昼下がりの虫
秋の昼下がり 力を無くした陽射しの中で 年老いた虫が鳴いている 乾いた咳のようにも聞こえる 和紙のこすれる 音のようにも聞こえる 子供のいびきにかき消されるほど か細い ○ 虫は焦っている 今年一度限りの許された命だと 体の芯から警告が発せられるから 何をおいてもまずは鳴いて おかなければと鳴いている ○ ススキの葉の裏で鳴く 虫の姿を思っている 何故にそんなところに身を隠す 悪いことをしているかのように ○ 孤独相のバッタの銀の涙を 集めてまわる天道虫は太陽の使い ○ 秋よもう少し待ってはくれないか 泡沫の穏やかな午後にまどろんで ○ 月がいつの間にか空に突き抜けて そのお供の星よ 人よりも長く きっと虫は君たちを見上げてきた ○ 真剣味が違う何もかも 来年の秋も生きながらえる 根拠無き確信を持つ自分とは ○ 人はどんなにか鈍感だろう 自分の生の長さについて 自らの終焉について