昼下がりの虫
秋の昼下がり 力ない陽射しに虫が鳴く 年老いて乾いた咳にも聞こえ 和紙のこすれる音にも聞こえる 子供の小さないびきにも かき消されるほど弱々しい ○ 焦っているのか 虫は 短いときを許された命と 体が警告を発し 何をおいてもまずは 鳴いておかなければならないと 鳴いている ○ ススキに隠れて鳴いている 虫の姿を思う そんな寂しい場所で歌うのは何故 まるで後悔を口ずさむように ススキは風に懺悔を繰り返す ○ 孤独相のバッタは銀の涙を流し 用心深く 草むらに黙る その涙を集めてまわる 天道虫は太陽の使い 空に向かってその嘆きを届ける ○ 秋よ 待ってはくれまいか 心ゆくまで 虫が歌い尽くすまでを もう少し ゆっくりとした歩みで 太陽の泡沫も穏やかな 午後をまどろんで ○ 月が空に目立ってきた そのお供の一番星よ 虫は君を見上げる 真摯な歌を捧げる 命を焦がし どんな気持ちをこめて ○ 何もかもが違う 歌は切実 生きながらえて 来年も 秋を迎える 根拠無き 自信を持っている 僕とは ○ どんなにか みんな鈍らせようとして 自分の生きられる長さ 自らの終焉について を