風のささやき

名前を

金色の涙を流せと
 秋が命じたから
  木々はそれぞれの色に
   葉を染めて
    一斉に風に散らすのだ
     ハラハラと
      時折は乱舞 千々に乱れて

何故にそんなにも従順に
 従う必要があるのだろう
  秋の声に しかし僕らは
   その声を 内なるものとして
    宿している 自分を知ることになる
     それを 何故に今 耳打ちをする
      風が吹くのか 誰にともなく
       湧いてくる 憤り

それは寂しさ以外の
 何物でもない
  終わりを実感として
   足音として確かに
    耳にする僕は
    
あなたの名前に 殊更に
 すがりたくなる
  あなたの名前だけが 暗闇に浮かんで
   その名前を ささやく
    まるで 水の中に
     引きずられるものの あがき

けれど その人の名前を呼ぶこと
 そのためにどれだけの
  長い時間を耐えて
   透き通った声で
    何も求めず
     呼びかけることができるのか

求めるとしたならば
 その最上の笑顔
  ただ嬉しく笑う
   それは 白いカサブランカの
    香りがする

どれだけの準備を 僕はしてきたのだろう
 あなたの名前を呼ぶために
  あなたの笑顔を祈るため
   その瞳に 見入りたい
    けれど 僕の声はしわがれて

秋
 人はそれぞれの戸口に立ち
  秋
   それは戸口を
    激しく打ち鳴らす
     
秋
 その入り口に人は迷い
  秋
   その訪れに人は冬支度を始める

できることならば成熟の秋として
 戸口を金色に染め
  金色の微笑を浮かべ
   金色の羽根を生やし
    金色の心をあなたに捧げる
     捧げ尽くす
      ただそれだけを喜びとして

何も言わずに
 側にいてくれる人の温かさ
  そのありがたさに 頭を垂れる
   泡になって消えてしまう
    僕をこの世につなぐ
     その名前を

まるで初めて
 呼びかけるように
  呼ばせて欲しい
   嬉しい
    笑顔が
     愛しく
      眩しく と