風のささやき

雪の朝に

どぶ鼠のように背中を丸めて
灰色の毛羽立つコートで
電車の椅子に埋もれている
寄りつく者もない
冷たいガラスケースのオブジェのように

体は芯からだるく
毒を塗られたように
喉はヒリヒリとする
うす汚れた涙で目はぐちゃぐちゃだ

窓の外には今朝から降り始めた雪
横断歩道をぼやかして
裸の枝は冷たさに震えた
白い湯気のような息に
電車に乗り込めば眼鏡が曇った

ガタガタと電車が跳ねる
凍ったレールに触るのが嫌なのだろうか
それとも鉛のように重い僕を
不愉快に思ってのことか

首筋があまりにも寒く
閉じていた目をそっと開いて
隙間風が来る方を追った

胸の中に閉ざされていた感覚が
目を覚まし外へ流れ始める
目を開けばこんなにも明るさがある
それなのに脆弱な心は
そこで挫けている
目覚めれば毎日は泣きたい気持ちで

それでも良いのだと
頭の中に告げる声がある
苦難の絶えぬ生だ
ひとときは心を休めてと
見たくなかった世界を
雪は静かに塗りつぶしてくれる

知らぬ間に両の手に
御仏のしなやかな指が
舞い降りて合掌をしている
ありがたい
まだ祈りたい根っこがある

いつからか
機能不全をおこしている心に
凍えながらも印を結ぶ
指先の素直な願いを
受け入れるように告げてみた
雪の朝のことだった