風のささやき

白い街並みに

その小さな
 手を引き引かれ
  初めて歩く
   異国の街並み

登って行く坂道は
 青い空の先にまで
  僕らを誘うよう
   どこまで
    歩いて行くのだろう

白い時計台は
 後どれ位の時を刻み
  僕らの歩みを
   祝福するのだろう
    呪わしい時の数々に
     顔を変えなければいいと

あなたが手にしたお土産は
 とぼけた顔の人形で
  その顔に笑いだす
   いつまでも楽しい
    僕らであるようにと。

白い街並みは
 その全体が
  大きな花入れのようで
   鮮やかな花が咲く
    その色彩が良く似合う
     例えば太陽に燃える赤い花

それは隣を歩く
 あなたの黒い髪にも
  手折って飾りたい
   あなたにお似合いの
    花飾り。

木漏れ日のベンチ
 口にした珈琲が
  少し濃く苦く感じられた舌は

言葉を探す
 葉書を埋める指先が止まり
  そのまま手を止めて
   空を見上げたその人は
    また珈琲を飲んで舌を休めた。

つないだ手のひらから
 流れて来る温かさ
  以上を
   必要としないのならば
    言葉はどれだけか
     もどかしく感じられる

風のようにただそこに
 流れるものを心に
  受け取るだけの幸いは
   知らない風景の先に
    足を進める力

青空の先に消えて行く
 石の坂道の終わりまで
  ああ 坂道の上の教会の
   十字架の先に陽が灯る。

いつから僕の手の中に
 あなたの指先は
  深く根を生やしたのだろう
   そこから吸い上げられるものと
    そこから流れ込んで来るものと
     あなたの手をもう
      離せないでいる

その小さな手を引き引かれ
 初めて歩く
  白い異国の街並みに