを読み込んだ
どうして僕を冬に置き去りにしたの
直ぐにでも抜け出したいのに
抜け出す方法も思いつかない
苦しみだけを糧に過ごせと言うの
憂鬱は波のように繰り返した
頭を垂れた重さに
顔を上げる気持にもなれなかった
けれどときどき
蝋燭のような灯りが心に点った
誰かがマッチを擦り
明かりを点そうとしてくれた
その温もりを確かに感じて
道標にして歩いた
その人に近づければ良かった
けれど寄り添えば冷たい
自分の体を恐れた
もう氷の国の住人だった
人を凍えさせる白い息
窓の外から家の燈を
羨ましく眺める人だった
僕は物語を綴った
その人のことを思い描きながら
寒さにかじかむ指先に力を込めた
春を待ち望む心の物語
その人はいつも揺るぎなく優しかった
冷たい言葉もいつしか熱を与えられて
物語は温もり桜色をした
凍った心は温かさをためた
氷の小川がほどけ流れるように
春はその心に訪れた
物語に綴った言葉は
桜のように一斉に開いて
鮮やかな桜吹雪の祝福だった
一人凍えてしまう冬に
寄り添い続けてくれた眼差し
火を点そうとしてくれた思い
それを見つけるための 物語は
ありがとうの遍歴だった