風のささやき

砂浜で

海の中では沢山の手が
 見えないところで繋がれ解かれる
  そのもつれあう手の隆起が波になる

離れる手 結ばれる手
 その凹凸に陽射しは流れ込んで
  海は表情を変えつづける絵のようだ

砂浜を歩く足を
 触りに来た手は暖かく
  押してくる力の思いがけぬ強さに
   よろめいてあなたにつかまった

それに驚くあなた
 よろけながらも僕をつかまえて
  今度は連れ去ろうとする手から
   守ってくれる

その踏みしめた証拠
 二人の足跡を
  消し去ろうと波がもう寄せて
   最後は白い泡で丁寧に消し去った
    
白い雲が空に広がっている
 海の先に見える半島
  その下の白壁の家の暮らし
    あなたと二人で
     海を見ながら過ごす
      穏やかな昼下がりを思う

つないだ手の先のあなたの帽子が
 突然の強い潮風に持ち上げられる
  あなたが驚いて帽子を押さえて
   それから笑顔にほどける

大切に思える
 あなたのことのすべて
  その仕草も話し方も笑い方も
   あなたといることの楽しさ
    そうしてきっと
     寂しさの心の軋みさえ

その時足元で砕けた
 波は高かった
  高鳴る鼓動を
   諫めるように
    その水しぶきは
     僕の顔を濡らした

それは暖かな
 頬を伝わる涙の跡にでも見えたのかしら
  あなたは不思議そうな顔をして
   海を背にして微笑んだ

なんでもないんだ
 ただ胸の高鳴りのように
  青空がどぎまぎとして
   その色を濃くしただけで

本当になんでもないんだ
 ただあなたが
  愛おしくて仕方がないだけで