風のささやき

雨上がり

街に突然 雨をもたらした黒雲は
君の髪を濡らし 僕の眼鏡の縁を濡らし
どこへ走り去ったのだろう
悪戯な子供の 脚のような無計画さ
あるいは悩み無き 無邪気さに

すっかりと 泣いていた空も
喉もとの熱さ忘れて
澄んだ青さを 潤ませる
明るさ強くする 新鮮な夏の光りが
黒い地面を まばゆいばかりの
水銀の水溜りにする

雨宿りにと 走りこんだ見知らぬ公園
小さな木陰の繁みは 穴だらけの雨傘
濡れてしまった 肩の冷たさ
乾かしながら 小さな虹が
やがて空 渡っているのを
最初に見つけたのは 君

僕の夏服の袖を引き 空を見上げた
その瞳には 七色のプリズムの光り
きっと 溢れだしていたに違いない

(あれは ありふれた午後の
 ゆっくりとした僕らの 歩みのよう
 何も思わず 穏やかに空を渡って行く
 口元からこぼれる 楽しい歌の小節が
 綺麗な色の航路 曳きずっていくように)

芝生の上にも 水銀のしずくの銀の粒
湿った空気 胸一杯に僕は吸い込んで
まだ七色の印象に 透き通ったままの
美しいあなたの背中に
小さな一歩を歩き出す
手のひらを当てる

あなたの心に届いた
きれいな夏のかけらを
壊さないように そっと