風のささやき

透き通ってしまいたい人

静かに透き通ってしまいたい人よ
手を伸ばしてその体に触れようとすれば
指先から通り抜けてしまう人よ
青空がその体に透けて
白い雲が悪戯に浮かんでいる

この世から透き通ってしまいたい人よ
青い雨のように終ることのない涙
ハラハラと零している人の
透明な肌の上には涙の跡が
血管のように青白く腫れ上がっている

透明になって消えてしまい人の
鼓動が高く鳴っている
否が応でも反応をする心臓は
他人からの借り物のように収まりが悪く

この世にあるにはあまりにも
出来事を痛ましく映し出す
瞳が目の奥底から疎ましい

その怒りを誰かへではなく
自分の喉下へと
つららのような切っ先として向ける
透き通ってしまいたくて
青白く点滅する人はいつでも優しく
自らの痛みに苛まれている

穴の開いた気管をヒューヒューと鳴らし
木枯らしのような溜息を漏らしている
眠ったまま透き通ってしまいたい人の
体は芯から凍てつき

四葉のクローバーを抱え
毎日に願う
綺麗さっぱりとこの世から
消え去ってしまうこと
生まれてからのすべての足跡
誰の心からも跡形もなく

風にまぎれ
透き通ってしまいたい人に
大きな力が与えられますように
春のように優しい手に癒されて
鎮まった心臓は桃色の鼓動を奏で
口一杯に咲く陽光の花びらが
暖かな言葉に紡がれますように

やがてこの世にしっかりと立つその足が
大地に深く根を伸ばしていく時に
静かに透き通ってしまいたい人はこの世の慰め
大きく育つその心は優しい春風のように流れ出し
いつしか静かに透き通ってしまいたい他の人の心
そっと抱く大きな力になるから