風のささやき

旅の終わりに

窓辺にはローズマリーの青い花
 その額縁から三日月がのぞき
  仄かに顔を照らされて こんな夜
   あなたのこと思っているよと
    寂しい唇の独り言

まだ口どけのよい夢を見ていた
  夏の夜 白いシーツをしっかりとつかみ
   見ず知らずの夢に踏み込む ときめき

白い巻貝の回廊を
 ラベンダーの花をたずさえて
  上ってゆく夢の中で
   あなたに出会った

古びた海の家の思い出
 バックを抱えた旅人は
  繰り返し寄せる温かな波に
   しょっぱい後悔をあずけた
    海の底深く沈めてくれればいいと

波の音が繰り返すのは
 その後悔をまた僕に返そうとするからか
  いらないと言うのに
   いつまでもしつこくつきまとう

空は鴎を縫いつけて
 いつまでも浮いている白い翼
  僕の目指した灯台は
   岬の先に一人ぼっちの大男のように
    寂しげに 海を眺めていた

旅に出たことの意味も失いかけて
 茫々とした潮風に吹かれ
  あなたの胸にまた眠ることを祈った

なぜいつもあなたは
 微笑を絶やさずにいられるの
  あなたの面影は
   旅する鞄にしのばせる栞

真っ白な手帳のページに
 旅の一言をしたためる
  あなたの胸に届けるための
   長い旅の遍歴を
    文字で埋め尽くそうと

あなたに会うことを
 恥じない心持になれたのなら
  すっかりと陽に焼けて
   乾いた草の香りがして
    あなたに声をかける
     もう ためらわない

あなたはその時
 夢と寸分違わぬ笑顔で
  僕を迎えてくれますか

あなたに戻るために
 旅に出ました
  あなたを愛おしむために
   旅に彷徨いましたと
    跪いて あなたに
     心から告げる