風のささやき

嵐の音

「ねえ、嵐の音がするみたい」と
あなたは僕の 耳元で囁いた
それから体全体を 鼓膜に変えて
外の気配に 聞き入っていた

遮光カーテンの 隙間から
朝の光が 漏れてくる
初夏の青白い 影の部屋で
嵐のような音を 立てていたのは
ほんとうに外で
風が強く 騒いでいたから
それとも あなたの胸の内が
激しい何かに 揺られていたから

僕もあなたを真似て
鼓膜のように 聞き耳を立てた
あなたのようにはうまく
息を潜めることが できなかったにせよ

あなたの耳に うずまいた嵐が
僕には 聞こえなかった
僕の頭が日曜の 朝の眠気に
モルヒネのように 麻痺していたから
それとも僕の知らない 世界の音を
あなたは耳にしているの

あなたの背中が
急に遠ざかるように思えて
僕は 寒くもないのに
小鳥のような 身震いをする
確かに 僕の胸にも
あなたの聞かない 嵐が吹きすぎた

「ほんとうに嵐の音がするね」と
小声で 僕はつぶやいてみる

「ね、そうでしょう」と
安心したように あなたは言葉を続けた